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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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075: ある夏の二日間⑮ ~ポイ捨てからの王子からの~



 足音が出ないように気をつけながらしかしなるべく早く二階へ戻る。


「……あら。今、何か動いたかしら」


 メロディーさんの不思議そうな声が聞こえた。

 まさか、私が一階から二階へ上がったのを見られてしまったのか……。旦那さんをずっと見送っていると思ったのに。

 ――どうしよ。


「……フェリオさん、帰ってきてましたのね。大丈夫でしたか?」


 ほっ。よかった。

 ちょうどフェリオさんが起きたんだ。


「…………うん」


 フェリオさんが目を覚ましてよかった。

 ――よし、このタイミングで一階に下りよう。


「あ~。大変だった~~。……よかったぁ。皆さん無事でしたね! どなたか気分が悪い方はいませんか?」


 しらじらしく聞こえないように、精いっぱい、さも忙しかったかのように! 話す。そしてついでのように体調が悪くないかも確認した。特にフェリオさん本人の体調を伺いたい。


「大丈夫ですわ」

 メロディーさんは旦那さんが来たおかげか、落ち着きを取り戻したようだ。

 さぁ、肝心のフェリオさんの具合を聞きたいのだけど……。


「…………」


 何も言ってくれない。


「フェリオさん……? どこか具合でも……」


 フェリオさんは元から口数が少ないけれど、こういうときは何か言ってほしい。

 ゲイルさんを治したときは、その後の経過に問題なかったから今回も大丈夫だとは思うけど、本人の口から聞いておきたい。


(特に問題ないならいいけど、背中が痛いとか、ムズムズするとか違和感があるなら教えてくれないだろうか。それか羽を使って飛んでくれたりは……。いや、突っこんで聞くことがないようにしないと)


 そんなことを考えていると、あることに気づいた。


(そういえば――私の魔力が二桁になっていた!)

 私こそ違和感を覚えて、自分の詳細を『鑑定』スキルで見てみたら大変なことになっていた。

 危ない危ない。一応魔力回復ポーションを飲んでおこう。

 冒険者がいつでも飲めるよう、ちょうどメロディーさんがカウンターに並べている中から一本ちょうだいした。


「シャーロット……ずいぶん魔法、使った? そんなに焦って飲むとは」

「っ、ぶほ! ……いやぁ、……ホント~、二階がいろいろで、ごっちゃりで……」


 訝しげなフェリオさんの声音に、思わずむせてしまった。

 フェリオさん、なぜ私を見ているのでしょうか……。

 まさかバレ……いやいや、うつ伏せだったからそれはない。……よね? うん。

 このタイミングで飲むんじゃなかったかな。しかし二桁では心もとないし。いや、堂々としていよう。挙動不審になってはいけない……って、あれ、何か忘れているような。


「シャーロットさん、この上に大きな障壁を出していますものね」


 あ! そうそう。出しっぱなしだった!

 近くの窓から頭上を見る。

 上空にはマルデバードたちの死体が転がっていた。……お、ちょうど今しとめられたマルデバードもいる。

 障壁をうまく水平に設置できたから、血溜まりができていても下に流れてな……いや、端っこは垂れていた。しかし、このくらいは許していただきたい……。


 さて、このあとどうしよう。

 いきなり障壁を消したら、当たり前だけど魔物の死体が落ちてくることになる。

 空に天井障壁を張ったはいいけど、このあとを考えてなかった……。


「シャルちゃん、ここで魔力切れを起こさないように! まだまだ魔物は下りてきているんだよ。さっさと城壁外にポイしてきなさい。ここに降ってこられたら迷惑だよ」


 サブマスが私の魔力回復ポーションを見て、早口で城外を指差す。「魔力」の値は0になってしまうと、使っていた当人は気絶してしまい、出していた魔法が消えるのだ。それを危惧したのだろう。

 そして城外に捨てておくのはとてもいい案だ。町を飛んでいる魔物も、血の臭いで城外に集まってくれるかもしれない。


「それでは、いってきまーす」


 サブマスがフェリオさんとメロディーさんに、「地下へ避難していなさい」と指示しているのを背に走る。

 確かにこういうときのための地下室だ。ま、とにかく羽の件がバレなくてよかった。


 ――さて町中を走っている私の姿は、周囲にはどのように映っているだろう。

 上空に大きな障壁が水平に浮いているのだ。その上に魔物の死体も乗せているから、何とも不思議で不気味な光景に違いない。

 案の定、「何だあの魔物の山は」と戦闘中の冒険者さんや騎士さんに驚かれる始末だ。

 ただ同時に、下を走っている私を見て「……ああ。なるほど」と納得されて終わる。


 そして走っているあいだも魔物が寄ってきて一匹、さらに一匹と障壁の上に魔物が積みあがっていく。

 上空の障壁がお皿のようにも見えてきた。……夕飯が楽しみだ。

 そう、楽しみだから大事な肉が傷んではいけない。

 城壁を前にした私は、マルデバードの死体が載った障壁を、城壁を越えるように移動させ外側にゆっくりと下ろした。

 地面に下ろしたらあとは簡単。ただ障壁を消すだけだ。

 ふー、これでとりあえずいいであろう。次に広場に行こう。空を見るとその方向に多くの鳥肉が……いやマルデバードが集まっているからだ。


(あ、そういえば……いるかな?)


 途中ちょっと興味があったので、放蕩王子が調査しているだろう家にも寄ってみる。

『探索』スキルでは相変わらず反応がないけど、近づくとやっぱり放蕩王子とその部下らしき人たち(全員黒装束だからわかりやすい)がいた。

 しかもちゃんと戦ってくださっている。

 普段物言わぬ石を相手にしているから、安全のために家に閉じ籠っているかと思ったら、そんなことはなかった。


 放蕩王子の部下らしき人たちを『鑑定』で見たけど、戦闘力は一通り……どころかBランク以上の実力を持っていた。数人は、召喚石破壊用と思われる大きな鈍器でマルデバードの頭をかち割っている。

 放蕩王子も、奥に引っ込んでいない。


「向かってくるのだけでいいからな~。他はその辺のヤツらに任せろ。横取りするなと突っかかられたら面倒だからな」


 余裕とめんどくささが合わさった様子で部下を指示し、ついでに闇魔法も使っていた。

 彼の闇魔法はマルデバードの目元に目隠しを作り、驚いて止まったマルデバードを部下の人が倒していく。


「皆さんに“きゅあ~!”」


 私は通りがかるついでに、彼らへ治癒魔法をかけていく。王子に恩を売っておこうという魂胆だ。


「……ふっ。ご苦労」


 しかし、王子にはそれがわかってしまったのかニヤリと笑われてしまった……。

 とにかくここはまかせて広場へ急ごう。だんだん魔物も多くなってきたし。

 ――と『探索』に集中していると、後ろから近づいてくる人物に気がついた。



「シャーロットー! 今回、飛行系だからなかなか片付かないようね~。ふひょひょ~。ウチがいい方法を思いついたわ~! ウチがこの町の勇者になってやろうじゃないのぉ~。だから手伝いなさ~いっ」


 ……まさか酔っ払っているのだろうか。

 解体の腕はいいけど、戦闘はできないタチアナさんがにこにこ――いや、わひゃわひゃ言いながら、包丁片手に走ってきたのだ。



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