035: 受付嬢の一日⑦ ~四の鐘~
「でも、固執しないようにね。特にいなかったら普通に帰ってくるんだよ。無理に探して怪我したら大変だからね」
「わあってるよー」
じゃーねーといってギルドを出る子供たち。いくら低ランクといえども、十歳から冒険者登録をしていた子たちだ。勝手は十分わかっているだろう。
私は彼らが去ってから、依頼掲示板で依頼書をきれいに整頓する。わざと。
悪がき君におしおきするためだ。
「スキあり!!」
出ていったと思われた赤髪の男の子が、こっそりと私の背後に戻ってきていた。彼は手を下から上へとすばやく掬い上げる。スカートだったらスカートめくりかもしれないけれど、私は今日もパンツ姿。まさかケツタッチでもしようというのか。ならば遠慮なく防御しよう。
ベィン……!
もちろん障壁魔法を私のお尻近くに配置し、その障壁に手が思いっきり当たった音だ。
「うあぁぁ!」
はい。残念でした~。
おケツタッチはいつもどおり失敗。
そう。彼は何度か挑戦し、必ず失敗している。本日で何回目だろうか……。
そのたびに彼の手は、私の作った障壁にはじかれ真っ赤になっていた。
すごい勢いで手を振り上げたのだから、そうなるのは当たり前なのだけど、……この子はなかなか学習しない。
「あー、ごめんね~、痛いでしょ。ふふん。――“きゅあ”」
腫れた手は、私の治癒魔法であっという間に治る。
私は子供相手でも、怪我をさせないように避けることをせず、「悪いことをするとこうなるんだよー」と教えるほうだ。痛いほうが反省するからね。
「もう痛くないでしょ」
「……、~~っ! かわいくない!」
「触らせてくれる子を探しなさいな」
「ふんっ!」といってダッシュで逃げていった。かわいい。
毎回失敗するんだからあきらめればいいのに。
さて、まだお昼の五の鐘にはまだ早いかな。現在、この受注などを行うカウンターは、私とフェリオさんしかいない。昼を時間差で取るので、今はメロディーさんがお昼へ行っていた。
ガラーーーン、ガラーーーン、ガラーーーン、ガラーーーン。
四つ鐘が鳴った。
今日は珍しい日だ。
三の鐘のあとに四の鐘が鳴るなんて。
四の鐘。普通の一日ならばこの回数は聞かない。
同じ鐘の音色なのに四回鳴るというだけで、重々しく緊迫感があるように聞こえる。
なぜならこの回数の鐘は、特別な事象のときに鳴る鐘だから。
<――テーブル山ダンジョンよりスタンピード発生。
魔物情報、ウォータースライム。
魔物情報、ウォータースラ…………>
そう。四の鐘は、スタンピードなどで魔物が大量に襲来してくるときや、高ランクの魔物が町を襲ってきたときに知らせるものなのだ。
「そぁんなぁぁ!」
右隣のカウンターでは、スタンピードと聞いてワクワクしていた女性が派手に落胆していた。
このカウンターの隣、魔物解体カウンターのほうだ。スライムは液状のものが多く、核を壊せば倒せるので当然肉、角、爪などない。解体の出番がなかった。
彼女は魔物(の解体)が大好きなので、スタンピードは待ちに待った楽しい時間だ。今回はその楽しみがなくてがっかりしている。
「しっかし、スライムかよ。昼前にきついなー」
同じく、わくわくしていた冒険者の皆さんも沈んだ声を出している。この時間なら、食べられる魔物を倒せば、広場で屋台なり料理屋なりが調理して出してくれるものだけど、スライムだとそれがない。気持ちがしぼんでいる。
「こら! がっかりしてんな! さっさと準備しろ!」
二階から下りてきたギルマス。やる気がなくなった冒険者たちを叱り飛ばしている。
「シャーロット。お前もだ」
え、顔に出てましたかね。
「ほほほ。私も準備しますねー」
適当にごまかして二階へ。着替えて準備だ。城門に障壁を張る仕事があるからね。
二階へ行って、自分の収納魔法からいつもの服(装備みたいなもの)を出して着替える。
「コートは暑いからこれにしようっと。……お昼はちょっと遅くなるなぁ。ちょっと食べてからにしようかな……」
建国祭のときは夜だったからコートでよかった。しかし今は昼。少し耐久値が下がるけど、半そでの物にした。そして収納魔法から適当に食べ物を出して、軽く食べる。
ウォータースライム……、というよりスライム系がスタンピードを起こした場合は、その上位種が出ない。
前回のウルフ系は、低級と中級が同じ区画に存在していて、そこが満杯になってあふれ出てきた。だから同時に襲ってきた。
今回のスライム系の区画は、その種類しかスライムがいない。ウォーターならウォータースライムのみ、ファイアースライムならファイアースライムだけ。
五種類交ざった(ファイアー、フローズン、ウォーター、ポイズン、クレイ)スライムが出る区画があるけど、警報ではウォータースライムだけ言っていた。なので、その区画ではなさそうだ。
かといって慢心してはいけない。その種類しか出てこないけれど、そのぶん数がウルフ系の二~三倍なのだ。ただでさえスタンピードは数の暴力なのに、それよりさらに多く襲いかかってくるということは、前回より時間がかかるかもしれない。
ところで、なぜスタンピードなどの緊急のときは、鐘四つなのだろう。大昔からそう決まっているみたいだけど――。一回だと聞き漏らすかもしれないし、鳴らしすぎたら次の行動に移せないからかなぁ。
そう思いながら下に行くと、メロディーさんが慌てて帰ってきていた。
これからギルドの準備があるけど、スタンピードの戦闘中、戦わない人は避難する。だからその間ゆっくりしてくれるといいな。
そうして私は、カウンターへの挨拶もそこそこにギルドの外へ出て走り出した。
こちらの話は、
コミック版『転生した受付嬢のギルド日誌』Chapter(17)18 でも
似たシーンをご覧いただけます。
ご興味ありましたら、ぜひスマホにてご覧ください。
スマホサイト マンガよもんが 転生した受付嬢のギルド日誌
https://www.yomonga.com/title/883
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