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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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253/260

253: 話題性バツグン④ ~ねばる~


「う、うう、ぅぅぅ……っう゛う゛う゛う゛う゛~~~~。あ゛ぁ゛ぁぁぁーー!!!! ひどい~~! ひどいわぁぁぁーー!!! ビエェェェ~~!!!」


 タチアナさんは障壁にもたれたあとすぐに気を取り戻した。

 そのあとつぅっと涙を流したかと思うと、全力で泣き叫んだ。


「姐さ~ん、悲しいっすね!」

「せっかく楽しみにしていたのに無念っすね、姐さん……」


 解体の手を止めて仲間たちが慰めの言葉をかける。ちょうど手の空いている者は、タチアナさんに駆け寄った。

 しかしタチアナさんは彼らをふりほどき、目の前の所長さんとその前にある肉の塊に迫った。ただし元々張ってあった障壁に阻まれた。


「ふっ、ふふ、ふざけんじゃないわよ~っ!」

「そ、そう言われましても……」


 迫られた所長さんはたじたじだ。


「こんなに綺麗に剥いだのに! アンタの肉が食べられないですってぇぇ~?? 裏切りよーー! ギガントペリドットタマリンに裏切られたわー! わぁぁぁーーっ、ひどいわ~!」

「あ、こちらのお肉に抗議でしたか……」


 所長さんに怒ったと思われたタチアナさんは、実際には魔物肉を睨みつけその前に張ってある障壁に顔を押し付け猛抗議した。

 ただそれも、障壁をバシンバシンと叩いたら手のひらが痛くなったようで、またへたり込んで静かになった。障壁にはタチアナさんの涙が縦に残っていた。


「まぁまぁタチアナさん、食べる前にわかってよかったですよ。うっかりつまみ食いしなくてよかったです」


 タチアナさんは解体作業という仕事に誇りを持っているからするわけがないし、彼女の仲間たちも同様だ。


「つまみぐい……そうよっ、少しかじるくらいいいじゃないの!」


 タチアナさんはすっくと立ちあがったけど、近くの仲間たちに「姐さーん、やめてくださーい! 死んじゃいますよ!」「障壁張ってるし、無理ですよ~」と取り押さえられた。


「タチアナさん、かじっても66%の即死効果だから危険ですよ!」

「……どっから66%って数字が出てきたんだ? シャーロット」


 うっかり確率を言ってしまい、ギルマスに怪訝な顔をされた。


「えっ、……あー、急に数字が浮かんできてー。コトちゃんの『閃き』スキルが使えるようになったのかなぁ。えへへ~」

「……まぁ、たとえ1%以下でも食べさせないがな」


 なんとかごまかせたかな。


「……そもそも『魔物図鑑』で味の記載は必要ない。食用の可不可がわかればいい」


 横目でこの騒ぎを見ていたフェリオさんは、少し呆れ気味に言った。

 人気の魔物肉であるオークなどは、図鑑でおすすめ調理法などが記されているけど、大半の魔物は肉の説明に「食用可」「食用不可」と記されているだけだ。

 調理法を知りたい場合は、料理のレシピ本を購入したほうが早い。

 フェリオさんは「新種の魔物は食用不可」という情報が得られたので、図鑑に載せるには十分だと満足していた。


「そうだわっ、シャーロット!」


 まったく満足できないのは彼女だ。

 仲間になだめられていたタチアナさんが閃いたように、目を輝かせて私を呼んだ。


「アンタ即死回避の装備持ってないの!!?? 三連人面カブカブのときに学園生たちにたくさん貸し出したって聞いたわよ!」

「即死回避の装備なんて持ってないですよ。カブカブのときは普通に魔力や力が上がるくらいの装備を貸しただけですよ」

「……わかったわ……。今から道具屋へ出発よ! ――ちょっと、放しなさいよ!」


 タチアナさんは突然走り出して外に出ようとしたけど、それも解体メンバーさんたちがすぐに察知して彼らに取り押さえられていた。


「即死回避系の装備は、そう簡単に手に入らない」


 フェリオさんはごたごたしている彼女たちを上から見下ろしていた。タチアナさんが「わかったわ」と言った直後、どう行動するか予測して飛んで逃げていたのだ。

 ギルマスはタチアナさんたちの前に出る。


「それに高価だからな? 時期や場所によるが、お前の給料三から五ヶ月分くらいの値段だったはずだ。あと、肉食べるために欲しい奴より、冒険者に使ってほしいからな?」


 即死攻撃を使う魔物は少ないけれどいることはいるので、冒険者ギルドとしては肉を食す目的より、そういった魔物を討伐する目的で買ってもらいたいと語った。

 そういえばタチアナさんから聞かれたから気づいたけど、私って状態異常を回避する装備は持ってなかったなぁ。

 そもそも『全状態異常耐性』スキルがあるから必要性を感じなかった。

 でも「即死」も耐性があるかはきっちりと確認はしていない。

 毒や麻痺や石化などはおかあさんと旅をしているときに、魔物の攻撃を受けてみて本当に耐性があるかを確認はしている。

 もしこういった状態異常になってもポーションなど回復させる準備をしてしたから躊躇なく試せたし、そもそも状態異常にはならなかった。

 でも「即死」の場合、万が一本当に死んでは大変、と試さなかった。


「そんじゃ、この肉は全部廃棄だな」


 ギルマスが肉についてはこれで終わりとしようとし、「いやぁぁ!」とタチアナさんの絶叫が響く中、「あのー」と疲れた声が聞こえた。魔道具研究所の所長さんだ。


「あ、うちの者が騒がしくてすみません。今回の査定料お渡ししますね」


 用が終わったから帰りたいのだろうと所長さんの周りの障壁は消した。しかし所長さんは話を続けた。


「そういうことでしたらそのお肉、うちに譲っていただけませんか?」

「え?」

「ぜひ研究に使いたいと思ったんデス」


 他に貰い手もいないなら全部欲しいと言う。


「研究って……え、即死の研究ですか?」

「おいおい、おたくら、危ないもんでも作るつもりか?」


 私は単純に問いかけ、ギルマスはどういった魔道具の研究をしているのか、何か怪しいことでもやっているのかと詰め寄った。


「いやいやいや、そうではないデスよ! 即死は即死でも、即死回避の道具を考えているんデス! あなたたちも言っていましたよね、即死回避系の装備は少ないって!」


 即死効果のあるこの魔物の肉を調べ、即死回避できる魔道具を作れないか、私たちが騒いでいるあいだ考えていたようだ。


「即死回避の装備はダンジョン内かスタンピードくらいでしか手に入れられません。それを作れたらどんなにすごいか。何より王家に売れば研究費もがっぽがっぽ、あ……何でもありません……」


 最後の本音は私たち皆でスルーしてあげた。


「物が物デスので、厳重に保管させてもらいます。デスから、ぜひうちに……!」


 この必死の訴えに、ギルマスは所長さんと話し合いをしに二階へ行き、残された解体メンバーたちはタチアナさん以外作業を再開した。

 その解体場所にフェリオさんが近づく。


「タチアナにもう解体させないで。毛皮食べかねない」


 解体メンバーたちはフェリオさんから圧を感じたようで「うっす……!」と素直に返事をしていた。

 タチアナさんはフェリオさんに抗議したけど「大まかな解体は終わっているのだから、あとは部下に任せたら」と冷たく言い返された。

 タチアナさんは障壁越しに(にく)へと向き直り、憎々(にくにく)しげに見つめ、また泣いていた。

 私は私で、話し合いが終わるまで肉という肉は障壁で囲んだ。


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