247: 三人と私の休日④ ~三連人面カブカブ~
ガラーン、ガラーン、ガラ…………。
「う~ん……」
私は椅子に座り、鐘が六回鳴るのを聞きつつ、目の前の三人の戦闘を見ながら唸っていた。
「ぎらぎらりィィん!!」
「それ、ボクの呪文なんだけどー! マネしないでよ! ――あー! またボクの障壁壊された!」
コトちゃんの張った障壁が壊されるのは何回目だっただろうか。
そして何回も張り直すから、カブカブに呪文を覚えられマネされていた。
「“ストロゥベル・ドロップ!”……あかん、コトの顎が削れただけや。うちの顔をつぶしたいのに……」
ワーシィちゃんの氷は私の足止め障壁を通ってコトちゃん顔のカブカブに当たったものの、三連人面カブカブにとってさほど痛手にならなかった。
「思えばあのときのコトって顔をぐるぐる巻きにしていたから、このカブカブも下膨れしているのね。“パリパリ・リボン!”」
天井障壁がなくなってカブカブの葉の部分が攻撃してきたから、シグナちゃんはその葉を切り捨てた。
「ワーシィちゃん、顔の部分は倒したあとにしよう。まずは葉っぱを刈り取ることから始めて! 今は倒すことだけ考えてね! ……それにしても、う~~ん」
私はまたも唸っていた。なぜならば――。
「あんまりダメージ通ってないなぁ……」
シグナちゃんが先ほど訴えていたように火力が足りない。すなわち三連人面カブカブの体力は少ししか削れていない。
「お~い、君たち学園生かーい?」
また馬車が通りかかった。アーリズに向かうのだろう。
「そうっす! ボクたちは、キラキラ!」
「ストロゥベル!」
「リボンです!」
三人の火力はともかく、馬車が通るたびに名乗るほど元気はあり余っている。むしろ注目を浴びるたびに元気になっていた。
それはいいとして、
「ボクたち、三連――うあぶっ!!」
「コト、また障壁壊されてるで!」
「あら、コト、膝擦りむいてるわよ」
三連人面カブカブが三人とも目を離した隙に攻撃した。葉っぱの攻撃をコトちゃんが避けたはいいものの、地面に倒されていた。
「“きゅ……”やっぱやめた。――はい、ポーションかけてね」
「うわん……、シャーロットさん……」
何度目かの何か言いたげな目で見られたけど、私は治癒魔法を使わなかった。最低限の手助けにしないと、倒した後のランクポイントの分配で彼女たちの分が少なくなってしまう。
だからさっきからこうしてポーションを渡しているのだ。
この町はスタンピードが頻繁にあるので、私はいつ誰に渡してもいいように体力回復のポーションも魔力回復のポーションも大量にストックしている。だからこの三連人面カブカブ戦で何本使っても大丈夫だ。帰ったら買い足しておけばいいのだし。
「それにしてもこのままだと閉門まで間に合わないなぁ。どうにか、あ……何かあるんじゃないかな」
私は収納にいい物が入ってないか探すことにする。
「え、まさかドーピングっすか!?」
ポーションをかけていたコトちゃんが驚く。
「いやいや、変な薬なんてないからね。でもドーピングに近いといえば近いかも。着たり付けたりしてもらいまーす! ……あ、これはどうかな?」
三人が「着たり付けたり?」と疑問の顔を浮かべている前で、じゃーん、と真っ赤なリボンを出す。最近召喚石を壊すのに使ったことがあるリボンだ。
「このリボンはシグナちゃんに使ってもらって……」
「リボン……ですか」
リボンと言えばシグナちゃんだから彼女に渡した。
「もうこうなったら倒すためにいろいろやってみよう! 知力が上がるよ」
「えっと、今日は青いリボンを付けているので赤は……」
「シグナちゃん、今は色の相性よりあのカブカブを倒すほうが先だからね」
「は、はい……」
シグナちゃんには渋られたけど、倒すためには仕方ない。
「ストロゥベル……の物はないから、この帽子をかぶってもらって……」
「このふわふわの帽子ですか。季節的にどうなんやろ……」
「ワーシィちゃん、このままじゃ倒せないよ。閉門まで残っていたら私がこのカブカブをつぶしちゃうから三人にランクポイント入らなくなるよ!? それは嫌でしょ!??」
「は、はいぃ!」
だんだん顔を近づけながら説得したからかな、ワーシィちゃんが圧に負けたような声を出した。
さぁ、次はコトちゃんだ。さっきからカブカブの葉っぱに狙われているようだし、耐久の上がる装備がいいかな?
「このブラックタートルが編みこまれたコート……ってコトちゃん、なんで離れるのかな?」
「ボ、ボクはこのポンチョあるっすから……。それに黒はボク似合わないっす、着ても暑いっす」
シグナちゃんとワーシィちゃんに渡した物を見て、次は自分だと気づいたコトちゃんはあとずさりしながら答える。私は私で確かにコートは暑いかもなぁと考え直した。
「ん~、他に耐久値上げるのは……あっ、コトちゃん危ないよ、避けて」
「えっ」
いや、コトちゃんが避ける前に来るから障壁を張ろう。
――バィン!
「ぎゃー! ね、根、根っこっすー!!」
三連人面カブカブの根がこちらに攻撃してきていたのだ。
私の障壁を確認したけど、もちろん破られているわけではなかった。コトちゃんの天井障壁もそのままだ。
どうやら私の障壁の真下の土に根を潜らせていたようだ。側面に障壁を張っただけだからそれができていた。
「きら゛きら゛りぃぃん! すどろぅぅべるどろっぷぅぅ! ばりばりりぼん゛んん!」
三連人面カブカブは悔しそうに彼女たち三人の呪文を真似している。
私たちは道の途中にある一時停車用の少し開けた場所に移動していたけど、もっと道から離れないといけないようだ。
三連人面カブカブをもっと奥に移動させるために、一旦コトちゃんの天井障壁を上げてもらってから側面障壁を森側に押しやる。
「ギャぁぁぁ! ネ、ネ、ネッコッスぅぅぅ!!」
急に押し出されて本当に叫んでいるようだけど、さっきのコトちゃんのマネだ。非常に違和感があるけど、魔物がオウム返しで使っている人語だから仕方ない。
それはともかくコトちゃんのマネが多い気がする。
このパーティーのリーダーだとわかっているのだろうか?
「こうなったら、コトちゃんを囮にワーシィちゃんとシグナちゃんが攻撃したほうがいいね。って言ってもいつもそうしているだろうし、今もそうやって戦っているけど……」
このままやっても勝てなそうなら、さらに火力上げをしないといけない。それから……。
「コトちゃん、もっと目立とう。カブカブが二人を気に留めないくらいに」
「目立つ……っすか!?」
元からお目立ち三人組のリーダーをさらに目立たせるためにはやはり――。
「うん。だからこれも着よう! これもこれも、いろいろ付けてみよう!」
「い、いろいろ着る……っすか……」
そうだ、カブカブを奥にやったのだから椅子も移動させないとね。
椅子の移動は簡単だ。手を使わずすいーっと動かせる。障壁で作った椅子だからね。
「ほな、コトが着替えとるあいだにうちらはカブカブを注視しときます」
「コト、早く着替えてね」
二人はコトちゃんが「本当に着るっすか!?」と私の装備品を広げているところ、そそくさとカブカブの近くに戻ろうとしたけど、それを私は引き止めた。
「ワーシィちゃん、シグナちゃん、その前に手伝って」
「嫌な予感がする」とあからさまに顔に出す二人に、私は笑顔で手伝いを頼んだ。
「今から出す指輪をね、この紐にくぐらせてほしいんだ。――コトちゃんこのシーツ貸すから、くるまってそこの木に隠れてちゃちゃっと着替えちゃって! ワーシィちゃんシグナちゃんには……この指輪、これも、この指輪も、……えーい全部出しちゃおう!」
たくさんの指輪を一本の紐で通しまとめるという簡単なお仕事を二人に頼みつつ、コトちゃんが何やら文句を言っているけど着替えるよう促した。
シグナちゃんがコトちゃんの持っている服や服飾品を見てぎょっとした。
「シ、シャーロットさん。できましたけど、このあとは……」
「ありがとう! 紐の両端をつなげるように縛ってね。それから――シグナちゃんの首にかけてね! ワーシィちゃんの作ったのはワーシィちゃんの首にね!」
二人の顔には「やっぱり!」と書いてあるようだ。
私が出した指輪は、それぞれ魔力・知力・集中・体力・力・速さが上がる。
魔法攻撃が主なワーシィちゃんには魔力・知力・集中を多めに、剣での攻撃ができるシグナちゃんには体力・力・速さを多めに選んでそれぞれ紐に通してもらった。
何連もの指輪のネックレスをかけてもらってから私は『鑑定』で二人を見た。
「……いや、まだか……。このネックレスもかけてもらおうかな」
二人は「この指輪だけで大丈夫です」と言おうとするも、私は「勝つためだよ!」とあるだけのネックレスを出す。
「これで火力が上がらないなら次は腕輪とかイヤリングだね。そうだ、ベルトもあるからね」
「シャーロットさん、もうええですっ! ――ってコト、ぶーっ、何やそれ、あっははは!」
「首が重たくなりますので……。――コ、コト……ふ、ふふふふ、に、似合ってるわっ」
二人は両手を振って拒否するけど、着替えたコトちゃんが出てきて吹き出していた。
「もーっ、二人だって首にジャラジャラ着けてるじゃん! ――シャーロットさん、これじゃ目立つじゃなくって笑い者っす! ……ちょっ、シャーロットさん……!? もういいっす、ボクもう何も着ないっすよ!?」
コトちゃんがぷんすか怒ったり慌てたりしているけど、私は無視して収納内に他にも使える物がないか探していた。
誤字報告くださる方々いつもありがとうございます!




