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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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054: 召喚石⑤ ~受付嬢、連行される~



“……ぃ…………っ……”



「ん?」


 声が聞こえた気がしたけど、そのあと騎士たちの喜びの声がかぶさり、野次馬たちによるざわつきもあって気のせいだと思った。

 それに私もやっとハデハデゴテゴテを取れると安心していた。途端――。


“……ぃ……よぅ…………”


 すぐそばに、光でできた人の影がいることに気づいた。


「わっ!」


 急いで障壁を出したけれど、その光の人影は攻撃してくることはなかった。

 しかし私の叫び声と障壁で、何か起きたのかとこちらに注目が集まってしまった。

 それどころか、よく見ると五~六歳くらいの子供の背丈だし、顔の表情は泣いているように見えなくもない。


“――こわいよう……なぁに、これ……”


 この光が発しているのだろう声も子供のものだ。


“隠れているんだ! 俺はこの石をこわ……ぐげっ”


 子供だけではない。男性の光も少し離れたところにいた。しかし、すぐに上半身が半分ひしゃげたように崩れた。


“パパーーーー! うわああーーーーん”


“あっ、あなたぁぁーー! い、石が食べ…………っ、ぅ゛っ……”


 女性の光も近くにあって、子供を守ろうとしているように見えた。しかしすぐ光の半分がつぶれ、沈黙する。


“ママー! ママぁぁーー! いぎゃっ。ぃぃぃぃぁぁ! …………”


 最後に子供の形をした光が残ったけど、それも足が消え、悲鳴を上げたかと思えば、頭ごと上半身が消えて下半身も消失した。今までの光は跡形もなく消え、まるで最初から何事もなかったかのように微塵も残らなかった。


 …………。


 歓喜の雰囲気が一転、空恐ろしい光景によって空気が固まった。

 私はやっと足が動いたかのように後ろに下がってしまい、背中が何かにぶつかる。振り向くと、そこには眉間にしわを寄せたサブマスが立っていた。


「……サ、サブマス…………。い、今の何ですか……?」


 騎士の皆さんも驚いている様子だから、私だけが見た幻ではない。


「…………さあね……」


 サブマスはそれだけを言った。その表情を窺うだけでは、知っていてはぐらかしているのか、本当に知らないのか、わからなかった。


 ――――ぱんぱんっ。


 そのとき、この空気を変える音が響いた。この町の騎士団長さんだ。


「さあ。急いで撤収しなさい」


 その音と声で周りはハッとする。私も少し思うところがあるものの、自身の格好を思い起こしていろいろ脱ごうとこの場を離れようとする。


「壁張り職人」


 離れたところでブーツを脱ごうとしたら横から声がした。メロディーさんの旦那さんだ。


「はい……(あっ)」


 思わず返事をしてしまったけど、かわいくない称号で呼ばれたのだから無視すればよかった。あの出来事のせいで気もそぞろだった。


「メ、メロディーは無事か?!」


「……え。メロディーさんは私のあとにお昼へ行く予定ですけど。だから今はギルドにいますよ」


「そうか。メロディーは近くにいないのだな。よかった……」


 あんな光景を見たはずなのに、すぐ奥さんのことに気持ちを切り替えるとは……、相変わらずな旦那さんだ。いや……だからこそ、かな。


「メロディーが、この場にいたらどうしようかと不安でな。あんな攻撃にメロディーがさらされたら大変だ! ――いや、待て。今このとき、ギルドに不審な男が現れたらどうする。男だけではない。女でも不審な者はいるではないか! やはりギルドの受付なぞ危険ではなっ、ぐあぁぁぁぁぅっ――!」


 熱弁を始めた旦那さんに、団長さんの強烈なパンチが横から繰り出される。固い鎧があるから顔を殴ると思われたその拳は、わき腹の部分を襲った。その部分の鎧が(へこ)んでいるように見えるのは気のせい……ではないだろう。

 そして、私から見てななめ前方に倒れたところを、すかさず彼の同僚たちが両脇を抱えて引きずり去っていった。息のあった流れ作業だ。


(旦那さん……。召喚石の破壊作業時は凛々しかったのに。……台無し)


 しかしその彼の首元にはキラキラ光る鎖が見えたので、微笑ましかった。おそらくあの中には、彼の大事な人の姿絵が入っているのだから。


「くっっくくく。何だい、メロディーちゃんのところの……あれが素かい」


「ええ。そうですね~」


 旦那さんは頻繁にメロディーさんを迎えに来るので、サブマスも顔は知っている。いつもお堅い騎士を装って、短く挨拶する旦那さんだから、サブマスもそういった印象を持っていただろうけど、とうとうあの――メロディーさんのこととなったら暴走する性格が知られてしまったようだ。

 まぁ、時間の問題だったかもしれないけどね。


「では、ギルドに戻りますね」


 ジャラジャラを取ってから。――と言おうとした。


「その前に我々についてきてもらいますよ。今回の件でお礼(・・)をさせていただきたいですからね」


 しかしそこで、笑顔に見える騎士団長さんに呼び止められた。


「え? あ、いえお礼は別に……」


「遠慮はいりませんよ。馬車を用意しています。さあ、乗りなさい」


 顔は笑っているはずなのに、有無を言わせない圧力があった――。



 ○ ○



「――こちらで少々お待ちを。その間どうぞ召し上がりください」


 騎士団が使用する施設のとある一室で、ドアがバタンと閉まった。部屋の隅には、見張りの騎士さんが直立不動で立っている。

 今は静かに立っているけど、私が何か不穏な動きをしたら全力で事に当たるに違いない。

 これは逃げてもいい結果にならなそうだ。

 せっかくだし、待っているあいだはお菓子をありがたくいただこう。


 私が今ここにいるのは、結局あのあと多少の抵抗をするも、馬車に乗ることは避けられなかったからだ。


『せめて! せめてブーツを脱がせてください!』


 と、必死に懇願したことは何とか叶った……。

 馬車内で脱いだらプ~ンとにおってしまうため先に脱ぎたい、という気持ちは伝わり、女性騎士を見張りに立たせることで騎士団長さんは了承してくれた。


 そのあとがだめだった。

 本当の狙いは逃走だったので「あ~、脱ぎにくいなぁ」とゆっくりブーツを脱ぎつつ、逃げる算段をしたものの、その考えは容易く読まれてしまったのだ。

 団長さんの指示でさらに追加された女性騎士数名に周りを囲まれ、結局逃げられなかった。

 まぁ、逃げたあとのことはよく考えていなかったから、そこがうまくいってもしょうがなかったかもしれない。


 しかも女性騎士の皆さんに「私……臭いんで、も少し離れてください……」と言ったけど、一歩も離れてくれなかった。「慣れているからお構いなく」と言われる始末だ。

 あきらめて囲まれながらブーツを脱ぎ、狭い馬車の中で残りの帽子や指輪を取ることにしたのだ。



「おいしっ」


 連行されてしまっては仕方がないので、食べることに集中する。

 お昼を食べ損ねたから嬉しかった。最近は、パテシさん以外にも凝ったお菓子を作る人が増えて喜ばしい。アイスティーも飲んで涼しくなったし、お菓子にも合う。


 ――ガチャ。


 大方食べ終わると、席をはずしていた騎士団長さんが姿を現した。

 隣に部下らしき騎士さんもいる。お盆に金貨袋を乗せているようだ。いや、あれは金貨(・・)袋ではない。


「強引に連れてきてしまってすみませんね。すぐにお話しさせていただきたかったものですから」


 にこやかに話を切り出す団長さん。その雰囲気に、やっぱり強引に分け入ったのがいけなかったのかな、と思った。

 そんな団長さんは、ひとまず今回の件で謝辞を伝えてくれる。


「いつもスタンピードの際は、戦いぶりを拝見していますよ。本日も、実に素晴らしいお手並みでした。騎士の中に死者も重症者も出なかったこと、改めてお礼を言わせてもらいます。――ですが、今回のことは他言無用に願います」


 何となくこういう流れになるとわかってはいた。きっと、一般人には今回の事件を伝える気はないのだと。だから、口止めをされるだろうなぁと予想していたのだ。

 まさか、お菓子とアイスティーとお金まで出てくるとは思わなかったけど。


「もちろんですよ」


 ぺらぺらしゃべる気はないので了承した。

 騎士団長さんは部下が置いたお盆の上にあるものを示してさらに続ける。


「では、こちらもお受け取りください」


「……いえ、いただくわけには……。そんな大層なことはしてませんし、騎士さんたちのお仕事を取ってしまったのは、悪かったなぁと思ってますので……」


「まあまあ。その点は気になさらなくともよいのですよ。どうぞ、中身を確認してください」


 いや、見なくても『鑑定』スキルで金貨袋ではないことはわかっている。


「さぁ。――足りなければおっしゃってください。逆に金額が多いというのであれば、今後とも、貴女の魔法で町を守っていただければ幸いです。もちろん今回のような石は、二度とこの町に入れませんが」


 聞いているとどうも今回の口止め料と言うより『今後もこの町を守る手助けをしてね』と圧力をかけられている気分だ。


「……お金を用意していただかなくても、スタンピードのときはいつも参加していますよ? 町の平穏を守るのは至極当然です」


 住んでいるのだから当然、と伝えつつ袋の中身を渋々見る。ついでに「えっ、こんなに……?」とつぶやいておいた。

 この袋を開ける前から『鑑定』スキルで金貨ではなく、大金貨が入っていることはわかっていたし、数えていないのに枚数も表示されているので知っていた。しかし、ここで驚いておくことが普通の人の反応だろう。だから『演技』スキルでがんばった。


 大金貨とは、金貨より一枚の価値が高く、白金貨よりは低い貨幣だ。それがかなりの枚数入っている。


(だからといって安易に受け取るのもなぁ……)


 何か他の思惑もあるのではなかろうか。

 そんなことを考えていると、騎士団長さんはさらなる方法で受け取らせようとした。


「――そうですか。それなら騎士団が貴女に依頼を出したということにしてもいいですね。そうしましょう」


「……いや、いえ! そこまでしていただかなくとも……い、いただきます……」


 私に依頼を出すというのはもちろん可能だ。しかしギルドを通すとしっかり記録されるので、『騎士団がAランク冒険者の小娘(しかも受付兼業)に依頼をした』と知られてしまう。つまり大いに目立ってしまう。せっかく町で普通にギルドの職員をやっているのだから、これからもなるべく静かにすごしたい。

 

 にこやかにしているけれど、さすが押しの強い団長さん。受け取らせるためには、こういったことも流れるようにやってのけるらしい。


「受け取ってもらえてよかった。――そうそう。後日、今回の件で話を伺いたいと言っている者がいましてね。そのときはギルドまで伺うようです」


「え。何ですか、それ。どんな人なんですか」


「例の石は未使用の状態で発見されるのは珍しいそうで、王都から来ている者が個別に話を聞きたいそうです。どのような人物かと言われたら……そうですね。先ほど、馬車に乗る前に例の家に入っていった黒い者たちですよ」


 実は『黒い者たち』には、かの現場で遭遇していた。

 残念ながら顔を見ることはできなかったけど、馬車が出発する前に聞こえた声がそうだろう。


『アーリズの騎士ってすごいじゃん。オレらいらなかったな~。はっははは』


 あとからやってきて、「楽ちんだな~」と明るそうな声を出していた。

 顔を見ることができなかったのは、声がしたタイミングで馬車が出発し、窓から覗いても死角になって見えなかったからだ。

 その声は、昼にギルドでぶつかった人と似ていた気がする。


 そして彼の他にも黒装束の人は複数いて、一斉に問題の家に入っていったのだ。

 そういえば、笑いをおさめた彼が号令をかけていたけど、何と言っていたっけ。確か――。


『あの悪食を粉々にして回収しろよ~』

 ……だったかな。どういう意味なのだろう。いわゆる隠語かな。


 そして、その集団は不気味だった。

 なぜならとっさに『探索』スキルを使ってみたものの、黒装束の人たち全員が『探索』スキルに引っかからなかったからだ。

 あのときは不思議だったけど、元々そういった秘密の任務を負っていたのなら納得できる。

 召喚石という一般人が知ってはいけない物を探す組織……。そこの者たちなら、隠れたり気配を消したりと『隠匿』系スキルを持っていてもおかしくない。


 ――そう。私は団長さんの話を聞いて、サブマスが朝話していたことを思い出した。そしてあとから来た黒い者たちが、召喚石を調査する組織の人たちではないかなと見当をつけていたのだ。


「そしてもし、その者が貴女に何か吹きこんできた際は、すぐにご一報ください」


「え?」


「そうですね。はっきり言いましょう。引き抜きの話が出たらぜひお教えください」


 ……なぜ私にお金を受け取らせたのか、団長さんの言葉でわかった。

 障壁魔法使いは少ないわけではないけど、質の高い使い手はこの国では王都にやや集中しているらしい。昔、おかあさんからも聞いたことがあった。

 大きな障壁を作れるのは、この町では私くらい……団長さんが言いたいのは『王都の怪しげな組織に誘われたら断ってね。もしものときは相談してね。ほら、お金も受け取ったでしょう?』ということだろう。

 どちらにしろ王都は今、新魔道具作製中だから行く気はさらさらない。

 そうは言ったとしても、返金にはもう応じてくれないだろう。


 私がお金を渋々いただいて、引き抜き云々の話に了承すると、騎士団長さんたちは退室した。

 そうしてやっと外に出してもらえた。


 外はすっかりオレンジ色に照らされている。


「――シャルちゃん」


 敷地内から出ると、傾き出した日を背にしたサブマスが、そこで待っていた――――。



〈 次回予告 ……というおまけ〉

(興味ない方には、スクロールの手間をおかけします)



 シャルを今か今かと待っていたサブマス。


サブマス「まさか騎士にたかっているとはね(ーoー)」


シャル「おほほ。さきほどのケーキはおいしかったですよ~(゜▽゜)/」


サブマス「くっ。これ以上ケーキを食べるつもりなら、勝負だよ!」


 ケーキを綺麗に持ち帰ることに定評があるシャロットと、水魔法でおいしい水を作れるサブマス。一体どちらが勝つのか。

 そして、勝敗は何で決まるのか…………!

 今、二人の戦いの火蓋が切って落とされた!

 周囲は野次馬でいっぱいだ!

 そんななか、フェリオは司会をかってでる。


フェリオ「勝者には、パティシエ・パテシのケーキ一年分と、漬物王が直々に漬けた漬物一年分が贈呈される」


パテシ「二人ともがんばってね!(これで店の知名度がもっと上がる……!)」


漬物王「冒険しながら作り続けてきたかいがあったな~(これで商人デビューかも~)」


 それぞれの思惑が絡み合うなか、ギルドのナンバー2をかけた戦いが今始まった…………!!(そんな戦いだったっけ)




※ クリスマスイブくらいまで出していたおまけです。復刻しました。(需要があるのかは知りませんが^^;)


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