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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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061: ある夏の二日間① ~今日の話題~



 ここは冒険者ギルド。冒険者へ仕事を紹介している組織だ。

 紹介といっても大体は掲示版に貼り出しているので、冒険者はそれらを見て、どの依頼を受けるか決める。決めたら受付に依頼書を持ってきてもらい、受注処理をしてから仕事に取りかかってもらう。――というのが通常の流れだ。

 そのギルド内は本日、各々集団を作り、いろいろな出来事や話題を話の種に、ざわざわとしている。

 ただでさえカウンターが混んでいるのに、ますます騒がしい。


 まず一つはこちら。

 並んでいる女性冒険者たちが、黄色い声とともに「きゃーきゃー」と暇つぶしをしているのだけど――。


「今日ってぇ、王太子様の誕生日でしょ?」

「そうそう! 普段は顔をお見せにならないカイト王子様もいらっしゃるんでしょ~?」

「あの黒髪の放蕩王子様! 王都に行ってたら、さわやかな笑顔を見れたかもな~。王族の方々は、うちら下々にも顔を見せてくれるんだろうし」

「私は王太子殿下が見たかったなぁ。シブくてかっこいいもの♡」

「王太子って結婚してんじゃん。カイト様は未婚よ♡」

「ちょっ、アンタそれって玉の輿狙いってこと? ないわ~。ツラと身分考えなさいよっ。クスッ」

「なぁによっ!! いいでしょっ! 夢くらいみたって! アンタこそ――――」


 女性冒険者数名が険悪な雰囲気を醸し出して、お互いを睨みつけ始めた。

 列が乱れてきたけど、どうしようかな。他の人の迷惑になるなら……。


「――げっ! おい、暴れるな! 並ばねえんなら列から外れろ! 俺が並んでんだからな。――シャ、シャーロット! 俺は静かに並んでるからなっ」


 並んでいた仲間の男性が、私の視線にハッと気づいてその女性を列から外す。依頼の受注にしろ、報酬を受け取るにしろ、大体の用事はパーティー(冒険者同士、複数人で組むこと)の代表一人が並べば事足りる。

 私としては、周りの迷惑にならないようにきちっと並んでもらえれば、特に問題ない。列への視線を外した。


 シャーロットと呼ばれた私は、そのまま事務作業に集中することにする。

 男性冒険者さんが、私に静かに並んでいることを主張したのは理由がある。私がこういったとき、どう対応をするか知っているからだろう。だから彼は、きちっと並び他人に迷惑をかけていないと主張したのだ。……大げさだと思うけどね。



 ――今日の朝からギルド内はこんな感じだ。

 確かに本日は、ここフォレスター王国・王位継承順位第一位の王太子殿下のお誕生日。王都ではお祭り騒ぎだろう。

 我が国の王族の皆様は人気があり、国王様や王太子様はもちろんのこと、王女様たちも人気がある。特に黒髪のカイト王子は熱狂的なファンがついているらしい。この国を建国した召喚勇者王が黒髪だったこともあって、勇者王の再来とか言う人もいたとか……いないとか?

 まぁ、私に言わせてもらえば放蕩王子の髪の色は真っ黒というより、黒めのこげ茶色だ。


 ちなみにそんな人気の王子様だけど、めったに人前に出ないことで有名だった。その件について聞かれた王様が「あれは放蕩息子なのだ」とおっしゃったことから、陰で『放蕩王子』と言われている。

 王都には、新魔道具開発の件でこの町所属の冒険者も滞在中だ。放蕩王子を見たいと言っている人たちが多かった。ちらっとでも拝見できただろうか――――。



「こんにちは~!! 学園都市ジェイミから来ましたっす~! よろしくおねがいしまーーっす!!」


 王都のことを考えていると、私より年下の三人がギルドに入ってきて、出入り口で元気よく挨拶をした。かわいらしい女の子三人組だ。

 本日、何組目の挨拶だろう。

 周りの冒険者たちは、挨拶を返したり、手を軽くあげたり、顔だけ向けたりといろいろな反応を示す。


 本日の話題その二。

 アーリズの町に、学園都市から生徒たちがやってきているのだ。

 学園都市というのは、アーリズから北西のところにあるジェイミという町のことで、騎士や高ランクの冒険者を目指す子供たちの学校がある。

 なんでも毎年この時期に、生徒たちは様々な町村から一つを選んで一定期間滞在し、その地域の冒険者ギルドを利用して修業することになっているらしい。

 あの新魔道具開発の人選会議で、フェリオさんが「この時期忙しい」と言っていたのはこのことだったのだ。


 毎年恒例らしいけど、私は初めて知った。二年前はこの町の領主が変わるほどの事件があってタイミングが悪く、去年は冒険者ギルドの立て直しにいまいち不安があったようで来なかったのだ。

 二年前の事件というのは、ここアーリズの町の前領主と冒険者ギルドの前ギルドマスターが、国家反逆罪でお縄になった事件だ。そんなごちゃごちゃした町に子供たちが来るわけがない。


 今年やってきてくれたということは、「この町のギルドはもう大丈夫だ」と学園都市側も認めてくれたということなのかもしれない――そんなことをフェリオさんたちが言っていたっけ。


 我がギルドにいる大人の冒険者たちは、子供が多く入ってきてギルド内が少し狭くなろうとも、いつもどおりの行動をしている。子供相手に突っかかることはない。

 まぁ、そのような冒険者はこの町にはいないからね。この町出身か否か関係なく、他の町から来ていようとも、子供相手にいちゃもんをつける大人はいない(・・・)。そう、いない(・・・)のだ。


「アーリズの町って、初めて来ましたけど、本当にいるっすね! 隅っこに倒れている人が!」


 近くの冒険者相手に、子供たちは興奮しながら話しかけている。おそらくこの建物の端に倒れている数人の冒険者たちのことだろう。


「おぅ。お前ぇらも気ぃつけろ? ギルド内で喧嘩や因縁なんてつけるもんじゃねぇ。あと、ここが重要だ。カウンターに用事があるときは並ぶこと、だ」


 うんうん。そのとおり。


「じゃねぇと、追い出されちまうからな」


 私は今、カウンターで事務処理をしているからそちらを見ることができないけど、どうも視線を感じた。

 三つめの話題は……いや、話題ではなくこれはただの結果だけど……ん?


「これ!! ワタシを先に通さんかっ! っさいのもたくさんおって! 全員ワタシの前から退くのだ!」


「そこの人! ご覧のとおり並んでいただいておりますので、用事があるなら最後尾にお並びください」


 列をかき分けようとじたばたしている男性に、私は注意した。

 こちらに用事があるのはわかる。私から見て、左の壁の掲示板に貼ってある依頼書を見ていたし、そこの依頼書をはがして手に持っているのだから。

 依頼を受けるには、カウンターで受注処理をしないといけないからね。


「このっ受付の小娘がっ!! くぅ~~っ、邪魔だ! 子供はどけぃ!! ワタシを誰だと思っておる。はくしゃくううううっぶぅぅぅ!!」


「ギルド内で暴力に及んだ方には、一度外へ出ていただいております」


 列に分け入ろうとした男は、まるでくしゃみをしそうに叫んで、つぶれた顔になった。

 なぜなら、近くにいた子をどついたので、私が遠慮なく彼の真正面に障壁魔法を出し、ギルドから一気に追い出したからだ。

 私の障壁魔法は、ガラスの板のような透明な壁の形状にできる。それを垂直に立て、乱暴な冒険者に勢いよく当てて、そのまま出入り口に向かって移動させたというわけだ。本日何回目かの障壁魔法だった。


 そう。三つめの話題および結果は、学園から来た子供たちを列から無理やりどかそうとしたり、順番を譲るよう脅迫したりした冒険者たちを、ギルドの外に追い出した――ということだ。倒れた人はギルドの角にまとめて置いている。


 やれやれ、まったく。

 いい大人がカウンター上の横断幕「横入り禁止」を見ないようではだめだし、子供を押しのけるのも全くなっていない。

 そんな冒険者はギルドにはいない(・・・)ことになるのだ。


 ――そうそう。最近スタンピードや召喚石閉じ込め作業のおかげで、私の『速さ』が上がった。障壁の移動速度が速くなってきたのだ。とても嬉しい。



・新魔道具人選会議は「022: 青天の霹靂」にて書いてあります。




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