085: 呪いの絵画② ~包まれた物~
この部屋に屋根裏部屋があったとは……。全く気づかなかったなぁ。
中はどうなっているのかな。お宝がごっそりあったり……は、『探索』スキルで確認したけど屋根裏内には何もなさそうだ。
しかし他にも『探索』を回避する布で隠していることもありえる。実際、屋根裏入り口に少し見えている布は、『探索』スキルでは表示されないのだから。
私はわくわくドキドキとしながら、屋根裏に行くための梯子を下ろすことに決めた。
でもその梯子は折り畳み式で、屋根裏の内側に取り付けてある。私の身長では跳ねても届かない。
梯子を引っかけて下ろせる棒のような物はないだろうか……。
(ないなぁ。……ん、あれ?)
その代わりに、今回屋根裏部屋が見つかった原因を発見した。
屋根裏部屋へ続く扉の施錠ボタンが部屋の奥の壁に、それも床近くに、隠すように取りつけられていたのだ。
おそらくマルデバードがギルドに突進してきたとき――あるいはもっと前かな?
わからないけど、ここ最近の振動で屋根裏への扉が開いたのだろう。
さて、じっくりと部屋を見渡してもやっぱり梯子を下ろせる物はない。かといって屋根裏探索は諦めるのはまだ早い。次の手を――障壁魔法を使おう。
私は何枚か適度な大きさに出して、床と水平に、階段のように段差をつけて配置する。自分の障壁魔法で足を滑らせないように、踏みしめながら上がった。
そのまま屋根裏に入ろうと思ったけど、これから調査などで行き来するかもしれない。
まず屋根裏に取りつけられた梯子を下ろそう。
「さて、ん? ……ふんっ!」
梯子の足の部分を掴んで下ろそうとしたら、思ったより力が必要だった。
ガラガラ、ガキッ、ガラッガラッッ――。
少々引っかかりを感じたけど、梯子の足部分を下ろすことができた。足は床に着くことなく、床から人のひざくらいまで浮いている。
手で引いてもうんともすんとも言わないから、梯子はここまでの長さなのだろう。……きっと。
そのとき、この部屋にメロディーさんが入ってきた。
「シャーロットさん。下が空いているので、こちらの部屋を少し手伝ってきなさいとフェリオさんが……えっ、このお部屋、屋根裏部屋がありましたの?」
「びっくりですよね。私も初めて知りました」
私はもう一段、自身の障壁に上がって屋根裏部屋を覗いた。もちろんこんな仕掛けがあった部屋だから、その前に何か罠がないかも『探索』で確認済みだ。
屋根裏部屋は窓がないせいで暗く、ほんの少し先でも真っ暗で見えない。だから『探索』スキルと『鑑定』スキルを一緒に使ってみたけど、私が最初に見つけた物以外は何もなさそうだ。
(他にも何個かお宝が隠されていると思ったのに……)
この一つの宝を隠すためだけに、屋根裏に隠したのかな。
「ということは……これはまさか、かなりのお宝……?」
「何かありますの?」
「たんさ……じゃなくて」
危ない危ない「『探索』回避の布」が……と言うところだった。『鑑定』スキルの結果をそのまま言ってはいけない。
「黒っぽい、んー、濃い灰色の……(布に包まれて)」
「はあ……」
いやいや、肝心なのは布より中身だった。
「硬い(四角いなぁ)」
「……え……」
布を少しめくると『鑑定』により、いや『鑑定』せずとも感触で絵画であることがわかる。
布を取ってよく見ないと詳しくはわからない。一度下ろして、明るいところでじっくり見よう。
「お、重っ」
「……ま、まさ……か」
絵にしては重いなぁ。
「石……(石に絵が描かれているとか)?」
「……た、たいへ……!!」
あ、重いと思ったら、布が床のけば立っているところに引っかかっていただけだ。暗いからわからなかった。
ここを外してっと……。
よし! これで下ろせる。
「――メロディーさーん。下から支えてもらっていいです……あれ? メロディーさん?」
さっき来たばかりのメロディーさんがいない。
そういえばさっき「大変ですわ~」と叫んでいたような……。
何か大事な用事でも思い出したのかな。部屋のドアも開けっ放しだ。
ま、いいや。気をつけて下ろそう。
灰色の布にくるまった絵画だ。まず入り口に引っかからないよう慎重に……、いや、収納魔法に一旦入れて下りたら出そう。そのほうが何にもぶつかる恐れがない。
収納魔法には、すいっと抵抗なく入った。
どうやら回避するのは『探索』スキルの効果だけのようだ。助かった。
階段障壁から気をつけて下りて、障壁を一枚のみ残してあとは消す。残った障壁を水平にしたままテーブルくらいの高さに調節して、上に再度出した絵画を置いた。
いったい何の絵だろうか。『探索』で見つかってほしくない絵とは……。
よほど長い時間置きっ放しにされていたのか、布の上に埃が積もっている。上になっていた部分と下になっていた部分の布の色が違うのだ。上が灰色で、下は黒い。
「げほげほ。でもこの布って、すごいなぁ」
何がすごいのか。
「『探索』回避の布:かぶせたりくるんだりして使用する。この布の中身を意識しながら『探索』スキルを使用しても、布を通すかぎり確認しづらい。光、火、水に耐性がある。」
と表示されているのだ。
三種類の耐性を持っている布だなんて! ダンジョンのお宝でもそう出てこない代物だ。
……まぁそれは、あとあと!
中身を確認しなければ。
布の効果がすごいのだから、よっぽどの物に違いない。
「どれ……」
慎重に、ゆっくり布を開いていく。
横の長さは、屋根裏部屋から出し入れできる長さで、私の肩幅より少しあるくらいだ。縦に長い長方形の絵で、大きな絵とは言えない……けど…………。
「ん……? ……え、えっ!! こ、これはっ…………!!!!」
こういうのは何と言うのだろう。
――世紀の大発見!
に、なり得たりしないかな。
その絵の題名は、
『フォレスター王国国王 ナオ陛下』
フォレスター王国ってもちろんこの国だし、『ナオ陛下』って、誰でも知っているあの勇者王のことだよね。
…………。
ど、どうしよ……。
そして、おいくらかも『鑑定』スキルでよくわかる。よくわかるけど……。
白金貨……いーち、じゅう、ひゃく、せん、ま…………。
……よ…………よ、よよ予想のはるか上の、どエライ物を発見してしまった!!
「シャルちゃん!」
「シャーロット!!」
ドアがバタンと開く音と一緒に、先頭にサブマス、すぐ後ろにギルマスがこちらに向かってくる。すごく険しい顔だ。
ちょうどいいところに! こういう大きなことは上に相談だ。
しかし、はて? なぜ、そんな顔をしているのだろう。
「ギルマス~、サブマス~! とんでもない物を発見してしまいましたー!」
とんでもない物――絵画のことを伝えたくて二人を呼んだ。それなのに――。
「そのしょうか……漬物石から離れなさい!」
「シャーロット、本当にあの石なんだな!?」
二人は何か勘違いをしている……のかな?
漬物石って言いました? なぜに?
このままでは、この絵に突進してきそうだ。よし、ドアの前に障壁を張ろう。
しかし障壁を張ったことでサブマスは「石はポイして部屋から出なさい!」と、障壁を叩いて怒る。
私が「ポイッは、無理です! 絶対!」と焦ると、今度は魔法を発動させ始めた。
私の障壁を壊そうというのだろうか。
って、「捨てるのは無理です」だなんて、言葉を選び間違えたかな??
とにかく、この絵は白金貨二万枚もする名画――!
二人の誤解が解けるまで、私がこの絵を全力で守らなくては!
……というか、なぜこんなことに!?




