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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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243: 皆待ってるよ⑤ ~武勇伝にしないでください~


 私は『羊の闘志』のお姉様方を見送り、デザートを食べつつ歩き、『キラキラ・ストロゥベル・リボン』の三人の様子はどうだろうと探した。


「いやはや、君たちの自己紹介もよかったが、君たちの姉貴分・シャーロット、いや『壁張り職人』殿もなかなかのものだった」


 隊長さんは酔いが回っているようで声が大きく、そちらを見れば彼女たちもいることがわかった。

 冒険者だけでなく騎士たちとの交流もしていることに、私は本当に連れてきてよかったと思った。いろんな人と話して、三人の将来に繋がればいいな。

 ところでどんな話をしているのだろう。


「昨夜戦端が開かれてすぐだったか、ちょうど我々の部隊に例のファンタズゲシュトル亜種が来て、まさに混乱ボイスを出すところで危なかったのだがな、それを彼女は後衛にいるにもかかわらず阻止したのだ。あまり覚えてないが確か、『――冒険者ギルドの、受付嬢! シャーロットーー!』と大きな声で魔物たちの注意を我々前衛から反らしたのだ!」


 ぎゃーー! 隊長さーん!?

 私は遠くから見守る予定だったのを一転、人ごみをかき分け、四人に近づこうとがんばる。


「こちらの部隊はかなり前線にいたが、とてもよく聞こえていたし、動きも大きくしてな。それがよかったようで我々の周囲にいたオバケどもが壁張り職人に向かっていったのだ!」


 話を聞く三人が……いや、他にも学園生数人と町の人たちが、わくわくしながら聞いているではないか。


「それからがさらにすごかった」と話を盛り上げる隊長さんに目を輝かせて続きを促す学園生たちを、私は目指す。


「城壁の上で突如障壁を出し、魔物たちに『仕置きだ、かかってこい』と挑発し、向かってきたところを押し出し、町への侵入と後衛への攻撃を防いだのだ!」


 隊長の盛り上げ方がうまいのか、「すごーーい!」「かっこいい!」「さすが!」と学園生と町の人たちが沸き立っている。

 あのときの私の演技が一部始終見られているではないか。

 私の声はそんなに大きかったのかな!?


「壁張り職人は混乱状態にありつつも、町の守りを常に考えているということが証明されたのだ!!」

「「「キャーー☆★☆」」」


 三人は特に大興奮だ。だからこれ以上盛り上がらせないために、私は割り込む。


「ちょ、ちょーっと、何を話しているんでしょうか……!?」

「おお、アーリズの守護者の登場だ」

「い、いやですよー、そんな大げさに話さないでください」

「大げさではない。壁張り職人は混乱状態で覚えてないだろうが、本当にまるで『勇者物語』の一部分を切り取ったようなシーンだったのだ」


 その物語って我が国の初代王の活躍を描いた物語だよね。

 そこにそんな残念なシーンがあったとは。いや、本物の勇者様はもっとかっこよかったのだろう。私が残念だっただけだ。

 そんな陽気な隊長さんは、他の人に質問されこの輪から外れた。今のうちにこちらも三人の気を紛らわせよう。


「さ、おいしそうなの買ってきたからあっちで食べ……」

「シャーロットさんっ!」

「な、何かな?」


 やけに真剣な顔をしている。コトちゃんだけではなく、ワーシィちゃんもシグナちゃんもだ。


「ボ、ボクたち、恥ずかしいっす!」

「……何が、どうしてかな?」


 三人は真剣に目を合わせ、そして私に向き合った。


「ボクたちは今までパーティー名は名乗っても、自分たちの名前は名乗らなかったっす!」

「うちら、自分たちの名前を名乗るなんて恥ずかしいと思っていたんです」

「……昨夜私たち、孤児院の皆にも指摘されたんです」


「う、うん?」と聞き返す私に、三人は苦悩の表情を浮かべ同時に叫んだ。


「「「それなのにシャーロットさんは堂々と名乗るなんて!!!」」」


 三人とも拳に力が入っている。


「さすがっす! ボクたちにできなかったことをしたっす!」

「恥ずかしいと言うとった、うちらこそ恥ずかしいです!」

「しかも、向かってきた魔物を挑発して、果敢に挑むなんて……!」


「ボクたちは雑巾相手に、対峙するときのセリフを最後まで言えなかったのにっ」とコトちゃんが何かを悔やんでいたけど、私にはちんぷんかんぷんだ。

 三人はまた顔を見合わせ、頷いた。


「「「ボク(うち・私)たちはもっと精進します!!!」」」

「う、うん、がんばってね……? でも、冒険者だから、パーティー名の名乗りだけでも十分だよ……?」


 私は名乗りたくてやったのではなくて、魔物たちの意識を私に集中させるためにやったのだし。


「さ、いらないって言われたけど、なんだかんだでお菓子買ってきちゃったから四人で分けよう」

「い、いらないっす……」


 即答された。

 やはりどこか痛いのか、と思うもやはり『鑑定』スキルでは特に異常はない。


「ボクは、ボクたちは……」

「う、うん」


 三人は真面目な表情だ。


「ダイエットするっす!」

「痩せなあかんのです!」

「しばらく甘いものを制限します!」


 まったく太ってないよ、と言うものの三人は決意が固そうだ。


「そ、そっか、じゃあ……」


 きっとそういうお年頃なのだろうと思いつつも、買いすぎたのだから、まだ近くにいる他の学園生の子たちにあげてもいい。


「シャーロットさんっ、どこ行くっす……?」


 近くの子たちが見えたのでそちらに行こうと足を踏み出した途端、コトちゃんが焦った声を出した。


「いらないなら他の子がほしいかなって……」

「……ちなみにどんなお菓子っすか」

 買ってきた物を出した。


「「「…………」」」


 三人とも涎を出しそうな顔でそれを見た。


「やっぱり食べる?」

「「「いっ、いらないです」」」


 三人は明らかに言葉と表情が合っていない。


「よし、わかった。コトちゃんたちの食べる分は置いといて、それでも余る分は他の子たちに渡すよ」


 そうだ、そうしよう。

 また三人に引き止められる前にさっさと行動だ。

 結局は学園生一人ひとりに渡していった。皆喜んでくれたのでよかった。

 三人の元に戻ると、まだ残念そうな顔をしていたので、ちゃんと残っていることを伝えた。


「そろそろ帰ろっか。帰り道でお腹すくよ。お家で食べよう。でも、三人とも太ってないからね?」


『鑑定』スキルでは体重について調べようがないけど、アーリズに来たばかりの服をちゃんと着られるのだから大丈夫だと思う。





 それから私たちは家を目指す。

 コトちゃんはぽつりと話し出した。


「ボクたち……、広場に来てよかったっす。……もっと冷たく見られたりとか、迷惑そうな顔されると思ったっす。だからあのときは家から出たくなかったっす」

「そんな……迷惑だなんて」

「でもっ、サブマスターさんからおごってもらったし、一緒に雑巾を倒した冒険者さんたちもボクたちに話しかけてくれたっす。ボクたち不安に思いすぎてたっす」


 三人は来てよかったねと笑顔だった。


「シャーロットさん、連れてきてくれてありがとうございますっす」

「ほんまはお腹が空いとりました。助かりました」

「意地になってたところもあったと思います。ご面倒かけました」


 ぺこっとお辞儀をされた私は明るくこう答えた。


「よかった。あとでマルタさんとイサベラさんにもお礼言ってね。でも私たちは面倒だと思ってなかったよ」

「「「はいっ」」」


 三人が元気よく返事をしたあと、コトちゃんが「そういえば」と思い出したようにつぶやいて、それからキョロキョロとあたりを見回し小声で話す。


「ねえねえ、あのおじさんいなかったよね?」

「どのおじさんや。午前に会うた人?」

「あ、クッキーのおじさん。……おじいさんじゃなかったかしら」


 三人の話を聞く限り、あの王子のことだろう。


「なんて名前だったっけ? 全然思い出せないや」

「コト、もう忘れたん? ……ってうちもや。お金持ちっぽい名前やなかった?」

「おじいさんっぽい名前じゃなかったかしら。おかしいわ、こんなすぐ忘れるなんて。コトじゃあるまいし」


 どうやらカイト王子が装備しているあのバンダナのせいで、すっかり名前を(たぶん顔も)忘れてしまったようだ。


「ボクじゃあるまいしって何だよ! あ、シャーロットさんは覚えてるっすか? 前も会ったことあるっすもんね」


 私はカイト王子の様子や強く主張していた彼の意思を思い出して、こう答えることにした。


「えーと何だったかな。数年前に一回会って、それきりだったからね……」

 そうだ。どうせなら候補に挙がったこの名前をお借りしよう。


「あ、思い出した。『ブラッキョ・ビッグペリドットゴリラ』みたいな名前だった!」

「…………そ、そんな強そうな名前だったっすか?」


 コトちゃんたちは首をひねっていたけど、私は「そう記憶してるよ」なんて笑っておく。

 もしかしたらそのまま新種の魔物の名前になるかもしれないけど、インパクトがあるから彼のことをますます思い出さなくなるはずだ。

 王子はこの子たちに、いや一般人に首を突っ込まれたくないようだった。

 だから私のこの返答に、彼は満足してくれることだろう。


ブラッキョ・ビッグペリドットゴリラ(仮)「ぶーーっくしゅ!」

部下「大丈夫ですか?」

ブラッキョ・ビッグペリ以下略「誰かがウワサしてやがる……!」


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