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006: 低ランクの治癒魔法使い


 次の日の昼休み、私は昼ご飯を食べに出た。

 作ればいいのだろうけど、この町はご飯がおいしい。私が作るより断然いい! と自分で納得して大体昼は作らない。買う。

 今日はどれにしようかな。

 この国はパンもあれば、コメもある。肉はダンジョンが近い場所柄、魔物肉が豊富。


 今日はこれにしよう。たまに買う店で目に留まった品に決めた。

 パンが上下にあって、中にレタレタス、オークの肉が挟まっている。

 オークの肉はこの国では定番の食材だ。


 広場のベンチに座って食べる。

 パンはふかふか、レタレタスはパリッ、肉はおいしい。

 今日も平和だなぁ。


 食べていると、広場の端のほうで『()()魔法:銅貨三枚から』と書かれた板を抱えている女性が見えた。

『鑑定』するとGランクの冒険者で、確かに治癒魔法は使えるようだ。

 治癒魔法使いは、たまに単独で自身の治癒魔法を売っている。

 つまり、他者を回復させて賃金を得ている。

 彼女は通りがかる人に声をかけているけど、どうにもいい営業になっていないみたい。


「もしかして、治癒魔法で稼ごうとしています?」


 近づいて聞いてみた。


「はい! もしかして……」

「あ、ごめんなさいね。お客さんじゃないです」


 明らかにしょんぼりする女性。

 でも仕方ない。私、疲れてないからね。


「そうじゃなくて。もし営業するなら、うちのギルド内のほうがいいかなって思って。ただし人気の場所だから、数日おきしか営業できないと思うけど」


 でも、広場でずっとやるよりはいいと思う。

 ギルドのほうが、怪我がつきものの冒険者が集まるから。


 その女性を連れてギルドに戻り、ギルド内で治癒魔法使いが普段営業しているロビーの一隅に案内した。

 今日の当番でそこにいた男性治癒魔法使いさんが、営業について彼女に説明してくれるようなので、あとは任せることにする。これからは、彼女に割り当てられた日にここで営業することになるだろう。前世でいうところのシフト制といったところだ。

 彼女は一通り説明を聞いたあと、私を見つけて駆け寄ってきた。


「あの本日はこれで帰りますけれども、こちらを紹介してくださってありがとうございました!」


 彼女は昨日今日と広場にいたものの、全く収益に繋がらないのでほとほと困っていたらしい。今後の見通しが立って、少し安心した顔で帰っていった。




 昼休み終了後、カウンター業務にて早速、治癒魔法が必要な冒険者がやってきた。

 素材を売りに来たパーティーの一人で、彼を『鑑定』スキルで見ると、状態異常の項目に『毒』と記されてあったのだ。


「顔色悪いですけど、大丈夫ですか? どうも毒にかかったときと症状が似ている気がしますけど。どこかで毒持ちの魔物にでも襲われました?」


 この辺に毒持ちの魔物は確かにいるけど、それだろうか。それとも違う魔物がうろうろしているのだろうか。そういうことなら情報をもらいたい。それに、なぜ治療しないのかも気になった。


「やっぱりそう思うよね? ほら、受付さんもそう言ってるし、意地張ってないで治療院行こうよ」


 同じパーティーの一人が、毒にかかっている仲間に治療を勧めた。彼は野営時に軽く襲われたけど、軽傷で済んだらしい。それに姿をはっきり確認できず、すぐ逃げ出す弱い魔物だったので気にしていなかったそうだ。

 そんな彼だけど、町が近づくにつれて、だるさが我慢できなくなってきたらしい。

 しかし肝心の魔物をよく見ていないので、毒にかかっているかいないのかはっきり断定できず、そのままにしていたとのこと。


 普通ならギルドより先に治療院に行くか、とっくに薬を使っているところだ。しかし、本人がお金を渋るし、毒消しや体力回復系の薬も使い切ってしまったのだそう。そして治癒魔法を使える仲間もいないときた。


 ……よく今まで生きてこれたね。


 そう思うものの、若いパーティーには、回復は二の次としているところも多い。討伐数を稼ぐことこそランクアップの近道と思っているようだ。もちろん、個人やパーティーの戦闘方針を否定するつもりはない。

 ないけど、ここまでたどり着けなかったら危なかったと思う……。


 治療院とは病院のような施設だ。専門施設なので、症状に合った治療がしっかりとできる。しかし、その分治療費が高い。

 余裕のない冒険者は、あまりお金を使いたくないだろう。寝れば治ると思っているふしもある。

 青い顔をしている彼の体力値の減り方を見れば、強い毒ではないとわかる。微弱な毒だから我慢できたのだろう。


「ここまで歩いてこられたなら、軽い毒かもしれないですよ。そちらにいる治癒魔法使いさんと交渉してみてはどうでしょう」


 私はギルド内に治癒魔法使いが待機していることを説明して、片隅に座っている人物を指し示した。向こうも気づいたのか、にこにこと手を上げて「こっちですよ」と冒険者を呼ぶ。それでも渋々といった表情をしていた彼は……体力が二割を切って力尽き、床に倒れ込んだところを仲間に引きずられていった。

 今日の当番の治癒魔法使いさんなら毒も消せるし、ついでに回復してもらえばいい。


 ギルドにはこのように常に一人、新米や低ランクの治癒魔法使いが常駐している。

 パーティーに加入していない単独冒険者で、かつ依頼をすぐに受けられない治癒魔法使いを応援するためにロビーの隅の場所を貸しているのだ。ギルドで雇っているわけではない。空いている場所で治癒魔法の営業をしてもいいよ、というだけだ。

 何人かいる治癒魔法使いに自分たちで勤務日程を決めてもらい、冒険者との費用交渉は自分たちでやってもらうことになっている。

 もちろん依頼ではないのでギルドのランクポイントは入らないけど、その分ギルド側も場所を提供しているからといって利用料を要求することはない。パーティーに入るまでのつなぎでやる人が多いかな。


 なぜ低ランクだけなのかというと、高ランクや治癒の力量がある人は、すでにパーティーに勧誘されているか治療院で働けるからだ。


 中ランクでも治癒魔法使いはパーティーに勧誘されることが多いし、そうでなければ南東のダンジョンに行って、修行しながら稼ぐほうが割がいい。


 低ランクの治癒魔法使いは、なかなかパーティーに誘われないし、ダンジョンに行っても帰ってこられるかあやしいのだ。

 しかし、魔法は実際に使うことによって技術が向上する。

 だからギルドにて修行を兼ねて安く治癒魔法を行い、顔を売っておいて実力を知ってもらった頃にパーティーに加わるという流れが多い。


 はじめは、今日みたいに広場で治癒営業している人たちを見て、効率が悪そうと思ったのがきっかけだった。

 広場は人が多いけど、治療院が近くにあるから怪我した人は最初からそこへ行く。

 わざわざ技術の低い治癒魔法使いに頼まない。


 そんな空振り営業している治癒魔法使いに、「ギルドには怪我した冒険者や、全快してから仕事をしたい人が来る。椅子もある」と誘ったのがはじまりだ。

 それをきっかけにパーティーに誘われる人が増えたものだから、その噂を聞いて新人治癒魔法使いがさらに集まるようになった。


 シフト表はそれからしばらく経って、『人数が多くなって、誰がいつ担当か、わかりづらくて困っている』と治癒魔法使いの皆さんから相談されたので作った。

 紙に枠線を書いて表を作り、治癒魔法使いさんが使う席の背後の壁に貼ることにしたのだ。何の月の、何日は、誰担当と枠内に書いてもらっている。


 名前の上に×(バツ)と記されているのは、パーティーに勧誘されたり、違う仕事が見つかったりとここにはもう来ない人のことだ。


 シフト表も前世の知識といえるかな。

 この世界では、一つの場所で大勢の人数が、それぞれ別の日で働く形態というものがほぼない。


 だからここのギルドにもシフト表はなかった。休日以外は全員出るし、夜はギルドが閉まるのだから。

 他の店もそう。働く日は働く。休みは休み。夜は暗いから仕事はできない。

 全員同じだからシフト表を作る必要がない。


 さて、仲間たちに引きずられて、(くだん)の治癒魔法使いさんに治してもらっていた彼は今どうなっているかな。

 一応気になって、ちゃんと治っているか確認したけど、毒もなくなって体力も八割方回復していく最中だった。

 間に合わなさそうだったらポーションを頭からかけようかなと思っていたけど、問題なくてよかった。

 または私も治癒魔法が使えるので、ぱっとやってあげてもいい。だけど、治癒魔法使いさんには「営業妨害だ」とにらまれるだろうからやらない……。それに、カウンターに人が並んでいるからね。


 その後元気になった彼は、仲間と一緒にその治癒魔法使いさんと話をし、それがまとまるとパーティー加入の用紙を書いて私のところに提出した。

 一方、治癒魔法使いさんは壁のシフト表に向き合って、自身の名前に×(バツ)を書く。にこにことして。その表情のまま、顔見知りに挨拶をしていた。


 ギルドで営業をするかけだしの治癒魔法使いさんたちは、自分で自分の名前に×(バツ)を書くのを楽しみにしているのだ。



 新しい門出おめでとう! 体調には気をつけて冒険者生活を送ってね。





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