252: 話題性バツグン③ ~通り名と実物のギャップ~
あれから長蛇の列を捌き、学園生は依頼をこなすためにそれぞれの目的地へと向かっていった。
そして列も解消しギルド内にぽつぽつとしか人が来なくなった頃、私はギルマスとフェリオさんと一緒に解体倉庫に入り、奥を目指す。
「おいシャーロット、さっき並んでいた商人、『血葬騎士団』とか言ってたってフェリオから聞いたがお前も聞いたか?」
「はい、聞き覚えあるんですか?」
道すがらギルマスに聞かれ、フェリオさんもそれに反応した。
「二年前、新領主が共に連れてくる騎士団に、異様な噂流れてた……」
「フェリオさんも知っているんですね」
その騎士団の異名は有名なのだろうか。
「元々フェリオから聞いていてな。反逆者の領主が去ったと思ったら、良くない印象の騎士団を連れて来るってんで、新しい領主は大丈夫かとこっちも気を揉んだもんだ」
「その名称ってどういう意味があるんでしょうか」
「血葬騎士団ってのはなんでも『敵を屠ったあと血の色の絨毯ができることから、葬列を作らせる騎士団』っつう話を聞いたな」
おどろおどろしい意味があるようだ。
「どんな化け物騎士団が来るんだとかまえていたんだがよ、別に問題を起こすわけでなし、当人たちは明るく挨拶してくるし、スタンピードでの戦闘ももちろん強くあるが異常な戦い方ではなかったから意外と普通だなとは思ったな。何より当時うちは冒険者ギルドの存続がかかっていたもんだから、他所の噂を詳しく確認なんてしてらんなかった。今では町で流れる噂が『女のケツを追いかける騎士』だとか『新婚騎士の挙動がおかしい』だとかが主流で、その名称は忘れていたんだ」
「『血葬騎士団』と名付けたのが帝国側だった、とぼくは考えた」
なんでも西辺境領でヴィダヴァルト軍として戦った彼らは大変強く、帝国側に相当被害を与えたらしい。
だから恨みも込めて帝国が言っていたところ、王国側にそのまま伝わったのではないかと推測できるそうだ。
「それじゃ『かちわり……きょう剣士』さん、でしたっけ? そちらは……」
「『かちわり凶剣士』だろ? うっすら聞いたことがあるようなないような、くらいだ。フェリオは?」
「ない。おそらく別の騎士団所属」
西辺境では建国以来何度も帝国と小競り合いがある。ヴィダヴァルト侯爵の騎士団以外にも多数の領が参戦していたようだから、別の騎士団所属の人物ではないかとのことだった。
「なんならメロディーに頼んで旦那に聞いてみてもらうか? ……いや無意味か」
「あまり期待できないですね。覚えていた名前を三日もしないで忘れてましたから」
昨日の帰りにメロディーさんたち夫婦と途中までご一緒したときに名前の話題になったので、「アルゴーさんったら、『イパスン』は覚えていたのに」とからかったのだけど、アルゴーさんは「イパスンとは誰だ」と素で聞いてきたのだ。
どうやらイパスンはスパイ容疑がかかっていたので、団長さんに名前を覚えているかたびたび抜き打ちテストをされていて、妻のメロディーさんに突っかかってきた貴族との関係もあったので覚えていただけのようだった。
スパイの問題が解決したし、事件が事件だったので誰もその名を口にしなくなってアルゴーさんはすっかり忘れてしまったようだ。
ドアで攻撃したり彼の頭を掴んで障壁に押し付けたりしたのに、数日で記憶を抹消するとは……。
「結局のところ悪いイメージのある呼び名は、対象をよく思わない奴らが付けることが多いかんな。ブゥモー伯爵か帝国らへんが言い広めたのかもな」
アーリズに召喚石が持ち込まれた件では、ブゥモー伯爵と帝国が組んでいた可能性があるとのことだったし、その線が濃いだろうとのことだ。
私は騎士の皆さんの顔を思い浮かべた。『珍行動団』という名称なら納得するけど、『血葬騎士団』なんて物騒な名前はピンとこない。
「アンタたちー! そんなとこでくっちゃべってないで、早く来なさいよ! ギガントペリドットタマリンの肉の“結果”がわかるのよっ!」
そうだった。私たちが倉庫に来たのはある目的があったからだ。
広場でお披露目を澄ましたあと、戻ってきてすぐに解体メンバーたちが解体を始めた。
その中でもまず先に、切り落とされた腕の解体を優先し肉の鑑定をお願いしていた。口に入れるものなので毒などないか、ギルマスが確認したがったからだ。
フェリオさんは宝石や毛皮などの査定は得意でも、肉のほうは自信がないとのことで肉の査定ができる人に来てもらった。もちろん私は『鑑定』スキルを持っていることは秘密にしているのでお声はかからなかった。
来てもらったその人は料理人など食に関わる仕事ではなく、魔道具研究所の所長さんとのことだ。
私たちがカウンター業務をしているあいだ、ずっと調べていたようだ。
こう言ってはなんだけど、私の『鑑定』ではパッとわかるものだから、所長さんの査定は結構時間がかかるものなんだなと思った。
でも意外とそういうものなのかもしれない。
ゲンチーナさんだって、状態異常がないかの確認に時間をかけていたし。
「それでは、皆様揃いましたようデスので、こちらのギガントペリドットタマリンの肉の状態異常効果の有無について鑑定結果をお伝えします……」
魔道具研究所の所長さんは徹夜したかのように目にクマができている。きっとお忙しいところ来てくれたのだろう。
反対にタチアナさんは元気でわくわくしている様子だけど……、このあとの結果発表で倒れるんじゃないかと私は心配だ。
「こちらの新種の魔物の肉デスが、食べますと……」
疲れた顔の所長さんはタチアナさんのほうを見て、言うのを少しためらった。
このあとの落胆ぶりが予測できたからかもしれない。しかし意を決した様子で口を開いた。
「――――かなりの確率で即死の可能性がある、と出ました」
その発表は解体中の皆の耳にも聞こえたようで、倉庫内が沈黙に包まれた。
私はもちろんその答えがわかっていた。
さらに詳しい『鑑定』結果はこうだ。
「ギガントペリドットタマリンの肉:食べると66%の確率で即死」
即死、という効果のある肉はそうそう見ない、というかあったかな? と思うほどなのでさすが新種の魔物の肉といったところかな。
「あぁ……いやぁ、やっぱりなぁ……。調べてもらってよかった。実のところ俺はどうも悪寒が……嫌な予感がしてな」
ギルマスが魔道具研究所の所長さんを呼んだのは、その予感に従ったからとのことだ。彼の『本能』スキルのおかげだろう。
だから解体メンバーたちには深刻な事態にならないよう、いつもならしない防護服を付けさせて解体してもらっていた。
私もあらかじめ『鑑定』で見ていたから、こんな危険な魔物の解体は大丈夫か不安だったけど、ギルマスがこのように指示していたので安心してカウンター業務をしていたのだ。
ちなみにこちらの所長さんが安全に査定できるように、障壁で隔離していた。
「解体しているこの場の空気はどうだ?」
「空気中に即死効果が舞うことはないデスし、他の――毛皮や爪はそのようなマイナス効果はありません。むしろ加工すれば強力な武器や防具になると思います。それから、額のペリドットは普通のペリドットでした」
ペリドットは『羊の闘志』さんが所有を主張しているので、この結果によって安心してお渡しできそうだ。
ところでタチアナさんはというと……。
「………………」
何も声を発せず、床にへたり込んでしまった。
「あ、おい、タチアナ!」
それから後ろに倒れそうだったので、障壁で背を支えた。




