005: ちょっと検証してみたい
『羊の闘志』リーダーに、受注処理後の登録者カードを渡す。
もうすぐ門が閉まる時間。一日が終わる。ギルド内に残っている人も少ない。
『羊の闘志』の皆さんも、もう今日は帰るだけでまったりしている。
パーティー内でただ一人Bランクの彼が、「俺もスキルほしい……」とぼやきだした。
他のメンバーがAランクなので焦りもあるのだろう。
しかしスキルは誰でも一個は持っている。
大人であれば三個くらいは所持しているものだし、冒険者ギルドに登録している人はそれ以上持っている。
『スキルは派手なものでないとわからない。確認しようがない』
というのが世間一般の常識になっているから、地味だけど効果が高いスキルを持っている人は、無用な悩みを抱えてしまうのが難点。
自分で自覚するか、素質を判断できて見る目のある仲間に出会うことが必要だ。
さて、そのBランクの彼を『鑑定』すると、『剣術』『体術』『身体強化』『魔力を力へ変換』というスキルがついていた。
確かに目立たないスキルばかりだけど、剣士としては申し分ないし、『体術』もあるから戦い方の幅も広いと思う。
『身体強化』も、体力(HPのような値)と耐久(防御力)が上がるので、近接戦闘が得意ならかなり優良なスキルとなる。ただ感覚としては「体が温まってきた!」とか、「今日は調子いい!」くらいしか思わないかもしれない。
最後の一つは、すごく珍しいスキルだ。
私は、このスキルと彼の能力値を見て、ちょっと検証してみることにした。――勝手にごめんね。
まず私は、「『魔力を力へ変換』するスキルがあるじゃないですか!」――とは言わない。
「最近、技を編み出したとか言ってませんでしたっけ?」
そう聞いてみる。彼はパーティー内で一番若く、お話好きで目立ちたがり屋なところがある。確かつい最近、そんな自慢をしていたはずだ。
「うーん。それがさ、強くなるんだけど、すーぐ倒れちゃうんだよなー」
「あれは駄目だ。周りが助けてやれなきゃ死ぬぞ」
パーティーリーダーが鋭い目つきで即行駄目出しした。
おそらく『魔力を力へ変換』スキルを使って、一気に自身の魔力を力に変換してしまうのだろう。そして、魔力切れを起こして気絶。この流れに違いない。
『魔力』とは、MPのように魔法を使う際消費する値。
『力』とは攻撃力のこと。
魔力は、消費し続けて0になると、死ぬのではなく気絶するのだ。
「何だか、魔法使いの魔力切れみたいですね。まるで魔力を力に変えちゃっているみたい」
はははーと軽く、冗談っぽく言ったけど……ちょっと強引だったかな。
「ほう、シャーロットもそう思うかね」
「あ、素人考えですけれど……」
リーダーよりも年上の男性魔法使いさんは、自身もそう思っていたらしい。
「いやいや。わりと当たっているかもしれん。昔そういうスキルが存在するのでは、と言われていたことがあったのじゃ」
「へぇ~」
『羊の闘志』の皆さんと一緒に驚いた。
皆さんは単純にスキルの能力について。私はこのスキルが認識されていることについて。
そんな中『魔力を力へ変換』スキル持ちの彼は、少し心当たりがあるようだった。
スキルは当人の意思が強く反映されやすい。何かのきっかけで「俺の無駄な魔力が力に変わったらなぁ」と、思ったことがあるのかもしれない。または遺伝によって受け継がれていて、親族の誰かから話を聞いていたか。
なぜなら彼の魔力の数値は、7867。対して力は、23801。
私の『鑑定』スキルは、能力を数値で見ることができる。
近接戦闘型にしては、魔力量が多すぎるようだ。多くて三桁、少なくて二桁が普通。おそらく、親類縁者に魔法特化の種族がいて遺伝しているのだろう。
ただし魔法使いにはなれない。魔法を使うために必要な項目というのがあるけれど、その数値が致命的に低いからだ。
さて、以上のことから魔力を全部力に回したら、力が三万を超える。
体感的には、その辺のオークを一匹倒すのに三撃かかるのを、一撃で軽々倒す感じかな。三撃するところを一撃で倒せるなら戦闘は楽になる。
(器用に細かく変換できないのだろうなぁ)
魔力を全部変換するか、全部変換しないか、と極端になってしまうに違いない。
「だとしたら、魔力を全部力に変えているってことですよね。危なくないですか? 魔法使いの死因の大半が、魔力切れで動けなくなってやられちゃうんですから……」
男性魔法使いさんも、うんうんと頷いている。しかしBランクの彼は違った。
「いーや! それなら全部じゃなくて九割を、いや半分でもいいから力に回せばいーんだ!」
むちゃくちゃに聞こえるかもしれないが、魔法使いなら自分の魔力残量が感覚でわかるものなので、彼も「やればできる」と意気込んだ。
私も数値を確認しなくても「何となく半分消費したかな」とわかる。じゃないと、毎度気絶する羽目になってしまうからね。
「よーしやるぞー!」
やる気になっている彼に、仲間たちは止めるのをあきらめ彼の好きにさせるらしい。言い出したら聞かないことに慣れているようだ。
私としてはまるで実験台にするようで心苦しいけど、うまく誘導できて嬉しい気持ちはある。
彼自身が魔力量を感じて、半分だけ力に回す努力をすれば、他の能力値も上がっていくかもしれない。それを確認したい。
私は彼のいろいろな数値を覚えておくことにした。
あ、そうだ。
「それならついでに、魔力回復ポーションでも買っていきます? かけるだけでも回復しますよ」
ギルドでも販売している魔力回復ポーションを売りつけてみた。
――そしてその日の夜。
彼には大変申し訳ないのだけど、私も『魔力を力へ変換』のスキルを発現させるべく、練習をしてみた。
よく考えてみれば、これは魔法使い用のスキルではないかな、と思ったのだ。
魔法が効かず、物理攻撃しか通用しない魔物と遭遇してしまったら。魔力が力に変われば一気に勝機が見えてくるはず。
私の魔力は一万超えで、近接武器も持っている。目を閉じて集中する。
さぁ、発現するのだ! 私の「魔力」よ「力」になれ!
……………………。
これじゃだめかな。んーと、魔力を……、力を…………。
……魔法使うときの量だから……力で……………………。
……で……………………。
……………………zzzz……。
…………zzzzZZZZzzzzzz……………………。