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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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027: 二年前③ ~新人受付嬢と上級魔物~



 大気が震える。

 その衝撃だろうか。こぶし大の大きさの屋根の一部が落ちてきた。

 建物の影に隠れていた二人は、すごい音がしたにもかかわらず、一向に魔物が降りてこないのでそっと上空を窺った。


「うおっ」


 アトラスはシャーロットの真上で、魔物が止まっているのを見た。顔が真下になっているのでよく見える。(けい)(れん)しているようだ。


 オフホワイトの羽毛、金のトサカ、尻尾はクリムゾンサーペントにやや近い色。普通のコカトリスより二回りほど大きい。『キング』の由来は、コカトリスより大きく、強く、何よりトサカが金色で王冠をかぶっているように見えるから。


 ――『魔物図鑑』を熟読しているフェリオがこのとき冷静であれば、キングコカトリスについてこう説明してくれるに違いない。


 シャーロットが出したであろう屋根の上にある障壁は、横たわって浮いていた。キングコカトリスを真っ向から受け止めるような配置だ。

 頭から障壁に突っ込んだせいか、魔物の全身が痙攣している。顔もつぶれていた。

 くちばしを見てみる。障壁が割れなかったということは、表面に刺さるだけにとどめたのか。いや、よく見てみると、くちばしもやや曲がっている。


 彼女の出した障壁は透明といえど、日の光が反射して正方形であることがわかった。そして、くちばしのあたりは割れるどころか、ひびさえ入っていない。


 ひびの確認をしているとき、すでに同じ大きさの透明な壁が、他に五枚出ていた。まず四枚が、キングコカトリスを囲むように配置される。先に下方にあった障壁の一辺と、新しく出した障壁の一辺がくっつくように重なった。四枚とも下と左右の辺がほぼ同時にくっつく。箱のようになったあと、上にあった最後の一枚が、完全に蓋をするようにぴったり閉じられる。

 キングコカトリスが、透明なガラスの立方体に捕らわれた。


 その後、気絶していたキングコカトリスは力をなくして横転。しかし、この魔物はもう箱の中の鳥。箱の中でころんと転がっただけだった。


「すみません。地面に下ろしたいんですけど……」


「……お、おう……そっち行った広場が近いな」


 アトラスはびっくりしつつもシャーロットを誘導する。

 キングコカトリスは、城門を通り抜けられるかどうかというくらいの大きさだった。その魔物を透明な立方体が囲んでいる。しかも少し余裕がある作り。広場しか思いあたらなかった。


「何だ今の音は! ……っうおっそん、え」

「……きゃーー……! ぁぁぁ…………ん?」

「ど、どういう、……き、騎士団に知らせろ!」


 魔物が急降下してから、すばやく障壁で閉じ込めた。だから、音に気づいた人たちが空を見る頃、空中で横たわっている魔物がいるということしかわからない。


 ――魔物の襲来だ!

 ――いや、何だか様子がおかしい。


 街中騒然となる。


「あ、安心できるように、色をつけたほうがいいですね」


 よく目を凝らせば、光に当たって、立方体の中にキングコカトリスがいるように見える。しかし、ぱっと見ただけでは難しかった。

 キングコカトリスが、空中でぐったりしているようにしか見えない。

 それがわかったのか、シャーロットはその立方体をうっすら青色にする。


 このやりとりのあいだ、フェリオはただただ上空に浮かぶ魔物を見ていた。

 キングコカトリスが来て、このAランクになったばかりの子供が障壁魔法を使って防御。あまつさえ閉じ込めている。

 そんな口が半開きのフェリオに、ギルマスはこっそりと教えた。


「驚いたろ? 実は、シャーロットもあの事件で活躍してんだ。ま、これは一応内緒な」


 そうこうしているうちに、広場まで着く。


「すみませーん。下ろすんで、どいてくださーい」


 広場にいた人々は、頭上にキングコカトリス、下にギルドの制服を着た少女を交互に見て、一斉に離れた。

 キングコカトリス入りの障壁正六面体が、広場に着地する。

 重たそうな音が響いた。


「ふいぃ~」


 障壁を浮かせるのは、やはり疲れるのだろうか。彼女はそんな声を漏らした。

 すると、振動が伝わったのか、気絶していたキングコカトリスが起きた。


「きゃーー! 目を覚ました!」

「皆、離れろ!」


 騒然とする広場。


「んく。……大丈夫ですよー」


 当の障壁で囲んだ魔法使いは、いつの間に出したのか、魔力回復ポーションを腰に手を当てて飲んでいる。

 まったりしている彼女に腹が立ったのか、キングコカトリスが障壁を壊そうとガンガンと障壁をつついた。


「壊そうとしているぞ!」


 周りにまた叫び声が上がったけれども、彼女はどこ吹く風。一緒にいた二人を呼んで、何やら相談している。


 そこに、異変を感じとった騎士たちが到着した。

 隊長らしき人物。部下も一緒だ。

 ここに来るまでに、魔物に詳しい人が種類を伝えたのだろう。大きな被害が出ていることを前提に、決死の覚悟ですっ飛んできた。


「――――ほ、本物なのか……?」


 この魔物が本当にキングコカトリスならば、今ごろ大惨事のはず。しかし、この場は土埃も、血の臭いも、叫び声も聞こえない。ざわついているだけ。


 ざわついている理由はこれだ。

 広場で見世物になっているキングコカトリス。謎の立方体に囲まれている。


「ア、アトラス! こ、この状況を説明したまえ!」


 こちらの騎士の隊長と冒険者ギルドの新しいギルマスは、腐れ縁だ。

 ギルドが腐っていても、スタンピードのときに持ちこたえられたのは、この二人の連携があったからだと言える。


「この薄青い壁はな。うちの新しい受付の魔法なんだ」


「はい。最近、冒険者ギルドの職員になりました。シャーロットと申します。よろしくお願いしまーす」


 それを聞いて、街中の視線が彼女に注がれる。

 この大々的な紹介は、一気に彼女の名前を知らしめた。

 彼女は、キングコカトリスを捕まえるのが初めてではなかったので、ただ単に職員であることを伝えただけだった。後日、想像以上に目立っていたと知ってちょっぴり後悔する。


 細いギルドの受付嬢と、巨大なキングコカトリスを交互に見る人々。

 キングコカトリスのほうは先ほどから曲がったくちばしでつついたり、爪で引っかいたり、蛇のような尻尾で叩いたりしていた。

 この障壁は先ほどの急降下でもひび割れないのだ。

 形の悪いくちばしでつついても、当然壊せるはずがない。

 足の爪で引っかこうにも、障壁が邪魔して羽をうまく広げられないからバランスが保てず、(から)ぶることが多い。

 尻尾のビンタもバシンバシンと音がするだけ。ただの騒音だった。


 次にキングコカトリスは、まるで息を吸いこむかのような動作をする。

 それを見た騎士の隊長は、その予備動作に見覚えがあったので大声を出した。


「離れろ! 石化ブレスだ!」


 キングコカトリスと周りの距離を離れさせた。周囲は悲鳴を上げて離れる。


「大丈夫ですよー」


 障壁で囲んだ当の受付嬢はきょとんとして、のんきに言った。


 キングコカトリスの反撃――石化ブレスが放たれた――!


 通常のコカトリスよりも、強力なブレスだ。

 ぶわぁっと立方体の障壁内が、灰色の煙に包まれる。

 ブレスは不透明で、中の魔物も見えなくなった。しかし、その魔物は勝利を確信したのか、もくもくした立方体の中で、陽気な鳴き声を出している。


 魔物に詳しいフェリオは、今度こそ解き放たれてしまうと予想していた。なぜならキングコカトリスの強化された石化ブレスは、生き物以外のものにも、それこそ障壁魔法さえも石化させる強力なブレスだからだ。そして石になったそれを、つついたり蹴ったりして壊す。

 障壁の厚さはシャーロットの手首くらいだったので、石化したらかなり巨大な塀が壊されることになるだろう。


 ――――しかし、いくら待っても石化しなかった。それどころかだんだん中の視界が晴れていく。とうとう、吐いたブレスがすべて地に落ちた。立方体内は、また魔物が見えるようになった。


「すげー! 石化ブレスってキラキラしてたんだなー」


 お調子者そうな若者が感想を漏らした。

 逃げていた人たちも戻ってきて見物している。


 ――――そのキラキラした成分が、付着することで石化する。空気に触れると乾き、ただの砂と化すのでそれからは触れても問題ない。キングコカトリスが自身のブレスで石化しないのは、石化耐性があるからだと言われている。

 フェリオが平常心を保っていたら、そう説明してくれるかもしれない。

 しかし、彼は自分の長年の常識を(くつがえ)されたので、そんな暇はなかった。


 シャーロットの障壁は爪の先ほども石化せず、相変わらずきれいなままだ。中の魔物は悔し紛れにばたばた羽を羽ばたかせ、悔しそうな鳴き声を出している。


「それでは、ギルマス! フェリオさん! 行きますよー」


「おう!」


「…………うん」


 ギルドの三人は、突然何かを始めるようだ。

 新しいギルマスは、キングコカトリスの後ろに回り戦闘態勢。査定担当は、石を数個持っている。新しい受付嬢は、――なぜか包丁を持っていた。


「……いや。お前はいいから……せめて投石にしろ」


 包丁で何をするつもりか察したのか、ギルマスは彼女を制した。


「な、待て! あれを倒すのか。我々も参加させてくれ!」


 騎士の隊長が、慌てて戦闘参加を申し出る。

 誰もがギルド側の「お願いします」という言葉を待った。

 しかし彼女は――――。


「すみませんが、嫌です。ご遠慮ください」


 申し訳なさそうには見えなかったが、少し(てい)(ねい)に断った。




さぁ、シャーロットはなぜ断ったのだろうか……?!

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