033: 受付嬢の一日⑤ ~三の鐘~
「はい。報酬の銀貨十二枚です。ランクポイントは今回お一人18ポイントずつですね」
お確かめください、と言いながら、銀貨を枚数分と登録者カードをカウンターに出す。
ガラーーーン、ガラーーーン、ガラーーーン。
冒険者が銀貨を数えているあいだに、鐘が三つ鳴り始めた。カウンターにはまだ人が並んでいる。
まだ午前中。次の五の鐘でお昼となる。――間違っていない。四の鐘ではなく五の鐘でお昼だ。
「次の方どうぞー。あ、おはようございます」
「やあ。依頼しに来たよ」
お菓子職人のエイ・パテシさん。
依頼を発注しに来たらしい。
(……発注! まさか、護衛依頼? またどこかの町に行ってしまうの!?)
パテシさんのお菓子は毎日の糧。しかし、パテシさんがまた修業に行くとなれば、止められない……。そう思ってがん見したら、採取依頼だった。
(ホ。何だ、びっくりした)
採取依頼なら、お菓子に使う物を採ってきてほしいのだろう。安心して依頼の内容を読む。
依頼する場合は、所定の用紙にその場で書いてもらっているけど、パテシさんは常連。流れはわかっていて、すでに記入済みの用紙を提出してくれた。
規定の用紙は横長。左右に書く項目があって、最終的に真ん中を縦に切り離す。なぜなら片方が、ギルド提出用で、もう片方が依頼人控えだから。
左に書く項目と右に書く項目は、ほぼ一緒。
左右とも、用紙の上段には、
本日の日付。
依頼主名。
採取に○。
通常依頼に○、が書かれてある。
採取に○。通常依頼に○――。
これは、規定の用紙にすでに文字が書かれていて、希望の内容に丸をつけるということ。
採取が書かれている行には、『討伐、採取、護衛、その他』と用紙にすでに書かれてあり、依頼主の希望に沿って丸を書いてもらうようになっている。
通常依頼が書かれた行も同様で『通常、指名、その他』と、これまたすでに書いてある。
今回は通常に丸がしてあるから、パテシさんに確認した。
「指名依頼ではなく、通常依頼でよろしいですか」
発注を頻繁にする常連さんは、お気に入りのパーティー(または個人)が複数いる。採取する際、注意事項を理解して丁寧に採れる人を覚えているものなのだ。そして、確実に採ってきてほしいときに指名する。
「今回はそれでいいよ。急いでないからね」
指名依頼はお高い。何日までに、確実にこの数がほしい、ということでなければ通常依頼にする。あと、新しい冒険者との出会いも期待できる。よい仕事をしてくれたなら、名前を覚えておいて、次回指名するということもよくあることだ。
次に確認するのは内容。
一つひとつ念入りに確認する。
採取物、量、採取する際の重要事項、報酬金額、期間などなど。
今回の採取希望は、
『チャルチャビ草:七十グラメ / 報酬:銅貨十枚』
重要な項目は本人が書いたのだからと安心せず、入念にチェック。報酬も安すぎず高すぎず、いつもどおりだ。
不備がないようだから次の段階へ。
「それでは、商人ギルドさんのカードをご提示ください。……はい。大丈夫です。手数料と合わせまして……」
依頼を出す際、もちろん手数料がかかる。とはいえ、商人ギルドに登録していると手数料が安くなるのだ。だから必ず提示してもらっている。
「……はい。確かにいただきました。少々お待ちくださいね」
前述にあるように、この一枚の紙でギルド提出用と本人控えを担っている。
なので、左右に間違いがないか再度確認。
間違いがないのを確認したら、日にち・自分の名前を、ギルド提出用欄と本人控え欄に書く。
そして用紙の真ん中――これから切り取るど真ん中に、割り印を押す。この作業によって印に魔力が加わった。魔力といっても、小さな印だから1も減らない。
次は左右に切り離すために、真ん中を縦に切る。この世界はミシン目カッターがないので、私は丁寧にはさみで切った。
「こちらがご本人様控えです。採取後そちらに冒険者を向かわせます。そこで採取物を確認しましたら、完了確認報告書にご本人様の確認サインをお願いします」
そして「どうぞ」と言って手渡した。
「わかっているよ、いつもどおりね。……あ、この用紙ももらっていくよ」
何度も依頼しているので、流れはわかっているパテシさん。次に依頼する際も、今回みたく記入済みの用紙を持って依頼を発注したほうが早いと、空の依頼書を五枚ほど持っていった。
さて、これですぐ掲示板へ貼り出されるのかというと、そうではない。
次の作業へ進む。




