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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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036: 受付嬢の一日⑧ ~アイスクリーム~



 ギルドの外に出た私はすぐ門の前には行かず、少し遠回りをして、冒険者たちにギルドへ寄るよう伝えていた。


「冒険者の皆さーん、Cランク以上の人! ギルドに一度集まってくださーい!」


 スタンピードが起こったときは、必ずこの掛け声を言いながら走る。

 だから今もいつもどおりやっていると、頻繁に購入するお店を通りがかり、まだ人がいたことに気づいたので足を止めた。


「お早く避難してください! あなたが怪我をしたら大変なんですよ! ……いえ、怪我したら教えてくださいね。全力で治しますから」


 多くて毎日、少なくて数日置きに行くお店。そこの店主であるパテシさんがまだ店先でうろうろしていたのだ。


「ああ。ごめんね。ちょっと扱いに手間がいる商品があって。片付けるのに時間がかかってね。残りはこれだけだから」


 そうパテシさんが言った商品は、やけに頑丈な箱のようなものに入っていた。いや、この国で冷やして保管するときに使う、冷凍庫……のようだ。


「前からありましたっけ?」


 私はこのお店によく来るけど、こういう箱は見たことがなかった。表に出していないだけかもしれないけど。


「いや。新作ができてね、今日ちょうど出そうと思ってたらこの事態で……。そうだ! ちょっと食べていきなよ」


「え。あの。これからやることが……」


「すぐ出るから。ほら」


 半ば強引にスプーンを持たされた私。次いでパテシさんが流れるように箱を開けると、中から少し冷気が漂った。冷たいものが入っているのだろうか。

 その中の商品と思われるものを表面だけすくって、お皿に入れてくれた。


「こ、これは…………」


「食べてみて。もうすぐ本格的に暑くなるだろう? こういう冷たいお菓子を作ってみたかったんだ」


 前世の記憶にあるアイスクリームと近い見た目だ。ただ、前世で定番の味といったら、白い見た目だったはずだけどこちらは茶色。色からして、チョコかな?


「はむ。…………ふぁあ」


 手渡されたので思わず食べてみる私。

(――この味! 食感! まさか、この世界でアイスクリームを食べられるとは――!!)


「この、アイスクリーム! おいしいです!」


「……ん? 何……? ま、おいしいならよかった」


 あ、「アイスクリーム」は前世語になってしまったか。


「とっ、とりあえず避難が先ですよ! そして! 終わったらまた来ますからっ。買いに来ますから!」


 ごまかすために避難を急かした。

 今度こそパテシさんが避難を始めたのを確認すると、門を目指す。


 しかし予定どおりに門前に行くも「今回はスライムがまだ来ていないから、門前に障壁はいらない」と、魔物討伐の隊長に言われた。

 前回は足の速い魔物だったから門前に障壁を立てたけど、動きが鈍い魔物なら騎士たちは早いうちに城外に出るようにしているのだ。冒険者たちも急いで門から出ていった。

 そして今回、私は外に出て戦わない。

 ただし留守番のように待っているのではなく――現在、城壁の上に来ていた。



 城壁の上は、すでに弓部隊が整列していた。皆さん気を引き締めている顔だ。うちのギルドの冒険者と違って、スライムか……と、あからさまにがっかりしていない。さすがだ。

 弓部隊の人たちは射程内に入ったら、一斉に弓を放つことになっている。城壁の下で突撃を待っている騎士や冒険者たちが、スライムと当たる数を少なくするためだ。

 今回のスライム戦は、騎士たちと冒険者たちが城壁外に出ているけれども、ウォータースライムという特徴を考慮して人選も多少変更される。水魔法や火魔法しか使えない人は、今回城壁内で予備戦力として扱われるのだ。


 ウォータースライムは、核の回りが名前どおり水(のようなもの)でできている。

 効かない属性があり、それが水の属性。吸収して逆に強くなってしまうのだ。火魔法は強い魔法ならばスライムの水部分が蒸発して倒せる。けれど、強くなければ火のほうが負けてしまう。


 逆に氷魔法と雷魔法を使う人、物理攻撃を主に使う人は前線だ。

 倒す方法としては、


 剣などでスライムの核を斬ったり、つぶしたりする。

 凍らせて動きを止める。または氷で核を損傷させる。

 凍らせただけの場合、物理的な攻撃で砕くともっと効果的。

 雷魔法ならば、一気に核まで届いて破壊できる。


 といったところだ。障壁魔法を使う私は、そんな彼らからの後方で防衛をすることになっている。弓部隊の人たちの仕事が終わってから始めるので、現在その方たちの後ろに待機していた。


(城壁の上は見晴らしがいいなぁ。天気もいいし)


 物々しい雰囲気をぶち壊さないよう、心の中でつぶやいておく。ほのぼのと見ていると、後ろから声をかけられた。


「どうも、ギルドの受付さん」


「え」


 そこには治療院の人がいた。

 そう。あの熱心な(しつこい)治療院のお方だ。ゲイルさんの腕の修復治癒をした人を未だに捜している。

 どうもゲイルさんを治した方の能力は、他の治癒魔法使いの方より抜きん出ていたらしい。どうしてもアーリズの治療院に引き込みたいそうだ。――ま、ゲイルさんを治したのは私なんだけど。


「やはり、現れませんか」


「……ええ。それらしい方は一人も……」


 とりあえず困ったように言っておく。

 私のことなので、いくら待っても捜してもいらっしゃるわけがない。しかし、そんな素振りを微塵も見せず語り続ける。


「そんな力のあるお方ならば、きっといろんなところを……各国を旅されているのでしょうね。…………あ! 見えてきましたよ。スライムの大群が」


 ちょうどよく話を終わらせたのではないかな。

 そろそろあきらめてください。ほんと。


(…………しかし、今日は治療院さんがここの配置か)


 これは、うかつに治癒魔法を使えない。軽い怪我なら使ってもいいけど、「お腹が裂かれた」などの酷い怪我を治癒すればきっと気づく。「こんなに早く治せるとはー! もしや、お前~」という展開は避けるべし。


(こうなったら、私の目の前では誰も重傷にならないようにしないと!)


 まあ、今回はウォータースライムだから、使っても水魔法。しかもそんなに強い魔法ではない。水を使って視界を悪くさせるとか、足を滑らせて転ばせるとか。顔回りに水を集めて窒息させるとか。……そういう攻撃が多いかな。裂傷させる魔法は、ウォータースライムは使わない。大丈夫、大丈夫。


 スライムの大群に目を移した私。

 スライムは魔物の中でも比較的かわいいよね、と言いたいところだけど……いや~、これだけたくさんいると、少ーしね。数匹ならまだしも一斉に、それも数百匹で来られたら……何だかぶつぶつが押し寄せてきているみたいで……ね。

 それにしても、多く見えるのは気のせいかな。スライムのスタンピードってこのくらい押し寄せてくるものだったっけ。


「弓用意――!!」


 スライムの光景に注目しているあいだに、城壁の上でも戦闘開始の合図が響く。弓攻撃が開始されるようだ。



「放てえぇぇ――――!!」




治療院さんの件は、『022: 青天の霹靂』に詳細が載っています。

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