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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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068: ある夏の二日間⑧ ~仕事が増えました~



 召喚石を障壁で囲み、騎士団長に連行されて、その帰りにお菓子を買ったあと、ギルドに戻った。

 当然、ギルマスはお怒りであった。


 ギルドの出入り口の外で腕を組み、正面を向いて立っていたギルマスのあの姿……。

 遠くから見ても怖いその様子から、裏を通って解体倉庫のドアから入ろうとしたけどそうはいかなかった。

 サブマスがいたからだ。

 彼に背後を取られ、躊躇して足が止まると背中を小突かれ、前に進まざるを得なかった……。

 近づくにつれてわかる静かで深い(いか)りに、私としては「怒れる熊として突進されたほうがまだマシ」と思った。だけどもギルマスは怒鳴ることなく、悠然と私を待ちかまえ、にらんだ。

 その圧力に、結局私が何をしたかというと。


「す、すみませんでした~~!」


 最近覚えた『フォレスター式土下座(前世の土下座と特に変わらない)』なるものを、ギルドの前で披露したのだった。

 そのあとギルドの皆には、説教され、心配され、呆れられた。そしてお咎めなしのまま終わるはずもなく、倉庫の修理の件や他にもいろいろお仕事を申しつけられてしまったのだ。

 カウンターが空いてきたら、それらもろもろの仕事に移ることになっている。


 今は解体倉庫の修理の件だ。といっても修理屋さんを案内をし、何か手伝うことがあったらするだけだ。

 倉庫で大きな問題があったのは、魔物を吊り下げて解体するためのレールで、ゆがみがひどくて交換となった。

 現在、解体スピードが低下してしまい、解体を希望する冒険者の皆さんにはお待たせしている状況なので、今日の修理で完了するといいなと思っている。


 修理屋さんは件の解体台に案内されると、自身の大容量収納鞄(マジックバッグ)の口に手を入れ、新しいレールを引っぱり出した。大容量収納鞄はわりと様々なダンジョンで手に入る鞄で、普通に売りに出されているけど、高価であることから大手の業者さんくらいしか持てない。こちらの修理屋さんは町を代表するお店だから持っているようだ。


「あらっ、いいわね! 今までのレールはだいぶ経つから、ジャガー様々だわっ!」


 タチアナさんは他の人たちが仕事をしているなか、ご機嫌な声を上げる。

 彼女が教育してきた解体チームは、気を取られることなく作業している。捌く速さは尋常ではないにもかかわらず、仕上がりがとても奇麗だ。

 おっと、目を離していた隙に、修理屋さんもぴかぴかの新品レールを手早く取り付けている。こちらも職人技だ。

 古いレールは前回来たときに取り外しているので、今日は取り付けるだけのようだけど、それがとても速い。

 妖精族の特長を生かして自身の羽で飛び上がり、レールのねじを高速で回しているのだ。彼は「速さ」の値がかなりあり、それが専門的な技術と結びついている。

「速さ」というのは、足の速さや、敵の攻撃をかわすなど戦闘に使うだけとはかぎらない。こういった仕事の場面でも活きてくる。


(前来たとき、レールを新しく用意できればあとはすぐ終わると言っていたのはこういうことか……)


 その作業は私が考え事をしているあいだに終わり、気づいたら修理屋さんに修理費を出して領収書を書いていた。


「ありがとうございました!」


 修理屋さんは「またのご利用を」とだけ言って帰っていく。

 妖精族は、おしゃべりな人があまりいないのだろうか。

 フェリオさんも基本寡黙だし話も短い。ギルドを利用する冒険者にもいるけど、積極的に話している印象がない。


(さて、カウンターも空いているし、次の場所へ行こう)


 カウンターの後ろにある事務室へ入り、壁際にあるロッカーから、一つの鍵を取り出した。

 目指すは二階だ。

 階段を上がり、奥のあまり入らない部屋へ向かう。

 そこの鍵を開けると……、中は埃っぽかった。

 それというのも、この部屋は物置同然となって久しく、立ち入ることもそうそうないからだ。

 ドアを開けてすぐ前方に使用頻度の低い備品が置いてあり、そこから奥は、足の踏み場を一歩一歩探さないといけないほど物が散乱している。


 でも金目の物は一切置いてない。

 二年前に前ギルドマスターが捕まったとき、証拠集めとして、賄賂が怪しまれる物はすべて押収されたからだ。そして残っていた(ガラクタ)は、ギルドを早く再開させるためにこの部屋に押し込まれた。

 地下室にあった荷物もこちらに押し込んだので、例の事件で話し合いをしたときも広々と使えたのだ。避難所としての利用もできるので、町に魔物が押し寄せても大丈夫だ。

 まぁでも、地下室を使うことは今後ないとは思うけどね。

 最近はインペリアルトパーズジャガーがギルドに入ってきてしまったけど、魔物が町に入ることなんてもうないはずだ。魔物が来たら私が阻むのだし。


 さあ、かき集めた物が散乱するこの物置部屋を片付けよう。これも私の仕事だ。いや、仕事になってしまった……。

 なぜならこの部屋も、例の罰で片づけ担当にされたからだ。

 今までこの部屋を使うことはなかったけど、メロディーさんが来たことにより、奇麗にすることがきまったのだ。


 実は現在このギルドには、女性更衣室という部屋がない。私とタチアナさんたち女性解体メンバーは、今まで更衣室を必要としなかったからだ。

 私は制服を着て出勤するし、収納魔法もあるので、着替えが必要のときは空き部屋を使えばよかった。

 タチアナさんたちの場合は解体倉庫が広いこともあって、一角に簡易的な着替えスペースもある。どうしてもというときは、私と同様、空いている部屋を使うだけで事足りていた。


 そんな女子力の低いギルドに、ある日メロディーさんが入ってきたことで皆の意識が変わった。

 彼女に毎回、空き部屋で着替えてもらうことに違和感を覚えて、ようやく女子更衣室の必要性が意識されたのだ。

 さすが色気のあるメロディーさん……。


 というわけで本格的に掃除を始めよう。

 まずは空気を入れ換えるため窓を目指す。荷物が散乱しているせいで近くて遠い距離だ。


 ガタッ、コトン……。


 床に転がっている物を踏まないように気をつけるけど、全く踏まずに進むのは難しい。多少踏んづけてしまうのはご愛嬌だ。

 やっと窓にたどりつくと、がたがた音を鳴らして勢いよく開けた。

 埃が盛大に舞う。


「ゲホゲホ! ――お、おお。いい眺め」


 開けた窓の先は、よい景色だった。

 空が奇麗で、遠くにテーブル山ダンジョンが見えている。しかも今日は虹もかかっていた。

 かなり遠くて見づらいけど東の――ディステーレ魔国の方角に、青い龍族の空軍部隊が空を飛んでいるのも見えた。


 そんな景色を見て、少しぼんやり考えた。

 今日は学園の生徒に「ファンです」と言われたけど、私だったら誰のことを「ファン」と答えるだろうか、と。

 やっぱりパテシさんかな。あの方がいなければ私は食生活で困ってしまう。

 ついでに、今見えている魔国の空軍部隊もなかなか捨てがたいなと思った。強さを感じる整然とした飛行で、そんなことができる方たちの能力値はどういうものなのか気になるからだ。

(あ、これはファンじゃなくてただの興味か……)

 なんて、のんきに思っていたそのとき――。


 カツン、コトッ、――が、がたがたがたがた!!


「え!?」


 ゴトン!!

 ――カチッ――。

 カ、カカカカ、ズダーーン!


「げっ!! ごほっ! ごほごほ……っ」


 安定が悪かったのだろうか。はたまた窓を開けた衝撃か、それとも私が何か踏んだことが原因か、積み上げていたガラクタが一個また一個と、落ちる落ちる!

 しかも、連鎖的に落ちて部屋中に埃が舞った。

 だから障壁魔法で自身を守りながら、大急ぎで騒がしい部屋から脱出したのだった。



おまけ。


インペリアルトパーズジャガー事件後。


修理屋「これが見積……」

タチアナ「もちろん新しく付け替えよねっ?! ね!」

サブマス(お金に厳しいモード)「タチアナちゃん、邪魔だよ。今、見積もり見てるの。…………うん。新しく付け替えたほうが安そうだ。それで頼むよ」

タチアナ「うひょ~い! うっひょ、(大興奮!)うっほ、うほうほ、うほうほ、うほほ!」

解体メンバー「姐さん! その笑い方はマズイですよ! 女の子の自覚を持ってください!!」

修理屋「…………」


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