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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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050: 召喚石① ~祭の日に出た魔物~



「カードお返ししますね。いってらっしゃいませ」


 依頼受注の処理後、提出されたカードを冒険者に返却する。

 いつもと同じ作業だけど今日は手早く処理して、さっきまでやっていた作業に戻る。

 今日はいつもの事務仕事に加えて普段はしない作業をやっているからだ。


「次はこっちの束……」


 祭の前日の日付が書かれてある依頼発注書の、ギルド控えの束。この紙の束を一枚一枚めくり、そのつど『速読』スキルでさっと読んで確認する。

 発注書の中に私たちが捜している物はないはずだと思うけれど、再度念入りに確認するように言われたので、ペラペラめくっている。何をしているかというと――。


 祭の日以前に来たと思われる怪しい人物が、このギルドに来たか来てないかを、もう一度洗い出しているのだ。


 この作業は私だけでなく、フェリオさんもメロディーさんも、タチアナさんやギルマスたちもやっている。

 このギルドは大きい。一日だけでも大勢の発注者や受注者が来る。明日も明後日も続いたら嫌だな。


 なぜこのような作業をやっているのかというと、今日の朝にギルマスが言った一言から始まった。

 最近眉間にしわを寄せていたサブマスの様子も、これに起因している。




「――――やばいもんだったんだ。召喚石だとよ」


 獣人族のギルマスは、熊耳の毛をぴんと立たせ、非常に真面目な顔で小難しげに話す。

 一階で朝礼を早めに終わらせたあと、ギルマスが私、メロディーさん、フェリオさん、タチアナさんを呼んで一緒に地下に行ったのだ。もちろんサブマスもだ。


 ――ギルドの地下――。

 上級の魔物のスタンピードが起こったときに、避難するための場所となっている。大変頑丈で防音処理も成された場所だ。

 今のギルマスがサブマスターだった頃は物置だった。前ギルドマスターが不正で貯めた、ウハウハな壺などが置いてあったのだ。不正発覚後に証拠をすべて持っていかれたため、今はかなりの人数が入るすっきりとした空間となっている。

 私は今日ここで内緒の話をすると聞いてから、何が始まるのかとわくわ……不思議に思っていた。


 ギルマスの話は、あの祭の日のスタンピードの話だった。

 当然ウルフのほうではない。

 そのときに出た例のお菓子(おかし)な姿の魔物(ダジャレではない……よ)についてだった。

 その魔物の出現地点に、大きめの石が埋まっていたらしいのだ。その石について調査をおこなったところ『召喚石であり、その石の力により魔物が出てきた』と結論が出たとのことだった。


 “召喚石”“石のせいで魔物が出てくる”。

 そんな単語は初めて聞くし、石によって出てくるというのもイメージが掴めなかった。


「召喚せき……? って、何ですか? 召喚……は劇でそんなセリフがあったような……?」


「石の力で魔物が出てくるというのは、あの……ガーゴイルのような雰囲気とは違いますの……?」


 私は聞いたことがなかったので首を捻る。隣にいるメロディーさんも同じ表情だった。

“召喚”という言葉は、この国で初めて覚えた単語で聞き慣れない。初代王が出てくる話くらいしか聞いたことがなかった。


 メロディーさんが言っていたガーゴイルは、テーブル山ダンジョンにて低級の魔物がいる階層で出てくる魔物の種類だ。石像だと思って安易に近づくと、一瞬で姿を変え攻撃してくるという特徴を持っている。


「全く別物。ガーゴイルは石になれるという魔物。召喚石は……かなり特殊な石で、他の世界から生きているものを呼び出せる……とされている。ぼくは見たことがない。けど、久しぶりに聞いた」


 フェリオさんはいつもどおりの無表情――いや、少し固い表情、かな。珍しく長く話している。

 妖精族だから少年に見えても年はギルマスより上だ。久しぶりとは何十年前の話だろうか。百年前とかだったりして。


「僕も驚いたよ。また見ることになるとは思わなかった」


 エルフ族のサブマスはもっと長生きだ。相変わらず目が細いうえ、今日も眉間にしわが寄っている。最近よく見る表情だった。


 発見した召喚石は領主が管理することになり、その際「この石が何なのか意見を聞きたい」と言われ、調査の手伝いをしていたらしい。

 だから最近、外出が多かったのだ。その召喚石とやらは、よほど都合の悪いものなのだろう。サブマスがギルドに帰ってくるたび、渋い顔になっていくのを思い出した。


「召喚石の説明からすっか。初代王の伝記は大体知ってんだろ? この国は元は悪~い王がいて、勇者を別の世界? から呼び出したわけだ。そして結局、その勇者様が悪を正して、建国したのが我が国って話だ。で、その話に出てくる呼び出す方法に、その石が使われている……んでいいのか?」


 最後のほうはサブマスに聞いていた。こういう知識はギルマスにとっては専門外とのことだからだ。

 そういえば「召喚した」というのは聞いても「どうやって召喚したか」という召喚の仕方は、あまり聞いたことがない。


「そう。(おおむ)ねそのとおりだね。……今回そういう力を持った石があの魔物の出現地点に置いてあった、調査してみると、召喚という力が使用された痕跡があった――ということだよ。未使用の物は見たことがないけれど、以前使用されたあとのそれを見たことがあってね。今回見た物も使用済みの召喚石で、間違いないだろうと思っているよ」


 使用済みの召喚石の大きさは、大人の頭くらいあったらしい。「あったらしい」というのは、召喚石をすでに割ってしまったからだそうだ。使用済みとは言え、万が一のことがあってはいけないと、召喚石だと断定された直後にすぐ壊したらしい。

 割っても、普通の石と大して変わらない見た目だそうだ。


(そういう大きさの石って、何かで見たような……何だっけ)


「そして、今日集まってもらったのは、それを持ってきた犯人の目星がまだつかないからなんだ。再度、細かく調べてもらおうと思ってね」


 実は、以前にもギルマスの指示で調べ物をしたことがあった。ギルドに初めて来た、または久々に来た人物を調べたことがある。祭のあとすぐに調べたんじゃなかったかな。


「以前調べてもらったときは、まさか召喚石がからんでくるとは……半信半疑でね。普通に調べてもらったわけだけど、未だこれといった犯人がわかっていない。今度は念入りに、洗い出しをしてほしいんだ。よく利用する人物も含めて、――徹底的に」


 もちろん、あれから日数が過ぎていて、もうこの町にいない可能性がある。しかし、いないならいない、という確かな証拠がほしいのだそうだ。何より、まだこの町にいるのなら危険だ。


 前回の調べでは、現在ここ冒険者ギルドのみならず、商人ギルドや他の組織でも、召喚石を持ち込んだ犯人がわからないのだという。


 では町は通らず、直接魔物の出現場所へ行ったのか。

 それは薄いと考えているようだ。


 近隣の町や村を出てアーリズに入らないというのは、外の魔物をずっと警戒しないといけないということだからだ。しかも「いつスタンピードが起こるかわからない」と言われている町だ。そんな城外で野宿はしないだろう。

 さらに重い石を抱えている状態だ。一人で抱えるには重すぎるし、荷馬車で運ぶ、または複数人で出現場所などをうろうろしていれば変に目立ってしまう。


「ん? 収納魔法や大容量収納鞄(マジックバッグ)持ちだったなら、身軽な状態で歩き回れますよね?」


 私も使える収納魔法なら、重くても石くらい問題ない。

 大容量収納鞄(マジックバッグ)とは、見ためのわりに物が多く入るカバンのことだ。テーブル山ダンジョンでも手に入る。両肩にかける物や片方の肩にかける物、腰に巻く小さめの物と種類がある。

 だからそう聞いたのだけれど、思いもよらない答えが返ってきた。


「召喚石はね、収納魔法にも大容量収納鞄(マジックバッグ)にも入らないんだ。もちろん普通のかばんには入るよ。かばんの底が抜けなければね。そういったかなり特殊な石なんだ」


 収納魔法や収納鞄が使えない。だから、石という重たい荷物を抱えてこの町に入った人物、出ていった人物を調査しているとのことだった。数人候補がいたけれど、まだ確証が得られないそうだ。


 ちなみにあの日のスタンピードに参加した者たちは、すでに犯人ではないと判明している。あの日、門から出る際まとまって出ていったので、お互いがお互いの装備の状態を見ている。戦いに行くのにそんな大きな石、または大きな荷物を抱えたり、背負ったりしていた者はいなかった。


 当然、その場に居合わせた私や『羊の闘志』の皆さんも調べが入ったけど、犯人ではないとされていた。

 私は手ぶらだったし『羊の闘志』のパーティーは一人かばんを持っていたけど、大容量収納鞄のほうだ。


 ――というか、石なのに収納魔法にも収納鞄にも入らないとはどういうことだろう。

 収納魔法は、生きている人・生きている魔物は入らない。大容量収納鞄(マジックバッグ)も同じ仕様だ。


「あのっ。収納魔法とかに入らないということは、召喚石って生きているんですか? すごい! 見てみたいですねー。壊れたほうの石でも見てみたいです」


 そんな物がこの世界にあるなんて初めて知った!

 その使われた石というのも気になるし、未使用の召喚石とやらはどんな雰囲気の石なのだろう?


 サブマスの説明を聞き、わくわくと好奇心丸出しにしていた私だけど、冷水を浴びせる声が響いた。



「やめておきなさい。好奇心で知ろうとしてはならない」



 その声はサブマスだった。

 見ると、いつも目が細いサブマスが、開眼していた――――。



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