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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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053: 召喚石④ ~斬新なファッション~



 漬物石、もとい召喚石から謎の光がこちらに迫ってくる。

 私を捕まえようとしているように見えた。そして包み込もうというより、無理やり掴もうとするような光だった……。

 ――錯覚や勘違いだろうけど。



 こんな妄想のようなことができるのは当然、私が気を失ったからでも、怪我したからでも、ましてや死んだからでもない。

 突如私の目の前に、分厚い水の壁が立ったからだ。それも少し斜めになっていた。そして光が水の壁から出てきたときには、なぜか私のほうには向かわず斜め上に()れた。


(こっちに向かってきていたのに……この水の壁のおかげ? 向きが関係しているのかな。というか、こんな計算高い水魔法を使えるのは、もしかして……)


 そのとき後ろから襟を引っぱられた。


「ぐえっ」


 到底女性が上げる声ではないけれど、首が詰まったのだから仕方ない。

 さらにあの石から距離を置くと、手を離されたので地面にお尻を打った。


「いたっ」


 そのまま手首を掴まれ、引きずるように連れていかれる。

 背中からでも溢れ出る怒りが感じられれるその人物は――。


「サブマス、あんな水魔法使えたんですね~。あの壁が斜めだったのは……ちょっ! 止まってください。痛いです!」


 手首が痛い。抵抗しようと足で踏んばるけど、全く速度が緩まない。靴の底が擦り減りそうだ。


「サブマス~~! おじいちゃ~~ん! 聞こえてますよねー?」


 呼んでも叫んでも、悪口を言っても足は止まらないので、進む方角に障壁を張った。


 ――ピタ。


 障壁が目の前に、しかも回り道ができないよう道の端から端まで広くさえぎったから、やっと止まってくれた。


「――シャルちゃん」


 お怒りであることが、大変よくわかる声音だった。

 ゆっくり振り返るその表情はいつもの雰囲気ではなく、こめかみに青筋が立ち、私の身長より高い位置から圧を感じるくらいに見下ろされている。

 正直、今朝の『威圧』スキルより今の顔のほうが怖いけれど、負けてはいられない。


「さ、サブマス! どこ行くんですか。アレから遠ざかってますよ」


「関わるなと言ったのにまだわからないのかい。まさか、アレに掴まれても大丈夫だとは思っていないよね?」


「もちろんですよ。皆さん怪我しているじゃないですか」


 近くにいた騎士さんたちは、召喚石から発する謎の光がかすって怪我をしていた。


「というか、あの光は何なんですか? 召喚石は攻撃もするんですか?」


「知らないよ。未使用の召喚石は初めて見るからね」


「……そうですか。とにかく! 騎士の皆さんだけでは、立ち往生ですよ」


 掴まれていないほうの手で後ろを指して、現状を伝える。


「君が行って何かできるとでも? さっき障壁魔法は、ことごとく、――割れたよね」


 現実を教えようと、はっきり区切って指摘するサブマス。だがしかし、これで私の心が折れると思ったら大間違いだ。


「サブマス。それは私が油断していたからです!」


「ふうん」


「相手は石だと思い、多少軽く見ていました。だから準備をします!」


 そう。能力値が上がる装備品を身に着けずに、のこのこ参加してしまったのがいけなかった。

 相手はただの石に見えても、召喚石という危険物だ。

 私の能力値は二年前より確実に上がっているけど、油断してはいけなかった。だから、装備を整えて再度立ち向かおう。


 まずはこちらを収納魔法から出した。

 一定時間ごとに『魔力』を20%回復する腕輪。

 ()()()()()()が出たあのスタンピードでも装備していた腕輪だ。

 元故郷の物置にあった物で、小さい頃からの愛用品だ。


 サブマスの手を離させて、掴まれていた手首に装着した。

 これで魔力の消費をあまり気にせずに済む。その証拠に、先ほど障壁を出した分は回復しつつあった。しかも、幅の広い腕輪なので手の跡をほとんど隠せる。……サブマスにすごい力で腕を掴まれたからね……。


 次に出したのは、ニーハイブーツ。

 こちらは主に『速さ』が上がる。『速さ』の値は、足の速さだけが関係するわけではない。魔法を出す速さにも関係してくる。つまりあの漬物石の周りに、素早く障壁を張る助けになるというわけだ。

 ちなみに私の『速記』スキルは、手が動く速さに関わるので『速さ』の数値も関係する。


「……暑いのに、それ、履くのかい」


 そう。現在の季節は夏。真夏間近!

 こんなニーハイブーツを履いていては、確実に蒸れてしまう。しかし他の手持ちを考えると、足元装備はこれが妥当だ。サブマスが私を見張っているけど、気にせず靴を履きかえる。

 別にスカートを穿いているわけではないので、自由に履いて問題ない。堂々と履いた。

 そして、次々と使えそうな物を収納魔法から出していく。


(これと、これ。これ……は、どうしよう。あと、これ。それから~)


 ポイポイ出していき、大体これくらいかなと思ったらどんどん着る。


 身に着けるだけ身に着けたら、先ほどの漬物石のところへ足を踏み出した。

 周辺には攻撃の手段を模索していたり、怪我を治療していたりする騎士さんたちがいる。

 騎士団にも治癒魔法を使える人がいるけれど、謎の光に攻撃された全員を治すには人数や時間が足りないらしい。


 あの光は家の壁も壊して人に攻撃するという、何とも迷惑な攻撃をしていた。ま、私の障壁を破れるのなら、安そうな家(他人(ひと)のこと言えた義理じゃない)の壁なんて簡単に壊れるだろうけど。

 だから家の裏に回った騎士たちも攻撃に曝されて、今は治癒魔法の順番待ちだ。


 それなら。と、手始めに騎士たち(・・)へ治癒魔法をかけることにした。


「皆さんに、“きゅあ”!」


 怪我人全員に行き渡るように、広範囲に治癒魔法をかけた。

 騎士たちはそれを聞いて、声がした後方へ目を向けた。声で私だとわかる人がほとんどなので、「戻ってきたのか」と邪魔そうに、または追っ払おうとする人や、反対に礼などを述べようとする人がいただろう。


 しかし振り返った瞬間、何を言おうとしたのか忘れてしまったようだ。騎士には女性もいるけど、私の姿を見た途端、男女ともに言葉をなくしてしまった。


 なぜなら私の格好を見たからだ。

 腕輪は、まぁいい。しかし腕に目が行っている人は多くないはず……。足元を見ている人はそれなりにいるようだ。この季節にブーツを履いている……と思っていることだろう。

 しかしそれだけではないから、皆さん言葉を発せないでいる。

 私が収納魔法からぽいぽい出した物を、全部着けていたからだ。


 それでは順にご紹介しよう。


 まず目につくのは面積の広いこれだと思う。

 青のフレアスカート「知力:+54」。

 フレアスカートとは、ふわっとした形のスカート。つまり下に制服を着ていても、あまりごわつかないということだ。着替えるところがないから、狭い路地を見つけてそこで穿いた。別に脱ぐわけじゃないし、制服はスカートじゃないから下着は見えないけど……何となくこそこそと穿いたのだ。


 次は腰につけるベルトだ。青のスカートにぎりぎり合う……かな。

 薄いピンクのベルト「知力:+25」だ。

 どこかのダンジョンで手に入れたと思う。


 頭につける物――真っ赤なリボン「知力:+14」も用意した。

 暑いから髪をこれで結び、下半身の暑苦しさをこれで少しでも涼しく見せる狙いがある……かもしれない。


 アクセサリーはたくさん身に着けた。ゴールドの腕輪「知力:+21、魔力:+5」が太陽を反射する。

 よく見ると文字のような模様が彫ってある。これは念こめて彫った物だから『知力』と『魔力』が上がるのだと、どこかの国の店主が言っていた。それを魔力回復の腕輪とは反対の腕に着けた。


 首元には知力アップのネックレス「知力:+32」だ。

 たぶん、チェーンに知力が上がる効果が付与してあるのだろう。三連のチェーンネックレスだ。素材はシルバー。……ゴールドとシルバーが混在し統一感がまるでない。

 しかしまだ続く。


 次は指輪だ。あるだけ着けた!

 知力が上がる指輪をとにかく全部つける。大きめの指輪は親指に嵌めて、小さめの指輪は小指に、そしてあとは嵌められるだけ嵌めた。ゴールド、シルバー、小さいけど宝石付きもあって、統一性はもちろんない。これで知力は大体250上がったはず。


 白い刺繍付き手袋「知力:+65、耐久:+12」も収納から出した。

 腕輪を二つも着けて指輪も着けたあとに、この手袋を出してしまったものだから、手に嵌めるのが億劫になった。頭を捻らせた結果、ピンクのベルトに挟めておくことにした。装備品というのは手につけていなくても、身に着けてさえいればいいのだ。

 だからベルトに挟めてひらひらさせていても、身に着けていることに変わりはない! と、開き直ることにした。


 最後はふわふわの帽子「知力:+150」。

 メロディーさんと買い物に行ったときに見つけたあの帽子だ。涼しくなったらかぶろうと思っていたけど、思ったより早い出番だった。


 ――つまり今の私の格好は、太陽が照るこの気温の中、ブーツや帽子という季節が逆の奇抜な装いだということで、さらに、ゴールドもシルバーも使うという統一性が感じられないアクセサリーだ。

 赤、ピンク、青、白を制服の上に着ているという斬新な装いで、とても目立っている。


 しかし私は大真面目だ。戦いの装備は性能重視! そのためには見た目は二の次だ。『知力』を上げたので、漬物石には今度こそ負けない。

 ……普段は服装についてちゃんと考えている私も、今回は仕方なくハデハデ、ゴテゴテ、ヒラヒラを許容しよう。


 後ろでは、サブマスの「ひーひー」と笑いすぎる声が聞こえる。

 私が装備品をいろいろ出してどんな格好になるのか想像できたのだろう。スカートを穿いたあたりから笑いが止まらなくなっていた。


 周りには「何か変わったことをしている」と思われているだろうけど、これはれっきとした『知力』上げだ。

 今回は一定距離に入らなければ攻撃(?)されないようなので、『耐久値』は無視して『知力』を上げることに専念したのだ。


『知力値』――高ければ高いほど、魔法の威力があがる値だ。また、魔法に限らずとも薬師や武器職人、魔道具職人でも高ければ高いほどいい仕事ができる。『知力』が高いほうが威力・効果・性能など増すものなのだ。


 ただ今回は魔法を使うので。使う際の『魔力』と『知力』について、極端な説明をしよう。

 『魔力:1』『知力:100』の魔法と、『魔力:100』『知力:1』の魔法ではどう違うか。


 火の魔法を使うとする。

 前者は大きめの焚き火くらいの火を、一発でつけられるが一回だけ。後者は指先くらいの小さい火を連続してつけられる。しかし小さいのですぐ消えてしまう。そういうイメージだ。


 これだけ装備した状態で、私の能力値はどのくらい増えたのか。増えた値を『鑑定』で見てみよう。


『魔力:+5、知力:+630、速さ:+200、耐久:+12』


『知力』が増えたけど……正直あまり上がらなかったと考えるのが正しい。なぜなら『速さ』はニーハイブーツを履いただけでこの値だし、実は知力も少し上がる。

 冒険者時代の小物たちは、これほどジャラジャラつけないと増加しないのか……というのが正直なところだ。


 もし『知力』を大幅に上げるとするなら、杖、ロッドなどを使うのがいい。しかし手がふさがるのが好きではなく、冒険者だったときは『知力』はこのくらいあれば大丈夫だと過信していた。だから結局買わずにいたけど、これを教訓に購入を検討してもいいかもしれない……かな。いや、それはもったいないね。


「しっかし、回復するのが早くないか」


 全体に向けて治癒魔法を使ったのに、そんなに時間をかけずに回復した――と騎士さんたちは驚いている。

 これは『知力』が上がったから、質のよい回復ができたということだ。

 これならば、召喚石にも対抗できるということだ。次こそは障壁を壊されないようがんばっていきたい。あの家の中で悠々と鎮座する召喚石を見据える私。


「今度こそあの石を抑えますよ! 漬物石の分際には負けません!」


 そう言いつつ、腕輪や指輪が太陽の光を反射して目の端でちらちらするので邪魔だ。

 それにいつまでもこの格好では恥ずかしいし、何より暑い。


 騎士たちは私の言葉によって「漬物石にやられっぱなしでは、アーリズの騎士の名が廃る」と戦意も回復したようだし、手早く終わらせたい。


 さあ、『知力』を630ほど上乗せした障壁魔法の威力を見よ。――といっても障壁の見た目はいつもどおりだけど。



 再度、召喚石を五面の障壁に囲む。相変わらず事情を知らない野次馬にとっては、不思議な光景だろう。

 しかし騎士の皆さんは、これを見て踏み出し始める。

 一定距離近づくと、石から例の光攻撃が始まった。


 ――バチッ。


 ……音がして光が障壁を攻撃しても、障壁はそのまま立っている。

 さらに騎士たちは近づく。障壁が壊れてもすぐ逃げられる距離だ。


 バチチッッ。


 音はさっきより激しいけどまだ壊れない。

 さらに距離を詰めると、攻撃回数も激しくなる。

 なので攻撃が集中している障壁箇所が、とうとうヒビ割れ始めた。

 一人が「やはり駄目か」と言ったけれど、速さアップの効果もご覧に入れよう。


「はいっ! さらに作りますよ!」


 漬物石の周りの五面障壁の外側に、さらに五面障壁を作る。壊れる前にぱぱっと作った。見ている他の人はどう感じるかわからないけど、自分としてはかなり速くなったと自信を持って言える出来だ。

 これで内側の障壁が割れても、まだ外側に障壁がある状態になった。


 そしてもっと質を意識し、一枚一枚壊れにくい障壁をイメージして、外側にまた障壁を作る。これで三重の障壁だ。

 石を破壊しようとしている騎士さんが、それを見てさらに近づく。私はそのあいだにさらに障壁を作りあげ、何重にもしていった。障壁の色を青――石からの攻撃は阻み、それを囲む者たちの攻撃は通るような構造――にしているので、内側になるにつれてだんだん濃い青に見える。


 攻撃が集中していた箇所の障壁は、さすがにこのときには消失していたけど、外側にはまだまだ障壁が存在している。そうこうするうちに、鈍器を持った騎士の皆さんは石を囲むように陣形を組んだので、石の攻撃もばらついていく。集中攻撃をしないから、さらに障壁が壊れることが少なくなった。


(あの召喚石は人を認識して攻撃している、ということかな?)



「砕けろ!」


 威勢のいい声は、メロディーさんの旦那さんだ。その彼が持っている鈍器が振り下ろされ、私の障壁をくぐり抜けて、召喚石にとうとう当たる。


 ピキッ――――!


 漬物石は鈍器に殴られ、亀裂が走った。

 その奥から光が漏れる。


 旦那さんの一撃のあと、石を囲んだ人たちがそれに続いて次々と鈍器を振り下ろした。味方の攻撃を邪魔しないようにリズムよく、交互に粉砕していく。何だか床が抜けそうな勢いだ。


(そういえばときどき漬物石、漬物石と言っていたけど、召喚石だったっけ)


 私の障壁の出番がなくなってきたので、どうでもよいことを思う。

 日に照らされ自分だけ蒸し暑い中、室内で騎士たちの餅つき大会もとい、召喚石つき大会が開催され、もうすぐ終わる。

 石はもう全体的に割れてしまい一部は粉々だ。



 “…………ぃ…………っ……”



 そのとき、何か……声が聞こえたような気がした――――。





シャーロットのファッションショー()は、

コミック版のchapter33~35でご覧いただけます。

ご興味ありましたら、ぜひスマホにてご覧ください。


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