081: 指名依頼①
よく晴れた本日のギルドには、たくさんの冒険者がいた。
カウンターはそれほど混んでおらず、皆ある一点を集中して見ている。
「はい、こちらカードをお返しします。後ろの掲示板も確認お願いします」
私はカウンターを利用した冒険者さんにギルドの登録者カードを返却すると、私にとっては前方、彼にとっては後方に位置する掲示板を、手の先で示した。
ギルドの出入り口横の掲示板は、通常ならばこの国の交通事情(例:どこの地域の橋が壊れて通行不可など)や他の町の情勢、他国の情勢などが貼ってある。しかし本日はその掲示板にでかでかと、この町でスタンピードが起こった際、どう危機を知らせるか方法が書かれていた。
「ああ……拡声魔道具……やっぱ、あんとき壊れたんだなぁ」
「直るまでは……っと、四鐘は変わらないのね。そのあとの情報は、代わりに『光魔法かのろし』?」
「夜だったら光魔法だけ使うのか~」
「そして騎士たちがさらに伝令……魔道具なかった時代ってこういうことしてたのかなぁ」
拡声魔道具が直るまでの、情報伝達方法が掲示されているのだ。
掲示板に載っている情報の発信元はもちろんこの町で、アーリズ領主代理と騎士団の名前が書かれていた。
この町の領主様は、ただいま王太子殿下の誕生日パーティーのため町を出ている。だから代理の方の名前が記載されていた。
次のスタンピードがいつ起こるかわからないし、スタンピードとは無関係の魔物も町を襲うことだってありえる。
だから別の方法を使って、町中に情報が伝達される。
「騎士といえば、ホラ。魔道具壊れる前に騎士団長ったら間違えて攻撃されてたでしょ」
「うん。はは、あれちょっと面白かったよね」
「あれ。新人の子だったみたいでね。結構かわいかったのよ。ドジっ子な男の子!」
「イパスンくんだよねっ。『あのあとすっごく怒られちゃったんですよぅ』って、情けない顔してかわいかったわっ」
ミーハーな女性冒険者たちは、先日のスタンピード発生直後にあった「騎士見習いが、騎士団長と魔物を間違えて攻撃した」件の話をしている。拡声魔道具の声が聞き取りやすかったためか、この話はもはや町中に広まっていた。
鳥だん……騎士団長は上空でするりと躱していたようで何ともなかったため、今では笑い話になっている。
そして件の騎士は容姿のかわいさにより、いじられキャラ化しているようだった。
でも私はその人についてまるで記憶にない。騎士見習いは何十人といて、スタンピードのときに参加させてもらえない人もいるからだろうか……。
「よかったなぁ。コトみたいにドジっ子でも騎士団に入った人がおるんやって」
「ボクはドジじゃないよっ」
「昨日、皿割りそうになったでしょ」
次にカウンターにやってきたのは、学園から来た『キラキラ・ストロゥベル・リボン』という現在波に乗っているパーティーだ。
リーダーをからかうワーシィちゃん、ドジを否定するリーダーのコトちゃん、そんな彼女をにらむシグナちゃんの三人だ。
「お皿が無事でよかったね、コトちゃん。そうだ、お皿を運ぶときは、コトちゃんの障壁魔法を手の下に置いとくようにしたらいいんじゃない?」
「落とすことはないっすけど、今度やってみるっす!」
コトちゃんがお皿を割りそうになったことは、昨日一緒に夕食をとった私も知っている。
「洗ったの片付けるね~」と皿を手に持ったそばからつるっと滑らせ、シグナちゃんが下からすくい上げて皿を守ったのだ。素晴らしく息の合った早業だった。
「コトじゃ、まぶしくて余計に落としそう……」
「せやな」
しかしコトちゃんの仲間たちは、その程度では改善しないと思ったらしい。当のコトちゃんはむくれた。
「――さて、『キラキラ・ストロゥベル・リボン』の皆さんには、他に渡す物があります」
カウンターの陰から、彼女たちにとって大変嬉しいだろう一通の封筒を渡す。
今、彼女たちがギルドにいるのは、町にほど近いビギヌーの森の中にある洞窟ダンジョン――ビギヌー洞窟ダンジョンと呼ばれる場所に入り、その戦利品を売りに来たからだ。
ダンジョンに行ったことは本人たちから聞いたわけではないけど、『鑑定』スキルで見ると、称号欄に踏破した事実が表示されている。それに、そのダンジョンの戦利品とも酷似している。
あそこは超初級ダンジョンと言われるところで、Cランクの冒険者はまず探索しないものなんだけど……まぁ、本人たちが入りたかったのならばいいだろう。入っちゃいけないということではないし。
周りの冒険者たちに知られたら恥ずかしいけど、いい時間に来てくれたのだから私は気にしないよ。
「何っすか。……ん……ん!? こ、これは…………!!!!」
「なんや…………」
「…………え」
内容を見て、コトちゃんだけではなく、彼女の左右にいるワーシィちゃんとシグナちゃんも驚きで声が出ない。
「……こ、これは本当っすか!?」
「もちろん。内容に興味があるなら、昼に私と孤児院に行って説明聞こっか。たぶん初めてでしょ、こういう依頼。お昼ごはんを食べつつ説明しますって言ってたんだけど、どう?」
「「「は、はいっ!!」」」
彼女たちが、びっくりしつつもきらきらとした笑顔になっている。
その理由は、彼女たちに渡した手紙の文面に、孤児院の院長さんからの依頼が書かれていたからだ。
【指名依頼について】
『キラキラ・ストロゥベル・リボン』様。
指名依頼のご相談があります。
内容をご確認ください。
依頼内容:ひとまずはご相談から。
時間:本日、五の鐘
場所:ピーセリア孤児院
依頼者より一言:内容や報酬など、お話だけでもさせていただきたいです。
私は三人に、先にお昼ごはんを買いに行ってもらうよう頼んだけれど、彼女たちは紙面に穴が開くほど見ていて生返事しか返ってこなかった。
ひとまず気持ちの高ぶりが治まるまで待つことにしようかな。




