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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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046: 解体リーダー・タチアナ②



「すいっまっせーーん! 依頼完了しましたー!」


 雨具を着た冒険者が、依頼の終了と解体倉庫側の扉を開けるよう告げた。

 それを待ちに待っていたタチアナさんが答える。


「うひょおおおおぃ! 待ってたわよ~! ――そっちのとっびら~。開けなさ~いっ!」


 変な声を上げたあとは解体カウンターのすぐ後ろにあるドアを開けて、奥にいる者たちに指示する。

 るんるんっ。と弾むような雰囲気が伝わった。そして、そのままドアの中へ入る。


 カウンター後ろのドアは、解体用の倉庫に繋がっているのだ。普段は狩られた小型の魔物をカウンター側から倉庫内へ運ぶ際に使用する。

 そしてタチアナさんが開けるよう指示した扉は、ギルドの裏に繋がる倉庫の大きな扉で、大型の魔物を運び入れたり、数が多くて荷馬車から直接入れたいときに使用する。


「うひょおって。ははっ。何か大量討伐だったの?」


 女性のリーダーさんが、「そんな依頼あった?」と聞いた。タチアナさんのテンションが高いときは、大量解体や大物解体をするときだ。ここのギルドの常連さんは皆知っている。


「パンパンプキンヘッドが大発生したと近くの村から連絡があったんです。すさまじい数がいるとのことで、CとBランクのパーティー三組で受注して、行ってもらったんですよ」


 一昨日に出発していた冒険者たち。今日は雨だから帰ってこられるかわからなかったけど、何とかたどり着いたようだ。

 パンパンプキンヘッドとは頭がオレンジ色のパンパンプキンで、根・葉・茎の部分が異様に長く、丈夫に育った魔物だ。全体的に大きく育って自立し、まるで二足歩行をしているように見えるのが特徴となっている。


 人より高い位置に頭部(実)を持ち上げて、根や茎を使ってずるずる歩行する魔物で、頭のかぼちゃ部分は人の頭二~三倍くらいの大きさだ。そして目や口はないけども、それを思い起こさせるような部分に魔石が埋まっていて、まるで顔のように見える。身体部分は頭部(実)一つを吊り下げている体形で、横から見れば、猫背の人のように見えるかもしれない。


 私はさっきタチアナさんが入ったドアを開けて、自分も中に入る。

 開け放った大きな扉の外を見ると荷馬車が外に停めてあり、その中から大きい箱のようなものを地面に降ろしている。討伐後の魔物を入れておく保管箱だ。あの中に数十体入っているだろう。魔物によって変わってくるけど、今回は保管箱二つを荷馬車一台で運んだ。

 荷馬車三台で行ったので、降ろすのにまだかかりそうだ。


「何か手伝ったほうがよろしいでしょうか」


 私のあとをついてきたメロディーさんはそう言うけれど、降ろす作業は解体チームと冒険者たちでやっているので問題なさそう。

 そもそも「力:316」の私と、それより低い値のメロディーさんが行ったところで邪魔者あつかいされるだけだ。

 ただ、荷おろしの人数も足りているようなので、それぞれのパーティーリーダーにはカウンターへ事務処理に来てもらったほうがいいかもしれない。


「タチアナさーん。リーダーさんたち三人は、カウンターで依頼完了処理してもらってもいいですかー?」


「ん? ああ、そうしてちょうだいな。――行っていいわよー」


 タチアナさんがそう告げると、リーダー三人は「おう」やら「はいよ」などと返事をして、ギルドの外側を通り通常の出入り口へ向かう。


「魔物の数が多すぎるからシャーロットは解体の手伝いで、メロディーが完了処理してちょうだい」


 タチアナさんが言うように荷馬車三台に目いっぱい魔物が入っているらしく、倉庫内に運んでいる様子は確かに重そうだった。


「はーい」

「わかりましたわ」


 メロディーさんが後ろのドアからカウンターに戻っていった。



「そうだっ。シャーロットの大好きなエイが、実の部分購入したいって言ってたわよ」


「え、パテシさんがですか?」


 エイ・パテシさんがパンパンプキンの購入を望んでいる! お菓子がたくさん作られるということ――つまりたくさん食べられるということだ。

 どんなお菓子が並ぶのかなぁ。特にパイが食べたいなぁ。


「わかりました! じゃんじゃん解体しましょう!」


「じゃあ、ここから分かれるわよ。運び入れはそっちで。状態確認はウチら。そっちは状態確認が終わったのから解体ね。シャーロットも」


「はーい」


 ――今では大量討伐でもスムーズに事を進めている解体のチーム。

 そんな解体チームも、二年前にギルドを一新したときは人数が少なかった。倉庫内は掃除が行き届かず、衛生面が不安なこともあったけど、今ではいつ大量に来ても、対応できるような人数となっている。倉庫内部もいつも清潔だ。


 運び入れを任せたタチアナさんは、解体前の魔物の状態を討伐した冒険者の皆さんと確認している。

 素材に余計な傷があれば先に指摘するためだ。そして、その分の買取額が低くなると、あらかじめ伝えておく。

 それは冒険者たちと先に確認して、後日のトラブルを少しでも避ける狙いがある。


 というのも、確認をさせず後日こちらが「傷がついていたから買取額が低くなった」と伝えたとする。すると冒険者は「俺らはちゃんとやった。お前らの解体技術に問題あるんじゃねえか」となって、水掛け論になってしまう危険があるからだ。

 そのような事態を回避するため、事前にこの作業が必要だった。

 早速タチアナさんが何かを見つけたようで、大声で指摘している。


「あ! パンパンプキンの頭! 焦げてるじゃないの!」


「あ…………。それはそのぉ、足をこれにすくわれて…………。思わず火魔法使っちまったというか……。……でも、魔石は残ってるぜ」


 パンパンプキンヘッドの攻撃は主に、自身の伸びた茎などを使って人を絞め殺すことが多い。あとは足に絡ませ転ばせて、その上から簀巻きにしたり、集団で乗っかったりと、圧死や窒息死を狙ってくるのだ。

 だからとっさに攻撃したという男性魔法使いさん。彼のパーティーはリーダーが完了処理、もう一人は保存箱を倉庫に入れるのを手伝っている。三人パーティーだから彼だけ立ち会っていた。


「もったいないわねー」


 タチアナさんは彼の様子にはさほど目をくれず、あくまでもパンパンプキンの状態にのみ注視して、問題の部分は価格が低くなるとだけ伝えた。

 がっかりしながらそのパンパンプキンを引っぱり出すタチアナさんは、少女体型なのでオレンジ色の実がより大きく見えた。

 ただ、彼女は小さく見えても、大きな包丁を自在に操る解体の腕を持っている。刃捌きはすばやく丁寧で、素材を一ミリも無駄にしないように気をつけている人だ。

 パンパンプキンはまだまだたくさんあるのに、とても残念がっていた。


 パンパンプキンヘッドの倒し方は至ってシンプル。魔石が入っている顔面を、破壊すればいい。しかしこの魔物は、捨てる部位が少ない魔物として有名だ。

 実の部分は言わずもがな。茎・葉・根の部分は、魔石の力によって頑丈だ。オレンジ色の頭(実)部分は料理を出すお店に、緑部分は日用品を作るお店に、根の部分は薬師に人気がある。だからなるべく傷つけないように倒すとそのぶん冒険者にお金が入るということ。


 するとどう倒すのが一番いいのかというと、パンパンプキンを収穫するように、実のヘタ部分を切ってしまうのがいい。そしてそれは、なるべく短く刈るべきだ。一定の長さが残っていると、またずりずり動き回ってしまうから。

 そして刈り取ったと安心して、放置しすぎてもいけない。日数が経てばまた伸びてきて活動を再開してしまう。生命力が強いのだ。


 だから切り離したあと、実についている魔石部分――土魔石を取り出さなければならない。魔石を取り出せばもう動かなくなり、ヘタなども伸びなくなる。


 そこで今回の解体作業だ。

 私は小型のナイフを、自分の収納魔法から取り出した。

「ここに入っているのから始めてください」と説明する解体メンバーさんの指示どおり、解体のお手伝いをしよう。


 今回は植物系の魔物だから料理の下準備と感覚が近く、気楽にできる。

 肉の解体もやれないことはないけど、オークなどの大型魔物の解体となると難しい。小さい部分の切り離しや、骨から肉を細かくこそぎ落とすくらいなら手伝えると言ったところだ。


 さて、私はなぜ解体もできるかというと――ギルドに就職した当初は人手が足りなかったから……ということにつきる。解体の手伝いはそのときからやっていて、おかげで『魔物解体』スキルも手に入れている。

 ちなみに、解体リーダーのタチアナさんはもちろん、メンバー全員『魔物解体』スキル持ちだ。

 まぁ、魔物の解体を仕事にする人で『魔物解体』スキルが未所持なんて人は、まずいないけどね。


 あの頃から比べると解体メンバーの人数も揃っているので、こういった大量討伐で解体作業が忙しいときくらいしかお呼びがかからない。


 そんな私は、オレンジ色の頭がゴロゴロ入っている箱の前に立った。

 頭(実)の部分と、茎や葉の部分は、分けて作業をするのが基本だ。

 パンパンプキンヘッドは、頭を切り離したら緑部分はもう動かないとされている。けれど念のため魔石を剥ぎ取るまでは、近くに置かないことにしているのだ。

 だから荷馬車の保存箱の中身も、頭と身体部分は一緒に入れていない。緑色しか入っていない箱と、オレンジ色しか入っていない箱に分かれているのだ。

 その箱の前でつぶやいた。


「解体、久しぶりだなー」

「では、手始めにこの小さいのどうぞ」


 ちょっと手順に不安があったので、解体メンバーの一人に言われたとおり、小さめの頭を手に取った。

 実に埋まっている魔石は、目部分二つ、口部分一つに魔石が入っているものだけど、すべてがそうではない。

 小さい実の部分には、魔石が一つしか入っていないこともある。これは口のような位置に(口ではないけどやはりそう見える)一つ、小さい魔石が入っていた。


 ちなみに口部分が動くことはない。頭頂部のヘタがたまにゆらっと動くことがあるくらいだ。その様子にびっくりせず、魔石を傷つけないようにすることが重要となってくる。実も大きくえぐりすぎないようにするのも大事だ。


 ナイフを硬い皮に刺し込んで、少しずつ切っていく。

 ……切っていく。


 …………切って……。



 ――――抜けなくなった。



「…………」


 仕方ないので、近くにある解体工具入れから植物系魔物用のノミとつちを捜す。周りは、どういう状態になったのか察したのだろうか。または特に興味がないのか何も言われなかった。

 硬い皮に挟まったナイフの切り口部分に、槌でコンコンと叩き、ノミを突き入れていく。


(このままノミを使って作業したほうがよさそう……)


 途中食い込んでいたナイフがはずれたけど、そのままコンコンッと続けた。


 私の周りは、同じように魔石取り作業をもくもくとやっている人たちばかり。その隣の開けた場所では、緑部分の選別をしていて、さらに離れたところではタチアナさんの確認作業の声が聞こえる。

 裏口ではすべての保存箱が運ばれ、扉を閉める音がした。


 外の雨の音が聞こえにくくなり、この倉庫は少し静かになった。



 こういった単純作業をやっていると、先ほどパーティーリーダーさんたちと話したことが思い浮かんだ。


 国交がないうえに、帝国のイメージも全くよくないということ。

 この国に助けを求めたのに、異種族だと知って態度が変わった女性。


(帝国は広いのに、東も西も風習はそんなに変わらないんだなぁ)


 それならイメージがいいわけない。

 そういえばアーリズで働いて二年。帝国のあのような話題は初めて聞いたなぁ。



 ――そう悶々(もんもん)と考えつつ、魔石を取り出す作業を続けた。そうすると、倉庫に響くタチアナさんの声と、保存箱の蓋が開く音を自然と聞いてしまう。


「次こっちね。…………うふふふん。ずいぶんと頭がいっぱい入っているじゃない?」


「確かにそうですね。…………こんなに入っていたかしら」


 タチアナさんが満足げに言うも、確認していた治癒魔法使いの女性は不思議そうだ。


「これだけ異様に入ってるって変じゃね?」


「ま! 待って! いま…………何か動かなかった?」


 男性魔法使いの不審の声と、さらに別のパーティーの女性冒険者から、焦った声が聞こえる。それを聞いても、タチアナさんは冷静に腰にある自身の刃物を取り出した。きっとパンパンプキンのヘタ部分が長くて少し動いただけなのだろう。私は、ヘタを切るくらいタチアナさんならすぐできる、と軽く思ってしまう。


「どれが長いのよ? 見つけて刈り取り…………」


 刈り取りするわよ、と言いたかったのだろうが、次の悲鳴でかき消されてしまう。


「えっ……きゃあああああ!」


「な、ななんなな何でこんなのが??!」


「ちょっ、ちょっ! やっ、あぶっ!!」


 途端に騒がしくなった。

 私の周りも、茎や葉っぱを担当していた人たちも、いぶかしげな顔で声がした方向を見る。



「――――はっ! はははは! うっそでしょ~~!! まさかっ、この町で見ることができるなんっ…………。――うぶっ」


 私は、タチアナさんの目が子供のように輝いているのを遠目から確認した。直後、彼女の髪の色のような……でも全く違う赤が噴き出したのを目撃する。




タチアナはどうなってしまうのだ?!

新キャラだと思ったら即退場か??!


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