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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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083: 指名依頼③



 アーリズの南側のとある敷地に、いつも以上に元気で明るい声が漏れ聞こえている。


「こんにちは~、お邪魔しまーす」


 私は待ち合わせ場所であるピーセリア孤児院にたどり着いた。

 孤児院のドアを開けると、コトちゃんがにこにことやってくる。


「シャーロットさーん! いらっしゃいっす、お待ちしてたっす~。さぁさ、どうぞっす」


「おいーっ、ここはコトねーちゃんちじゃねえだろ。――シャーロット、入れよ!」


 それを見ていた赤い髪の男の子が、呆れた声を出して私を招いた。

『キラキラ・ストロゥベル・リボン』たちには孤児院で昼食兼話し合いをするために、先に買い物をしてから向かうようお願いしていたのだ。


 彼女たちにお金を多めに渡して、孤児院の子供たちにおかず程度のお肉を買ってもらい、余ったらそのお金で三人のお昼を買っていいと伝えていた。

 甘いのかもしれないけど、同じ家に住んでいるせいか、私は妹たちができた気分になっているようだ。

 お金にしたって、孤児院の子供たちの人数がどんなに多くても、安いお肉を買ってもらうのだから懐は痛まない。


「コトちゃん! もっかいー、もっかいキラキラしたの見せて!」

「いいよー! “キラキラ・リン♪ ボクらを守って!”」


 シャラシャラキラキラと音を鳴らしたコトちゃんの障壁に、周りの小さい子たちがきゃっきゃと喜ぶ。

 ワーシィちゃんとシグナちゃんは、食材が載ったお皿を、孤児院の年長の子供たちとそれぞれのテーブルに置いていた。

 子守りと料理をうまく分担しているようだ。

 もう打ち解けているなら、これから話し合う指名依頼もきっといい方向にまとまるだろう。

 院長さんが私に気づきやってきた。


「シャーロットさん、いらっしゃい。こんなにいただいて申し訳ないです。――さぁ皆、シャーロットさんにお礼を言って! 今日のお昼はシャーロットさんからいただいたものですからね」


「はーい! シャーロットさん、ありがとうございます!!」


 孤児院の皆に元気な声で、それも目をキラキラさせ満面の笑みで、お礼を言われた。


(こんなに元気にお礼を言われるなんて……。最近お肉を食べれてなかったのかなぁ。……ん?)


 子供たちの食卓とは少し離れたところにあるテーブルへ案内され、院長さんの隣に私、その向かいにそれほど時間を置かず『キラキラ・ストロゥベル・リボン』も座った。のだけども……。

 テーブルに置かれた調理用魔道具とお肉の量に、目を疑った。


「あー! おにいちゃんったら、もうおにく焼いてる!」

「うっせ。焼いてるだけだからいいだろ」


 孤児院の冒険者パーティーのリーダーが待ちきれなくて手を動かし、それを見た彼の妹が怒っているようだ。

 院長さんは彼を叱るも、私は「あ……どうぞどうぞ……皆おなかが空いているみたいだし、もう食べちゃいましょう」と動揺しつつ先をうながした。

 二十人近くいる子供たちは「うおおおお!!」と、一斉に肉を焼き始める。


 さて、なぜ私は驚いているのか。

 それは、三人に少量の(・・・)お肉を買ってもらう予定だったのに、テーブルには大量の(・・・)お肉とおまけ程度の野菜が置いてあったからだ。

 バイソン系が多いけど、シープ系、バード系、オークなどたくさんの種類の肉が適切な大きさに切られ盛りつけてある。

 つまりこんな普通の日の昼に、焼肉パーティーが始まっているのだ。私はなぜこんなことになっているのか、買った本人たちに聞いた。


「あれ……コトちゃん、お金足りたの? こんな量のお肉を買えるほど、渡してなかったと思ったんだけど……」


 まさか、手をつけていないお金――以前騎士団長さんから受け取らされた(もらった)大金貨を金貨と間違って渡してしまったのだろうか……。

 いやいや、さすがに渡すときに気づくはずだ。


「シャーロットさん、実はっすね~。本日、西から来た商人さんが肉を叩き売りしてたっすよ! 大量に仕入れたけど、大量すぎてさばききれないって言ってたっす。おまけまでしてくれて、こんなに多くなったっす!」


 コトちゃんはにこにこしながら大皿に置かれた肉をトングではさみ、テーブル中央にある魔道具の上の金網に、肉を置いた。「ジュー」っと、いい音がして香ばしい匂いが立ち込める。


 火魔石が内蔵してあるこちらの魔道具は、大きめの箱のようになっていて、箱の底に等間隔に並んでいる火が適度な大きさで燃えている。

 そして箱に蓋をするように金網がかぶせてあり、その上に食材を置くといい具合に焼き上がるのだ。


 この魔道具は「狩った魔物を解体後すぐに焼いて食べられる」と冒険者にも人気で、『一家に一台』ならぬ『一パーティーに一台』あってもおかしくない代物だ。

 こちらの孤児院にあるのは、そんな冒険者たちが買い換えて使わなくなった物を譲り受けたのだろう。

 どのテーブルにも一台ずつ置いてあるけど、種類がばらばらだ。金網が上に置いてある種類以外に、鉄板の物もあった。

 子供たちはその調理器具を使って、一テーブルに四人から八人で先を争うように肉を焼いている。


 私たちのテーブルに置いてあるのは、上の金網の角に破けた跡があって、それを少しつなぎ合わせたかのような苦労がうかがえる。しかしその角は院長さん側に向いており、私たちに配慮されていた。


(いやいや、金網のことよりも……)


「それでっ、院長さんから少し聞いたっすけど、指名依頼の内容っすよね。もぐぐっ」


 コトちゃんに話を切り出された。

 私は肉について気がかりなことがあったけど、まずはコトちゃんたちと話を進めることにした。

 ここに来たのは焼肉パーティーをするためではなく、依頼内容の話し合いなのだから。



「うん。その内容なんだけど、『キラキラ・ストロゥベル・リボン』がこの子たちの先生として勉強を教えるのはどうかなって。……うん、お肉おいしいね!」


 私が考えた依頼内容は、学ぶ機会の少ない孤児院の子供たちにコトちゃんたち三人が勉強を教えてあげる、というものだ。

 コトちゃんは「自分たちは生徒で、学んでいる立場っすけど……」と、疑問や不安が交じったことを口にした。


「何も難しいこととか、学園生のみに教えている授業を教えてあげてね、というわけじゃなくて、基礎的なことや、ただ勉強を見てもらうだけでもいいらしいんだけど……」


 私が院長さんを見ると、彼女は頷く。


「文字や計算の勉強を見てくださるのはとても嬉しいです。私たちも教えてますけど、充分とは言えなくて……」


 この孤児院は他にも大人がいるけど、子供の数が圧倒的に多く、充分に手が回っているとは言いがたいそうだ。


「あっ! それならダンジョン学も教えるっす!」

「ダンジョン学?」


 コトちゃんが何か思いついたようだ。


「ダンジョン学というのは、え~と、ダンジョンの知識を学ぶ学問っす」

「それじゃわからんわ。ダンジョンの種類やその場所と、それから……」

「内部構造の種類や、それによってどのような魔物が現れやすいかを学びます」


 コトちゃんの足りない説明に、ワーシィちゃんとシグナちゃんが補足する。

 近年ダンジョンについての研究が進んでいて、今わかっていることを学んでいるそうだ。


「でもいいの? ダンジョン学って、学園生が学費を払うからこそ得られる知識なんじゃない?」

 今回の指名依頼は、その学費に見合う金額ではないと思うんだけど。


「大丈夫っすよ。ダンジョン学を教えに来てた先生は、冒険者以外の戦わない人たちにも広く知ってもらって、被害を少なくしたいそうっす。だから一定の範囲内ならボクたちが教えても大丈夫って言ってたっす」

「それにコトでもよぉわかるくらい簡単な内容です」

「教えるときは私とワーシィで教えて、コトには補助をしてもらうので大丈夫です」


「ボクも教えられるもん!」と怒りながら食べているコトちゃんは置いておくとして――。

 ダンジョン学を教える先生は、一般人にこそ広まってほしいと語っていたそうだ。

 ダンジョンというのは自然と一体化しているものが多く、そこに一般人がうっかり入り被害に遭ってしまうことが少なくない。知識を深めて危険な場所か否かを判別できれば、そのような人たちも減らせるのではないか――という考えの持ち主だということだ。


 例えばこの町の南の森にあるビギヌー洞窟ダンジョン。見た目は普通の洞窟のようで、付近に立て札が立ててあるとはいえ見張りがいない。だから一般人でもすんなりはいれてしまう。

 超初級ダンジョンとはいえ、戦うことに慣れていない人が入ってしまうと、もちろん危ない。

 ダンジョン学を教えた先生は、ダンジョンがどういうものか、どういったところにあるのか、危険度は……など知ってもらい、被害を最小限に食い止めたいと考えているようだ。

 ちなみに大きいダンジョンになってくると、危険性も大きいことから一般人は近寄れない、または近寄りにくい雰囲気になってくる。

 我が町の名物であるテーブル山ダンジョンは、いろんな国や町から冒険者が来るほど有名なので入り口付近に人が集まっているし、入り口には騎士も見張っているのだ。

 一般人がふらふらできる雰囲気にはならない。


「なるほどねー。……そうだ、洞窟ダンジョンを踏破する手助けをしてもらうのはどうかな? 一緒に入る授業とか」


 ビギヌー洞窟ダンジョンのことを考えていた私は、三人にそう提案した。

 そこは超初級ダンジョンであっても、まだ孤児院パーティーのみで踏破するには少し心配な場所だ。

 この三人が引率してくれるなら安心して探索できそうだし、双方いい経験になるのではないかな。


「どっ、洞窟ダンジョンは……そう、っす! 様子を見て、あとのほうに行くのがよさそうっす!! 当然ボクらは踏破してないっすけど、皆で行きたいっすね~(もぐもぐ!)この肉うまいっす!! うあっち!」


「せやせや、(むぐご)バイソンうまいわ~」


「おいしい、オークおいしい(むぐぐ)」


 お肉をひっくり返すときに、火が強くなって手を引っ込めたコトちゃん。

 自身の氷魔法で熱を防御し、とにかく食べるワーシィちゃん。

 食べつつも焦げないように自分の分をさっと確保するシグナちゃん。


 ……三人とも何だか目が左右に動いている。どうしたんだろう?

「踏破してない」と断言しているけど、コトちゃんたち三人の称号には『ビギヌー洞窟ダンジョン踏破者』と、私の『鑑定』スキルによって表示されている。

 称号は、二つ名の他にダンジョンを踏破したときも現れる。ずっと称号欄に表示されるわけではなく、時間が経ったり、違う称号が現れたりすることで消える、または入れ替わる。


 より認識されているものが、称号欄に残りやすい。

 私の場合、おかあさんと一緒にいろんなダンジョンを踏破したというのに、『壁張り職人』しか残ってない、ということだ。


 ところで、コトちゃんが「踏破してない」と主張するのはもしや、洞窟ダンジョンに行ったことが、いまさら恥ずかしくなったからかな?


『Cランクの冒険者が、超初級ダンジョンにわざわざ入って、しかも踏破した』


 こういった行為は、子供ががんばって倒している弱小スライムを大人の冒険者が横取りして倒し、「どうだ、すごいだろ!」と自慢しているのと同じくらい恥ずかしいとされている。


「……ふむふむ! 一日に一~二鐘くらいの短い時間の講習っすか! なかなかいい長さっすねっ! ねっ、二人ともっ(もぐもぐも……」


「ええな! 授業によって午前か午後からか考えよか(ぐもぐもぐ……」


「期間もいい長さじゃないかしら(もぐもぐもぐ!」


 彼女たち『キラキラ・ストロゥベル・リボン』は、ビギヌー洞窟ダンジョンの話は早々に切り上げ、すぐに依頼の期間や時間帯についての話をする。

 私はもうお腹がいっぱいなのに、彼女たちはまだまだ食べられるようだ。

 コトちゃんは飲み物をごくごく飲み終えて、元気に了承する。


「じゃあこちらの依頼内容とこの金額で大丈夫っす。よろしくっす!」


 ワーシィちゃんもシグナちゃんも院長さんに挨拶し、『キラキラ・ストロゥベル・リボン』初の指名依頼が始動することになった。

 彼女たちは早速明日から開始しようとやる気満々だ。孤児院冒険者パーティーに話を聞いて、今後の授業内容を考えようとはりきっている。

 依頼がまとまってよかった。


 私が今回の依頼内容を考えたのは、院長さんから話を聞いたとき、前世のことを少し思い出したからだ。

 ランクの高い学校に通いつつ、余った時間で年下の子に勉強を教える仕事があったなぁ――と思い出したのだ。

 孤児院も『キラキラ・ストロゥベル・リボン』も、双方が満足できそうな依頼になって嬉しい。

 それを確認した私は、盛り上がっている院長さんや彼女たちに事務手続きのことを話してから席を立った。

 すると赤髪の彼が席を立ち、わざわざ寄ってくる。


「あれ、シャーロットもう帰るの?」

「うん、もう時間だからね。……ああ、お肉? 私の分はどうぞ~」

「おっしゃー!」


 空のお皿を持ってきていたことで、何を望んでいるかすぐわかった。

 院長さんは「他の子供たちにも分けなさい」と釘を刺す。

『キラキラ・ストロゥベル・リボン』も肉を目で追いかけていたけど、ぐっと我慢したようだ。

 もっとお金渡しておけばよかったかな……いやいや、十分な量だろう。

 今日は大盤振る舞いになってしまったけど、皆が喜んだようでよかった。


 こういうことは珍しくない。私は時々、この孤児院におすそ分けを持っていく。

 別に貧乏でかわいそうと同情しているわけではない。この孤児院は裕福とは言えないけれど、貧困にあえいでいるほどではないからだ。


 ではなぜ、私がこうやって孤児院の皆にごはんをあげるのかというと……将来を考えて、かな。

 こういうふうに楽しかった思い出があれば、大きくなって旅をしてもまた故郷に――このアーリズの町に帰ってきたいと思うだろうから。


 この孤児院は潜在能力が高い子供が多いのだ。高ランクの冒険者も輩出し、その人がたまに戦い方を教えているので腕もいい。

 他の町に住みついてしまうのが惜しいと思った。

 それに私みたいに「故郷を出てせいせいした、特に帰る気はない」と思うより、「長旅でいろんな光景を見ても、やっぱりこの町に帰ってくるなぁ」というほうがきっと……いいだろうから。


 ――私も元故郷でそういう思い出でもあれば、今でも「いつかは帰ろうかな」と思っていただろうか……。


 今のところそのような気持ちは浮かんでこない。

 もし今後どこかへ遠出することになっても、帰ってくるのはここ、アーリズの町だ。



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