039: 受付嬢の一日⑪ ~六の鐘~
ガラーン、ガラーン、ガラーン、ガラーン、ガラーン、ガラーン。
六の鐘が鳴った。
普通の一日であれば、午後のお仕事の真っ最中。
しかし今は休憩中。
まだ街中の警戒をしている人はいるけれど、私の役目は終わったので、昼食後のアイスクリームを食べている。
「いやぁ、さすがに来ないと思っていたけど、本当に来たね」
私は今、パテシさんのお店へ、スタンピード戦前の約束をたがえることなく来ていた。むしろ終わって迷わず向かったのだ。
「今日はタイミングが悪いと思ったのに、他の人にも好評で嬉しいよ」
「さっぱりしておいしいからですよ。さっきのスライムは、関係ないです」
パテシさんは、意外と人が来てくれたと喜び、並んでいる人に盛りつけている。
最初は私しか食べていなかった。そして近くを通る人に何を食べているのか聞かれて、冷たい食べ物を食べていると伝えると、大抵嫌そうにこう言った。
「冷たい食べ物ぉ? さっきフローズンスライムと戦ったばかりじゃん」と。
だけど私が「こんなにおいしいのになぁ」と言って、パテシさんが試食を勧めると、あら不思議。
「う、うめぇ」
「暑かったけどひんやりするね~」
「これ、あの黒いケーキと同じ味? こんなに違うのね」
短時間で大好評になった。
そうだろう、そうだろう――と私は鼻が高くなるのを感じた。
からっとした晴れの日に、スライムの大群をぼこぼこにしていたら暑くなるのが当たり前。食べたらさっぱりするよね。
「あ、そうだ! シャーロットー」
近くで食べていた冒険者さんが呼んだ。
「はい、何でしょう」
「ギルドの人たち『早く帰ってこないかな~』って言っていたよ」
冒険者さんが、アイスを食べていたスプーンをギルドへ向けながら言った。
「あれ。わかりました。そちらはもう終わりました?」
「うん。行ってきた帰り~」
それを聞いてから、私は食べかけのアイスを収納魔法にしまい、店をあとにした。
あれだけのスライムの数だったし、ギルドでの後処理が大変だろうからもっと早く帰ったほうがよかったなぁ。
私が冒険者さんに聞いた「もう終わったか」については、スタンピード戦の報告のこと。
スタンピードに参加した冒険者は、ギルドへ報告が必要なのだ。報告しなければ、参加しなかったとして怒られる。怒られる種類はいくつかあって、普通に怒鳴られるものから、ランクポイントが減らされるものまである。
スタンピード戦は、Cランク以上が絶対に参加しないといけない強制依頼だからだ。
まぁ、大抵の人は忘れない。報告すればランクポイントが入るし、狩った魔物もギルドで買い取ってもらえるのだから。
「いま戻りました~!」
よっぽど大勢の冒険者であふれかえっているに違いない、と思っていたギルドは、もう空いてきていた。
「帰ってきた」
「お帰りなさいませ」
査定担当のフェリオさんとメロディーさんに出迎えられる。
「すみません。ピークはもう過ぎちゃったようですね……」
アイスをゆっくり食べすぎたのかもしれないと思い、謝った。
「あら、大丈夫ですわ。サブマスターさんも手伝ってくださいましたし。聞きましたわよ。障壁を出したり消したり。大変でしたわね」
ギルドのほうこそ大変だったろうに、やさしいメロディーさんは怒らず、労ってくれた。
――結局、城壁の上で暇になることはなかった。
スライムの数が数だけに、隊長は早急に多くを討伐する方向に切り替えたのだ。
それが私にどう関係したかというと、例のスライム返しの障壁を消したり、再度取りつけたりしたのだ。
城壁上にスライムが少なくなり、その場を担当する騎士たちが手持無沙汰になったら、スライム返しを消した。
そうすると、スライムがたくさん城壁をのぼってくるのでどんどん倒していく。そのうちにその場がスライムであふれてきたときは、再度スライム返しを取りつけて数を調節する。
「右開ける! 左閉じる! そのまま中も開ける!」
隊長は最初のうち、ぎこちない指示だったけど、終了間近にはこのようにぱっぱと伝えていた。『右開ける』は、右の障壁を消してスライムを通す。『左閉じる』は、スライム返し障壁を再度取りつけるという意味だ。
おかげで無理なく、そして手早く倒せたようで、スライムはほとんど町中までは入り込まなかったとのことだった。
(スライムスタンピードのときは、またこの作戦で進行しそうだなぁ)
「シャーロットさん。今回のランクポイントは、ひとり40ポイントとのことですわ」
カウンター業務に戻る準備をしていると、メロディーさんが今回の事務作業について教えてくれた。
スタンピードに参加した人たちは、通常一人20ポイント付与されることになっている。しかし今回は『混合型スタンピード』で二つの区画があふれた。だからランクポイントも二倍らしい。
「お待たせしました。どうぞー」
カウンター業務開始直後に、早速スタンピード参加者がやってきた。
パーティーリーダーのカードを預かる。スタンピード戦用の用紙に必要事項を書いて、手元の魔道具に置いた。カードが輝いてから魔道具を確認する。
魔道具にモニターのような部分があり、それを見るとパーティー全員の名前が表記されているのだ。その表にはランクポイントも表示されているので、ちゃんと全員にランクポイントが入ったかを確認した。
「はい。カードお返ししますね。お待ちください」
カードを返したのになぜ「お待ちください」かというと、今度は魔石の確認をするからだ。
物を量る道具を置いて準備はできた。ここからは『鑑定』スキルに頼ると、とても手早く作業できる。
魔石を一個一個確認して、次々、はかりに置く。単純に言えば、別の物が交じっていないかを調べている。
例えば、道端の小石が交じっていないかだ。ただの小石が魔石と同じ値段にならないかとたまに不正する人もいるのだ。だから交じってないかを確認する。
逆に運よく宝石が交じっていることもある。そのときは、高額買取担当のフェリオさんに代わってもらうことにしていた。
今回は――そのどれもなかった。全部ウォータースライムとフローズンスライムを倒したあとの魔石だ。
実は私の『鑑定』スキルなら、一気に全部本物の魔石とわかる。
だがしかし――。一気に、はかりに置いてはいけない。
そんなことをすれば、ちゃんと査定しているのかフェリオさんも冒険者さんも不安になるらしいから。だから一個ずつ見るふりをしている。『鑑定』を秘密にしているからには仕方がない……。
「はい、確認しました。こちらが報酬……」
「おいっ! おっさん! 横入りすんじゃねえよ」
魔石の金額を渡したところで、ギルドに男の子の声が響いた。
こちらの話は、
コミック版『転生した受付嬢のギルド日誌』Chapter20 でも
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スマホサイト マンガよもんが 転生した受付嬢のギルド日誌
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