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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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086: 呪いの絵画③ ~肖像画~


 サブマスは遠慮なく水魔法を撃ち込んできた。

 でも私の障壁は、大量の水を浴びて向こう側が見えにくくなっただけだ。


「サブマス! ギルドで攻撃魔法を使ったらだめですよ!」


 床が濡れたじゃないですか。向こう側が見えにくいけど、それはわかる。


「シャルちゃん! 早くこの障壁を消しなさい! そして、しょうか……漬物石を出しなさい!」


 サブマスは、私が召喚石を大事に持っているように見えたのだろうか? あ、この布を丸めて持っていたから石に見えたのかも……?

『召喚石』を『漬物石』と言い直したのも、一階にいる人たちにわかりにくいようにしたのだろう。まだ冷静さが残っているようだ。

 しかし今度は、ギルマスが気合の入ったパンチを繰り出そうとしているので、大声で止めた。


「待ってくださ~い!! 石なんてありませんよ! 絵ですよ絵! そしてこれは布です。ほら、収納魔法に入るから召……じゃなくて漬物石(・・・)ではありませんよ」


 絵をくるんでいた布を収納魔法に入れ、目の前にいる二人にその絵を見せた。

 もちろんしっかりと掴みつつ、しかし大事に、やさしく、絶対落とさないように! 二人によく見えるように正面に立って掲げた。

 重くないけど、金額を考えると手がぷるぷるするから、早く戦闘態勢を解いてほしい。床に落としたら大変だ。


「何だと?」「……絵?」


 召喚石は収納魔法に入れることができない。

 ギルマスとサブマスが揃って事態を飲み込んだところ、その二人の後ろから震える声が聞こえた。


「え……あの、石……ではありませんの……? 灰色で重い石とおっしゃるから……わ、私、てっきり……あの危ない石が屋根裏にあったのかと……。はわわわ……っ」


 内股になってぷるぷる震えるメロディーさんの声だった。私もギルマスもサブマスも、思わず彼女に注目する。

 フェリオさんまで騒ぎに気づいたのか、「何事……」と様子を見に来たようだ。


(カウンター大丈夫なのかな。というか、私そんな――石がどうのとか言ったっけ……?)


 メロディーさんは眉尻を下げて腰を直角に曲げる。

「わ、私……、も、ももも申し訳ありませんわ~~っ」


「いえっ、私も言葉足らずだった……ような? と、とにかく『灰色の布にくるまった絵』ですよ。ややこしいことを言ってしまってすみません」


 彼女が泣きそうになったので、私は急いで謝り返した。


「……とにかくだ。石じゃないんなら障壁を消してくれ」


 ギルマスたちの怒りが収まってよかった。

 障壁を消すと、四人とも足元の水に気をつけてゆっくりと入ってきた。


「――この部屋に屋根裏なんてもんあったのか」

「やっぱりギルマスも知らなかったんですね」


 知っていたらこの物置部屋を更衣室にしようとは言わないか……。

 四人に絵を見せるため、台にしていた障壁を斜めにし、絵の下を支える障壁を設置してから絵を立てかけた。

 これで私の腕も震えないし、絵が落ちることもない。


「で、その絵が上に置いてあったということかい。それにしてもこの絵は…………」


 サブマスが絵を見て黙り込む。

 それはそうだろう。『フォレスター王国国王 ナオ陛下』という絵の題名は『鑑定』を持っている私しか知ることができないけど、誰が見ても、どなたが描かれた絵なのかおのずとわかる。


 その絵は、胸から上が描かれている構図で、左横を向いた黒髪の青年が描かれた肖像画だった。

 金糸の刺繍がされたかなり立派な服を着ている。


 髪の長さは肩につくくらいで、サイドはそのままに後ろを一本に縛っている。その髪の部分がこれまた本当に細かく、一本一本丁寧に描かれていた。


 顔の彫りは深くない――この辺では見ない涼やかな顔立ちで、眉はすっと伸びて唇は意志が強そうに引き結ばれている。


 目はやはり黒目で、ずっと遠くのほうを見ているように感じた。かといってぼうっとしている印象はない。こそこそ近づいたらすぐ気づかれそうな雰囲気だ。

 襟で少ししか見えない首からは、鍛えていたように窺える。劇などの物語で知られるように、たび重なる苦労をして建国したという強さがにじみ出ていた。


 つまり、威厳のある若き王の横顔――確実にあの有名な召喚勇者王の肖像画とわかる一枚だ。

 前世の「写真」のような繊密な絵のおかげで、おそらく実際にご本人を見て描いているのではないかな。

 ということはこの絵……ほぼ五百年経っているということか。

 においや絵の具の見た目から油絵だろうけど、保存場所や包んでいた布のおかげか、剥離などの傷みのない奇麗な状態だ。


(――――この顔、どこかで見たことが……)

「こ、この絵…………」


 私が思い出そうと考えていたところ、フェリオさんが珍しく顔を青くして一歩下がった。いや、床が散らかっているせいで飛んでいたから、ふわりと下がった、かな。

 フェリオさんが絵を査定しているのは見たことないからたぶん専門外のはずだけど、この絵の価値にうすうす気づいたのかも。さすがに恐れおののいたのかもしれない。


 そりゃあ、こちらは白金貨二万枚の価値のある絵だ。えーと、この価値をどう表せばいいのだろう……。

 いつもパテシさんのところで買っているケーキが……待って、計算が追いつかない。ケーキを一日三回必ず食べたとしても、一年食べてもまだまだ余るし、二年目……いや、そんな例えよりも、フェリオさんの持っているめちゃくちゃ高いペンが……って、これもわかりづらい。え~と、国家予算……みたいな?

 とてもじゃないけど私が一生働いても無理な金額! だね。

 ――とそのとき。


「おいおい~! 言っただろ。あの石関連の情報はこっちに回せって。どこにある。ぶっ壊すから出せ」


 皆で絵画鑑賞をしていたところに、呼んでもいない黒いお客様がいらっしゃった。しかも勘違いしている。

 しかし、ちょうどいいところに来てくれた。

 さあ、横顔を見せてくださいよ。あなたのご先祖様とどのくらい似ているのか確認したいです、放蕩王子様。



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