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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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076: ある夏の二日間⑯ ~酒気帯び勇者~



「――タチアナさん、酔っ払ってるんですか? 近くの建物に避難していてください」


 近づいてきたタチアナさんに注意するけど、どこ吹く風でいっこうに離れず併走してくる。

 しょうがないから私は立ち止まり、タチアナさんに箱型障壁をかぶせた。

 もちろん私はギルドを出たときから自分に箱型障壁をかぶせている。安全な移動は大事だからね。

 タチアナさんはなぜか箱障壁を見てニマニマした。


「むふふふ~。酔ってないわよ。いいアイデアを思いついたの、どんどん倒していけるのよ~!」

「……手短に願いますね」


 私は正直期待してなかったけど、聞いてみるとなかなか使えそうな作戦だった。

 その内容は、広場の中心に囮を置きマルデバードが地上に下りてきたところを、持ち場にいる騎士たちに攻撃してもらうというものだった。


「ではちょうど広場に隊長さんもいるようですし、かけあってみますね。タチアナさんはあそこの建物に隠れ……」

「違う! 甘いのよ~。ふふん。その囮は、ウ・チ・が! やるのよ~」

「え……、いいですよ。私がやりますよ」


 魔物は基本的に弱そうな人から攻撃する。私が透明の障壁を自分の周りに配置して、「きゃ~」と大声で叫べば寄ってくるだろう。

 さっき二階にいたときもまんまと罠にかかってくれたし。


 ガギャーーー!!


 ほら、さっそく一匹やってきた。

 もちろん私たちは身の回りを障壁で囲んでいるので慌てない。

 それに、冒険者さんたちが通りがかりに狩ってくれた。

 このように、冒険者だったときも障壁を張って私が魔物をおびき出し、おかあさんに攻撃してもらうという戦法をよく使っていた。わざわざタチアナさんにやってもらう必要がない。


「ダメダメ~~! ウチのほうが、より! か弱い女の子よ!! そうっ、ウチはこういうとき、町の皆の助けになりたいと常々思っていたのん」


 なぜ「思っていたのん」と最後にかわいく言ったのか、「か弱い女の子」とはどういうことなのか……? わからないけど、タチアナさんは倒してくれた冒険者さんに「あとで一斉に解体するわよ~」と包丁を振りながら伝えていた。

 ……ともかく。


「タチアナさん……。助けになりたい、なんて思ってたんですか……?」


「スタンピードとは大量解体作業である♪」と、いつもわくわくしていただけのタチアナさんが、町を救うと言い出すとは。


「そうよっ。それにシャーロットが囮だと、広場の中心から動けなくなるでしょ? 他に別の障壁を出したいとき、動きが制限されちゃうじゃない。ウチなら、ただ障壁の中で大声を出しておびき寄せるだけよっ」


 言い分はもっともだけど、別の理由でお断りだ。


「とにかく無理です。そんなことしたら、私が一般人を囮に使ったことになります。違反行為です」


 さっき似たような案件があったばかりなので、慎重にならざるを得ない。

 これは単に『職場の同僚に魔物をおびき出してもらいます』ということでは済まされない。

『私が受けているスタンピード依頼を、冒険者ではないタチアナさんに手伝ってもらい、しかも囮をやらせている』という図になるのだ。


「あぁ! ギルドの規約ね。あれはちゃんと本人に了解を取って、その分の報酬を渡すなら大丈夫じゃなかった? 本人が――ウチが望むところよって言っているし、報酬は皆の感謝をくれればいいのよ? そうっ、感謝の気持ちだけでやってあげるのっ。問題ないわよ!」

「……却下です。他に示しがつきません」


 冒険者ではない人に依頼を手伝ってもらうことは、まったくないわけではない。

 たとえば魔物の討伐などで、魔物の住処が入り組んだところにあり、地元の人しか知らない道を行くのに道案内を頼む、ということはある。

 その場合はちゃんと報酬を渡し、道中その人の安全を確保することが大事だ。

 けれどもタチアナさんの出した案は、それとは違うのではないか。

 しかし彼女は引き下がらない。さらに痛い一言を足してきた。


「そんなこと言ってていいのかしら~? ウチにやらせてくれたら、あの日、お昼休みからいなくなったの許してあげるわよ~? そうそう、シャーロットに振り分けた倉庫の掃除もなしにしてあげる!」


 あの日とは召喚石バチバチ事件のことだ。それのことでいろんな仕事をおしつけられ二階の掃除もその一つだったけど、タチアナさんからは倉庫の掃除も頼まれていた。それも一人でやってね、と。


「……いえ、あれは私が悪かったので……」

「二階の物置を片付けるの大変よね~。そこに倉庫の掃除なんて、終わる頃には秋どころか冬になっちゃうんじゃない~? その点、ウチを囮に使ったら日も暮れないあいだに終わるんじゃないかしら~~??」


 冬までかかるなんて言い過ぎではあるけども……、しかしマルデバードを倒すのはそれより早く済むし……。いや、でも召喚石を追っていたのは私が悪いし……うーん、でも……。


「く、くぅ……!」

「うひょ、うひょひょひょひょひょひょひょひょ!!」


 タチアナさんの笑いは、広場に着くまで続いた。






「……では、始めるぞ!」


 私は広場の隅の物陰にいて、魔物討伐部隊の隊長さんの号令を近くで聞いた。

 アーリズの広場の地面には、普段はない血糊が目立っているのに、悲壮感が感じられない。


「私はノリ気ではなかった――ということを覚えていてくださると嬉しいで……」

「行くわよ~! むふふ」


 私をさえぎったタチアナさんの雰囲気が、明るすぎるからだろう。

 現在、魔物は大体二つに分かれて群れていた。広場の――私たちの上空と、南西の城壁上空だ。

 城壁のほうでは、騎士団長さんが風魔法を使って城外に魔物を押し出し、町の被害を少なくしようとしているようだ。

 遠くて詳しく見えないけど、『探索』スキルと隊長さんの話を合わせて状況を理解した。

 間違えて矢を打たれた件も、大事に至らなかったとのことだ。


「じゃあ、いきますよ。……はい」


 私は張りのない声で、タチアナさんの周囲に箱型の障壁魔法を張る。

 彼女の前後左右、真上に張った。

 やる気のない声に聞こえても、きちんと丈夫に張った。

 下は歩くことを考えて障壁を張らない。

 幅はできるだけ狭くした。

 そしてこれが重要だ。透明の障壁にしているのだ。


「彼女の勇気ある行動に、我々も精いっぱい励むのだ!」


 隊長さんが周囲の騎士たちに活を入れる。

 作戦を話したときは、素人の考えたものだから断られるだろうと思ったけど、やるだけやってみようと始まった。

 もちろん、ギルドの職員とはいえ一般人に囮をやらせる点は渋られたけど、タチアナさんの熱い説得(・・・・)で実行されることになった。


 オレンジの髪の少女(に見えるドワーフ族)が、広場の中央に進み出る。るんるんとスキップで。

 私はタチアナさんの速度に合わせて障壁を動かす。

 障壁で頭を打たないように少し浮かせもした。


「はっじめるわよ~~!! ほーれほれ! か弱い女の子はココよ! ここにいるのよ~!!」


 タチアナさんは私が作った狭い障壁の中にいて、血のついた包丁をちらつかせている。

 血がついているのは、私と会う前に魔物の解体をやっていたからだそうだ。

 料理屋に避難し、冒険者が倒した魔物をその場で解体していたらしい。

 タチアナさんは腰に包丁入れを巻いており、常に包丁を持ったままうろつくのだ。


「ぷっは。魔物に囲まれて飲むお酒は格別ね~」


 さらに自分の収納魔法から酒まで取り出して飲んでいる。やりたい放題だ。

 しかし、その舐めた態度を見せているせいか、マルデバードが本当に地上に――タチアナさん目がけて降下してきたのだ。


「ひょ~~いっ! マルデバードのくちばしぃぃ! 口の中~」


 メロディーさんなら「ひゃあ」と座り込むような状況は、タチアナさんにとっては楽しくて嬉しい状況のようだ。ガーギャー鳴いているマルデバードの口の中を、キラキラした目で見ていた。さっきまで解体で十分見たはずなのに喜んでいる。

 さらにタチアナさんが大声で騒ぐから、ますますやってきた。

 そこを狙って、陰に潜んでいた騎士団が次々攻撃を繰り出す。


 私はというと、タチアナさんに張った障壁が消えないように意識を逸らさず、先ほどの天井障壁を出した。

 先ほどの天井障壁は、町に下りてこられないように止めるためのものだったけど、今回はタチアナさんに群がっている魔物を上空に逃がさないようにするためのものだ。だから今度は、地上へ押し付けるように動かした。上に逃げられなくなって慌てる魔物を、どんどん倒してもらう。


「ほ~ら! 鳥団長のところと、どっちが早く終わらせられるかしらね~。ぐびっ。……あら、もう残ってないじゃないの! 早くこっち来なさ~い! ウチは酒を買わないといけなくなったのよ~!」


 むきーっと怒っているようだけど、マルデバードがたかっていて、よく見えなかった。それより、タチアナさんはそんなに飲んで、このあとの解体作業は大丈夫なのだろうか……。


「鳥団……げほげほ、だ、団長よりも早く終わらせ、向こうの救援に行くぞ!」


 タチアナさんに釣られて「鳥団長」と口にしかけた隊長さんに、私は聞こえないふりをする。


「こぉ~んなにもたくさんの魔物に囲まれて、今日はなんて素敵な日かしら~~。ひょひょ~」


 今日は鳥三昧よ~! というタチアナさんの声に、私は気づく。

 タチアナさんは殊勝なことを言っていたけど、ただ単に生きた魔物を近くで見たかっただけなのではないか。

 あのオレンジなジャガーを間近で見た解体メンバーさんが羨ましくて、こういう機会を逃がしてなるものか、と私に近づいたに違いないのではないか……。


 なんて執念だろう。


 元気に楽しんでいるタチアナさんを見て、もうこんなことはやらない! と誓った。






……

だがしかし運命は繰り返される→ 125話




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