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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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090: 超初級ダンジョン① ~修業の一部始終~



 私は剣を振っている。


「ふんっ、ふんっ!」


 今回は夢を見ているわけではない。

 スライムの混合スタンピードの日に見た夢と違って、いい天気の下、両手でしっかり剣を握り、一生懸命に振っているのだ。

 本日はギルドがお休みだ。だから町の外に出てぶんぶん振っている。

 休日いつもこんなことをしているわけではない。

 私の能力値で二番目に低い「力」の値をもっと上げるため、今日はがんばってみようと重い腰を上げることにしたのだ。

 一番低い「耐久」はどう上げるかという問題はあったけど、上げる方法がなかなか思いつかず、とりあえずできること――「力」を上げることからやってみることにしたわけだ。


 ブンッブンッ!!


 剣を上から下に同じ速さで振る。

 手に持っているこの剣は、私の部屋の片隅にずっと置かれていたあの剣だ。

 埃が積もりぎみだったので、拭いてから腰に吊って城壁外まで歩いてきた。


 ブンッ、ブンッ!


 剣を上下、同じ剣筋になるように振る。……んだけど、毎回ブレるなぁ。

 剣は今より小さい頃に買ったので、当初は大きいと感じていた。

 今こうして見ると大きさや長さはそこまで圧倒されないものの、こうやって振っていると重さは十分感じられる。だんだん疲れて……いや、続けるんだ!


 ちなみに剣を腰に吊った姿をコトちゃんに見られたとき、「その剣、部屋の飾りじゃなかったっすね」と驚かれ、城門の門番さんに「腰に気をつけろよ、帰れなくなったら大変だぞ」と注意された……。

 収納魔法があるのになぜ腰に吊って歩いたのかというと、剣を吊る帯も剣と一緒に買い、こちらもずっとほったらかしにしていたからだ。今こそ使わなければまた機会が失われてしまう、と腰に巻いてやってきた。


 ブンッ、ブンッ……ブンッ…………。


 何だか腕がしびれてきたし、速度も落ちてきたけど頑張ってなるべく同じ速さで振ろうと心がける。

 別に、剣も上達して魔物をバッサバッサと斬りたいわけではない。せっかく『鑑定』スキルによって私の弱点がわかっているのだから、克服する努力をしたいのだ。


 フンッ……トス。フンッ……トス。


 剣を……持ち上げるのが、疲れてきた。

 だから振り下ろすときは力を抜く。すると、どうしても切っ先が地面に刺さる。そのむなしい音を聞くともっと力が抜けていった。

 ――ふう。疲れてきたなぁ……。

 一旦休憩にしよう。


 近くの木の幹を背もたれにして座った。

 修業場所にはアーリズの町から出た南の森――ビギヌーの森を少し入ったところを選んだ。

 一人でひっそり剣を振れそうなところで、スタンピードの鐘が聞こえたらすぐ帰れる場所だ。

 ビギヌーの森は、もう少し奥へ進むと超初級ダンジョンがある。低ランクの冒険者が主に使う場所だけど、出入りはそう激しくないからこの辺は静かだ。

 誰にも邪魔されず、自分の思うとおりの修業ができるだろう。


 現在私の「力」の値は318。

 最近何をしても――物置部屋の片づけをやっても、スタンピード戦に参加しても上がらない「力」は、本日この剣の素振りで上がってくれないだろうか……。


(よし、また剣を振ろう!)

 今度はテーブル山ダンジョンに向かって剣を振ろう。


 ブンッ、ブンッ!


 木々の隙間から、堂々とそびえたつ姿を見せるテーブル山ダンジョンには、奇麗な虹が出ていた。

 晴れているのに虹が出ている。――この町に来るまでその噂は聞いたことがあった。

 半信半疑だったけど、間違いなく起きているし、今日が初めてでもない。


 ダンジョンというのは内部に魔物が徘徊しているだけではなく、外観でもこのような不思議な現象が起こる。

 中~上級のダンジョンでは特に現れる。

 例えば私が旅をしていた頃に訪れた場所だと、森のダンジョンで夏に突然葉が枯れる現象があったし、洞窟のダンジョンでは日によって入り口の形が変わるなど、普通では考えられない現象が起こったのだ。

 だからこの虹も、そういう類の不思議現象なのだと思っている。


 ――さあ、それよりどんどん振っていこう。

 飽きるまでやってみよう。そして疲れたら休もう。

 今日のお昼ごはんは何にしようかな。

 ……いやいや、集中集中。


 ブンッ、ブンッ。


 二回振っただけで少し疲れを感じてきたけど、それでも景色を見ながら振ると、疲れを意識しづらいのだと思う。まだ続けられそうだ。

 よーし、もっと力を入れて振ってみよう。


 ブンッ、ブンッ、ブンッ。


 ……はぁ、やっぱり疲れてきた。

 また休も……いや待てよ。こういうふうに疲れたときこそ続けるほうが「力」が上がるような気がする。

 もう少し……がんばってみよう。


 ブンッ、……ブンッ、……ブン、サク。


 最後の『サク』は地面に剣の切っ先が刺さった音だ。

 私の力はまだ変わってない……。1くらい増えてもいいのに……。

 じゃあ、とりあえずここまでにして腕を休めようかな、と思ったときだった。

 少し遠くだけど、人が近づいてきた気配を感じた。

 誰か知っている人かな、とその方向を向き『探索』スキルも展開した。

 近づいてきたのは私の知っている子たちだった。


「「「シャーロットさーん!」」」


 三人一緒に叫んでいる仲良しパーティー『キラキラ・ストロゥベル・リボン』だ。

 後ろに孤児院の冒険者パーティーもいる。

 ……どうしたのだろう。今日は孤児院で勉強を教えるのではなかったのか。まだ昼前の三の鐘も鳴ってないのに。

 昨日の夜、コトちゃんたちは明日からの授業内容や時間配分を楽しそうに決めて、今日の朝は熱意を感じる笑顔で家を出たというのに。

 それにコトちゃんたちだけではなく、全員すごく焦っているようだ。


「シャーロットさん! 大変っす!」


 息を切らしてこちらにやってきたコトちゃんは、開口一番にこう言った。


「孤児院の子が一人、行方不明なんっす!!」



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