258: 骨たちの持ち物に用がある!⑤ ~ボクたちの特等席~
「あっ、やってきたわ!」
シグナの鋭い声でボクはジューって音についてひとまず置いておいて、やってくる軍勢を見たよ。
大勢のスケルトンの後方に、マントを着用したスケルトンキングが数体控えているようだよ。
暗いのにどうして見えるんだろうってさっきから思っていたけど、やっとわかったよ。
上空に薄く輝く光魔法を使っているんだ。あまりにも光が強いと、スケルトンたちはこの場から離れちゃうけど、薄明りなら気にしないみたいだ。
この戦いはスケルトンたちを倒すことが目的だもんね。
逃がさないように明かりを強く作らず、でも敵の動きがわかるくらいにしているんだ。自分たちの戦闘に支障が起きないように。
「てか、さっきからジュージューやかましいなぁ。どっから聞こえてくるんや?」
「ボクもさっきから不思議だよ」
「私もよ」
どうも魔物側からじゃなくて、ボクたち側の近くだと思うんだけど……。
「あ、見てみぃ! あれや!」
「あれは……肉を焼く魔道具だわ。肉を焼いているんだわ!」
ワーシィが指を差して教えてくれたのは、ボクたちも使ったことがある魔道具だよ。
新種の魔物が来る前に孤児院でいっぱいお肉を食べたときに使ったなぁ……って、そんなこと思い出している場合じゃないよ!
「そっか、スケルトンたちに肉がないくせに、って煽るんじゃなくて……」
「『やーい、こんなおいしい肉食べられへんやろー』って見せつけるってことなんや!」
「この方法でスケルトンたちを逆上させるのかしら、それとも戦意を消失させるのかしら。こんな戦い方、見たことないわ!!」
すごいや!
ジェイミではこんな戦い方習わなかったよ。新しく編み出された戦法なのかな?
「おい、本当に学園生は後ろで控えているのだろうな? もしもこん……馬鹿げた戦い方……見られたら恥……ぞ!」
「はっ。後ろに待機させているとのことです!」
遠くで誰か――騎士の偉い人、もしかして隊長さんかな? が話しているよ。
ボクたちはさっと身を低くしたよ。今の声聞こえていたかなぁ?
「……何を話しているのかわからないけど、ボクたちがいることはバレないようにしないとね!」
「せやな。『バカ』って聞こえたから、スケルトンたちをバカにする戦法かもしれへんな!」
「見られたくないってことは、どこにも公表してない戦法なのかもしれないわ。見たことは黙っておきましょう!」
ボクたちはこそこそと話し合ったよ。
「ねぇ、ボクたちの知っている騎士さんたち結構いるねっ」
「せやな。あの人、ファンタズゲシュトル亜種を図鑑に載せる会議室に案内してくれた人や」
「あっちにいる人は、受付のお姉さんの旦那さんじゃないかしら?」
ボクたちは燃えさかる雑巾を倒した次の日に、騎士団に呼ばれたんだ。
アーリズに来たファンタズゲシュトルが、実はファンタズゲシュトルの亜種だったってことも驚いたけど、その魔物を倒したからボクたちのパーティー名を『魔物図鑑』に載せるってことで、確認してほしいって呼ばれたんだよ。
そのときに会った騎士の人たちがたくさんいたよ。
皆あのときは気さくにボクたちに話しかけてくれたけど、もちろん今は真剣な顔をしているよ。
冒険者ギルドの受付のお姉さんの旦那さんも、あのときギルドでは奥さん大好きって顔だったけど、今は真面目な雰囲気が伝わってくるよ!
「いよいよスケルトンたちと戦うわね……!」
シグナの言うとおり、距離が近づいてきたよ。
ボクたちは最前線の真横で戦闘を見られる位置にいたよ。特等席にいるんだ!
「しかし、まだ焼いとるわ。大丈夫なんやろか……」
最前線でお肉の近くにいるのは、解体のお姉さんと……知らない人だよ。騎士には見えないよ。
その解体のお姉さんはスケルトンたちが近づくにつれて、顔が青くなっていくよ。それから――、
「うぎゃぁぁっ。むぐっ……むぐぐ……!」
叫び出したかと思えば自分で自分の口を押さえたよ。
それから「さ、叫んでないわよっ! き、来たー、うぎぃぃ! むぐぐ……!」って周りの騎士の人たちに主張していたよ。
叫んじゃダメなのかな?
たぶんだけど、解体のお姉さんってスケルトンが嫌いなんじゃないのかなぁ。肉を焼いている人の後ろに隠れちゃったし。でも、それならなんで最前線にいるんだろう?
「騎士団が動くみたいよ!」
シグナの声で騎士団の人たち数人が魔法を唱えていることがわかったよ。
「風を送れー!」
隊長さんの合図で、スケルトンたちへ風での攻撃が始まったよ。
でも変なんだ。
風で攻撃なら、スケルトンたちは後ろに転ぶはずなのに、よろけるどころか普通に歩いてくるように見えるんだ。
でもスケルトンたちが数歩足を進めたら驚くことが起こったよ。
「あっ、よろけた……ううんっ、膝をついたよ!」
スケルトンたちが次々に足を止めて、ガックリきたみたいに地面に膝をついたんだ。
「肉の香りを嗅いだことで食べられへんことに気づいて、ヘコんだんや!」
「スケルトンたちを意気消沈させることが目的だったのね!」
すごい戦法だよ! アーリズの町ってすごいや。この町に来れてよかった!!
それからふと、騎士団の奥に冒険者がたくさんいることに気づいたよ。
どうやら前線は右に騎士団、左に冒険者という隊列を組んでいたようだよ。
「見て! 奥にいるの『羊の闘志』さんじゃないかな?」
「あっちまでは肉の臭いが届かへんかったのかな、スケルトンたちが動いとる」
「でも、ゲイルさんが飛び出して――動きを止めているわ!」
よく見たらゲイルさんだけじゃないよ。
イサベラさん以外の仲間が攻撃をして……スケルトンたちを一か所にまとめているような動きをしているよ。
それからイサベラさんが魔法を放ったんだ。
「イサベラさんの火魔法や! おっきな火の玉をスケルトンたちの塊にぶつけたんや!」
「よく燃えているわ! …………す、すごいわ、まったく動かなく……いいえ、消滅したわ!!」
スケルトンたちを倒すには光魔法や火魔法が必要なんだ。
その中でも火魔法は強力な攻撃じゃないといけないんだ。骨の髄まで燃やし尽くす火力が必要なんだよ。
そうじゃないと、スケルトンたちはまた動いちゃうんだ。剣や魔法で骨を砕いたり壊したりしても時間が経ったら元に戻っちゃうからね。
火魔法で燃やし尽くすことができたら、もうそのスケルトンは動かなくなっちゃうんだよ。それができて、「スケルトンを倒した」って言えるんだ。
イサベラさんの火魔法は、何体ものスケルトンをいっぺんに再起不能にできたってことなんだ。
「「「すごーーい!!! ……あ」」」
ボクたちは思わず声を上げちゃったけど、今は静かにしないといけなかったよ。
でもこの声は聞こえてなさそうだよ。
「うひょひょひょ、やったわ!」
近くの解体のお姉さんの喜ぶ声のほうが大きかったからね。
前方のスケルトンが動かなくなって、騎士数人が光魔法で攻撃したみたいで、こちらももう骨がバラバラになっていたよ。
「ジューって音がするけど、これはお肉じゃなくって光魔法が当たってスケルトンが再起不能になる音ね」
シグナの言うとおりだと思うよ。
スケルトンは光魔法で倒すのが一番倒しやすくて、光をスケルトンに当てると、当たったところから骨が粉々に崩れるんだ。
それはもう元に戻らなくて、崩れた量が多くなるにつれスケルトンの骨は復活しなくなって、いよいよ動かなくなったら残りの骨が砂のように細かく砕けるんだ。それで討伐したことになるよ。
「解体のお姉さん大丈夫そうでよかったね。――あ、そうだ、ワーシィはスケルトン大丈夫なんだっけ? ファンタズゲシュトル――オバケは嫌いだよね?」
「スケルトンは大丈夫や。オバケは臭いし、氷が当たらんから嫌いなだけや」
「そっか、よかった。嫌いな魔物相手に無理やり連れてきたかと思ったんだ」
「平気や。それよりコト、即死回避のネックレスを手に入れるんやろ。近くのキングが持っとるとええな」
そうだよ。ボクたちはどうしても即死回避のネックレスを手に入れるんだ。
せっかくのチャンスなんだ。
「あれはどうかな? すぐ近くにいるスケルトンキングだよ」
「剣を持っとるアレやな。一歩前に出てきたで」
「でも遠くから大きく振りかぶって何をするのかしら?」
確かに不思議だよ。スケルトンキングは剣を上に振りかざしたら、羽織っているマントが風になびいたんだ。
それから突然前方に――騎士団側に距離が大きく開いているのに、上からブンッて振ったよ。
そうしたらっ、風が起こったんだ。
風魔法を使うスケルトンキングだよ。
スケルトンキングは魔法を使える魔物なんだ。闇魔法を使う個体が多いって学園で習ったよ。風魔法を使うことは稀だったはずだよ。
「風を起こしたら、肉の煙が騎士側に送られたよ!」
「そないに肉の煙が嫌やったんかな!?」
「煙は――、風向きのせいかしら、『羊の闘志』さんや冒険者側にも行ったわね。あら、おかしいわ……」
ボクたちはその巻き起こった風が騎士や冒険者にまで送られたのが見えたよ。
なんでこんなことをしたんだろうって思った傍から変なことが起こったよ。
「ぐ、おぉぉぉ……何だ、この臭いは……っ」
「くっっっさあああああ!」
「た、立てねぇ……」
「体がっ、お、重っっ」
大変だよ! 騎士や冒険者の皆が突然、膝をついちゃったんだよ!!
騎士側・戦闘前にて。
魔物討伐隊長「……肉を焼いたらその煙が魔物を弱体化させる、だから今回の作戦では前線で肉を焼かせろと?!」
鳥団長「今回だけです。あの魔道具研究所には拡声魔道具と嘘を見破る魔道具を直してもらってまして、そこをつつかれましてね。完徹で直したのだから実験に付き合え、と迫られ……交渉されまして」
魔物討伐隊長「拡声魔道具はともかく、嘘を見破る魔道具は例の伯爵子息どもの証言に大いに役立ちましたからな……仕方ありませんな」
……コトたちは勘違いしているけど、騎士団内部でこんなやりとりがあったとか、なかったとか。




