003: 『鑑定』スキルがあることは秘密
そんな様々な種族がいるこの国だけど、私には前世の記憶以外にも、彼らが持ち得ないものを持っている。
――『鑑定』スキルというものだ。
私の持っている『鑑定』スキルは、人、魔物、武器、薬草などあらゆるものの詳細な情報が一覧となって見えるのだ。先ほどエルフの女性たちと仲間になった彼や、ギルマスに連れていかれた彼の出身国がわかったのも、『鑑定』スキルを使ったから。実は本名も見えていたし、長所も短所も大方知ることができた。
だけど、便利なこのスキルは皆に秘密にしている。
なぜなら『鑑定』のスキルがあるということが、世界的に判明していないからだ。能力値を測る魔道具なども存在していない。
昔、信用のおける人に「あなたの体力や魔力はどのくらいあって、スキルはこれとこれを持っているよ」と伝えたところ、「そんなに詳しくわかるなんて」とひどく驚いていた。
そして、この能力のことは、誰にも内緒にしなければならないと約束させられた。
どうやら世間一般では、人や魔物の強さが何となくわかる人は存在するけど、『事細かに知ることはできない』というのが常識らしい。
世間の一般常識では、
・ 体力・魔力・力・知力・速さ・耐久の値がある。
・「体力」は、自分の命そのもので激しく動いたり攻撃を受けたりすれば減る。
・「魔力」は、魔法を使うときに消費する。
・ スキルという特殊能力はあるが、確認する方法は皆無。
となっている。
『鑑定』スキルがある私から見れば、体力・魔力の説明はほぼ合っている。
「体力」は、前世の地球にあった……確か、ゲームとかいうもののHPみたいなもので、魔物などと戦えば減っていく。0になれば死んでしまう。
「魔力」は、同じくMPのようなもの。威力の小さい魔法を使用すれば減り方も小さく、大きな魔法を使用すれば大きく減る。どちらも休息や食事、ポーションと呼ばれる回復薬を服用することで回復し、成長や修行にともなって上限が増える。
そんな体力・魔力の説明は、世間一般で公表されているものの、他の能力値についてははっきり触れられていない。目で見てわかるものではないので仕方ないのかもしれない。
しかし、冒険者をしていれば体感的にわかるものだ。
例えばこちらの魔法使いの女性。
「見て見て! 最近買った杖なんだけど、これ使ったら以前より燃やす力が数倍は増えたと思うのよ! 私の知力上がったんじゃないかしら」
「いいなぁ。どこで買ったの?」
知人に杖を自慢している女性。
新品の杖によって、『知力』(魔法の威力が上がる値)が上がったことを実感したらしい。
確かに私の『鑑定』結果でも上がっている。
いい買い物をしたようだ。
そしてあちらにいる男性二人の会話。
「おい、しばらく見なかったけどよ。まだ冒険者やってたのかよ」
「お前こそ、力しか自慢できないで、よく冒険者やってられるぜ」
「何だと!」
拳を繰り出すけれど、当たらない。会話ではなく喧嘩に発展してしまった。
「当たらなければ、意味ねぇよな! 俺は速さに磨きをかけたんだ!」
一人が自慢している「力」とは、腕力などの力のこと。
もう一人が磨いたと言う「速さ」は、走ったり避けたりする速さや攻撃速度が速くなることをいう。
「いいだろう! お前とは決着をつけたかったんだ。このひょろひょろが!」
「俺こそ、お前みたいなぶたとはいっぺんやってみたかったんだ。ぐふうぅ!?」
「なっ。ぐへぇぇえ!」
突然二人は何かにぶつかり、まるで床を舐めるようにして倒れ込む。透明の壁によって一人はずりずり床を拭くように、一人はころころ転がって掃き出されるように出口へ移動した。
「喧嘩は外で。迷惑をかけずにやってください」
私の作った障壁で出口まで一直線に追い出された。
力の値が多く速さに欠ける力自慢くんと、速さの値が多く力に欠ける敏速くん。
二人で組んだらちょうどいいのに。
「知力」「力」「速さ」の値は、数値で見えなくても自身の感覚でわかるので、世間で認識されている。
感覚でわかりにくい値といえば「精神」。
この値は世間に知られてさえいない。高ければ高いほどスキルと魔法が発現しやすくなるし、状態異常にもかかりにくくなるのに残念だ。
そして、私はこの値が一番高い。特にスキルは、周りの人たちと比べて五倍以上持っている。
「次の方どうぞー。お待たせしました」
やっと空いてきた。今はこちらのパーティーしかカウンターにいない。
「よぉ。表でギルマスといたやつぁ、シャーロットに突っかかってきてたのか?」
有名Aランクパーティーのリーダーが聞いてきた。ギルマスが例の男に説教でもしていたのかな。
「無知は怖ぇな。見たところあれFかEランクじゃねぇか」
先ほど『鑑定』したらEでしたよ、他国の冒険者です。
とは言えないので「そのくらいでしょうか」と濁す。
「シャーロットは受付やってっけど、実はAランク冒険者なのにな」
パーティーリーダーはニカっと笑い、自身の金ぴかのAランク登録者カードと、掲示板に貼ってあった依頼書をカウンターに出した。
人の『鑑定』をすると、職業欄という項目が見える。
私が自分を『鑑定』した職業欄には、こう載っていた。
職業: フォレスター王国冒険者ギルド アーリズ支部職員
フォレスター王国冒険者ギルド アーリズ支部Aランク登録者
アーリズ支部の『アーリズ』とは町の名前。今、私が住んでいる町のことだ。
私は現在、冒険者ギルドの職員だけど、この町に来る前は冒険者をやっていたから、Aランクの冒険者でもあった。金色の登録者カードも持っている。
スキルと魔法を覚えやすい能力を活かして、冒険者としてそれなりにやってきた結果だ。
ギルド職員なのに冒険者? と思うかもしれないけれど、職員になったからといって登録解除をする必要はないし、職務規定にも違反していない。町の人たちにも大体知られている。
ギルマスも現役のAランク登録者だし、この国には現役冒険者でギルドの職員をやっている人が大勢いる。
そもそも、他の国や田舎の支部なら珍しいAランクもこの町ではそう珍しくもない。
なぜならこの町は、魔物がたびたび湧くことで有名な町なのだから。