071: ある夏の二日間⑪ ~キラキラキラ☆~
食事中、彼女たちは学園生活についてや、どんな授業を行っているのかを聞かせてくれた。
帝国にいた頃とは比べ物にならない充実した内容だ。どちらかといえば前世の学校に近いかもしれない。
まぁ、帝国生活では青空学校だったし、種族差別について教えられるのだ。比べるほうがあほらしいだろう。
「座学は眠いっす~。やっぱり実技っすねっ! 採取依頼を想定した授業とかあるっすよ~。もちろん魔物討伐のもあるっす! 一番最近の実技は、ボクたち迷って別の道に行っちゃって……」
「食堂もあって、めっちゃ広いんです。たくさんのメニューがあって、特においしいのが……」
「卒業するときには試験があって、他の町の人たちも見に来るんですよ。その日以外でも見学ができて……」
三人とも楽しく詳しく話すので、まるで私もそういう生活をしているかのような気分になった。
食べ終わるとワーシィちゃんとシグナちゃんが食器を洗いはじめ、コトちゃんはその間、私に魔法を見せたいと言った。
「ボ、ボクがシャーロットさんのファンなのはっ、ですねっ。ボクも障壁魔法を使うからっす!」
うん、知っているよ~。『鑑定』の魔法欄に載っているからね。あと光魔法も使えるよね。――という言葉はいつものように飲み込む。
「……そうなんだ~。障壁を見せたいって……出すのはいいけど、この家壊さないようにね」
「えっと、天井まで届く大きさじゃないので、壊せないっす。……す~、はーー、す~~! “キラキラ・リン♪ ボクらを守って!”」
コトちゃんは深呼吸をしてから大きな声で呪文を唱えた。
えーと……魔法を使うときの呪文は、同じ属性魔法でも人によって異なる。人それぞれだ。……この呪文を変に思ってはいけない。彼女はいたって真面目なのだから。
――シャラシャラララン♪
――キラキラキラ~☆
「できた……けど何か違うっ。シャーロットさん、あの、いつもはもっとキラキラしてるし、もうちょっとキリッってした形なんす! で、でも大きさはこれが限界で……」
コトちゃんの出した障壁は、光魔法と障壁魔法が組み合わさったものだ。小川が流れるかのような軽い高音が奏でられ、光も音を出さんばかりに出現した。
その輝きは障壁表面に光の粒をまぶしたかのようにきらめき、部屋の中をよりいっそう明るくした。
障壁の大きさは、彼女たちパーティー全員がどうにか隠れられるくらいだ。
形は三角とも四角ともつかない。少し気が乱れたことによって変形してしまった――といったところかな。
十分輝いているから、小さくして部屋に飾ればかわいい照明になりそうだ。……いや、障壁は飾るものじゃなかった。
ちなみに、伯爵の四男だかがコトちゃんを突き飛ばそうとしたとき、この障壁を出して防いでいたのだ。
「……目を引く障壁ってことは、魔物を引き寄せて、あとの二人が攻撃する戦い方ってことかな」
動きまわる魔物を複数相手にするときは、一匹一匹狙いを定めるよりも、一箇所に集めて攻撃するほうが楽だ。その点、この障壁は目立つから魔物が寄ってきやすく、よい盾役となるだろう。
……というかこの光、今まさにご近所さんの注目を集めているかもしれない。もう少し窓を閉めよう。
「そ、そうっす。でもこの大きさだと、どうしても横が……いや、それもそうなんっすけど……」
私が窓を閉めているあいだ、コトちゃんはもじもじした。
私が移動したことで、キラキラとした障壁の裏を見ることができ、裏(コトちゃん側)はそんなに明るくないことがわかった。ワーシィちゃんやシグナちゃんが障壁に身をひそめても、目を痛めることはなさそうだ。
「となると、障壁をさらに大きくするのが今後の目標かな? あとは輝きを増やして、まぶしさで敵を怯ませるとか?」
「…………」
「どうかした?」
コトちゃんは大きな目で私を見つめていた。
「シャーロットさんはこの障壁を見ても、透明にしろとか、光魔法に専念しろとか、言わないんすね」
コトちゃんは眉尻を下げて続ける。
「障壁はやっぱり透明度がないと味方が攻撃しにくいとか、守りにくいとか思うみたいで……」
「それは学園の先生から言われたの?」
「いやっ、……先生は長所を活かせるよう、いろいろ考えたり実践しなさいって言うっす。でも他の人とか……」
学園の先生は頭が柔らかいようだ。
「ボクの周りの障壁魔法使いは皆、透明に近い障壁っす。シャーロットさんだって……」
だから透明な障壁を目指したほうがいいのかも……と、コトちゃんはつぶやく。
周りと違うから不安なのかな? でも――。
「これは、れっきとしたコトちゃんの障壁魔法だよ。それに『一般的な障壁はこうです』って考え方は、もったいないと思うなぁ。せっかく障壁と光魔法の合わせ技を使っているのに」
この障壁と光魔法はこだわりが感じられる。そういうのを無理に切り離すと、魔法の威力が下がってしまうかもしれない。
「他の二人はどうなの? やっぱり透明がいいの?」
私が出したコップも一緒に洗ってくれている二人に聞いた。
「うちらは、もうずっとコトの障壁でやってるもので、慣れてるちゅうか……」
「特に不便は感じてないですね」
仲間の二人が特に気にしていないのならば、今のところは問題なさそうだけど、それではせっかくこの町に修業に来た意味がない。
「それならこの町にいるあいだ、いろんな人の攻撃――魔法に限らず見て、研究するといいよ。個性豊かな人が多いから、コトちゃんの……ううん、三人ともいい刺激になるんじゃないかな? 予想外の攻撃方法も見れるかもしれないよ」
障壁の透明さ云々よりも、全く別のことに気づくかもしれないし、やっぱり光魔法と障壁魔法を分けようと考えたときに、何かヒントになるかもしれない。この町はAランクのパーティーが多いのだし、いろいろと見て、感じて、吸収してほしい。
話が終わる頃には、ワーシィちゃんとシグナちゃんは洗い物を終えていた。彼女たちからジュースを渡したときのコップなどを受け取る。
「あ、ごめ~ん。今度はボクが洗……」
「あかん。割れる」
「結構よ。いても邪魔」
コトちゃんはほっぺを膨らます。
このやり取りによって、コトちゃんがリーダー特権を使って私と話していたのではない、ということがわかった。
そんな元気で将来が楽しみな三人のパーティー名は、
『キラキラ・ストロゥベル・リボン』
この町ではそうそう見かけない、かわいらしいパーティー名だ。
ただ、彼女たちがパーティー名を教えてくれたときには、不思議なことを言っていた。
実は重要なことが未完成であること、それはもっと強い印象を残す名乗り方で、それを考え中なのだとか……。
はて、パーティー名を印象深く名乗るというのはどういうことだろうか?
よくわからないけど、近々完成したら見せてくれるらしい。今わかるのは――。
「キラキラでかわいいは正義っす!」
「ストロゥベル好きですねん」
「今日のリボンは水色です」
彼女たちの「好き」がつまったパーティー名である、ということだ。
私は彼女たちの話でしか学園の雰囲気を感じられないけど、自由な校風であることはよくわかった。




