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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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241/242

241: 皆待ってるよ③ ~まずは食べよう~


「――そうなんですよ、タチアナさんは食べる気満々ですよ……。ギルマスもどうしても志願者がいないようなら食べるかって言ってました」

「『魔物図鑑』に載せるためとはいえ、新種の魔物の肉を本当に食べるつもりなんだねぇ。あたいは遠慮するよ」

「リーダーとゲイルは食べる気満々だったわ。あの二人、食レポできるのかしら? それにゲイルのランクポイントも、いい依頼がなくて上げる見込みないのに、お肉を食べてる場合なのかしら」


 Aランク冒険者の私たち三人は楽しいおしゃべりをしながら広場への道を歩くも、後ろを歩く崖っぷちCランクの三人は無言だ。

 こちらの三人は広場が見えてきたあたりで、もう諦めただろうと下ろし自分で歩いてもらっていた。いい香りが流れてきたので、きっとこのまま広場まで足を運ぶことだろう。

 彼女たちは言葉を紡がないけど、お腹が満たされたら何か話したくなるかもしれない。それまで待つことにした。


「そうだ。ほら、三人とも、明日は私も休みだから、四人で魔物狩りにでも行こう!一緒に戦いたいって前に言ってたじゃない!」


 この言葉にのそのそ歩いていた三人の足は少し速くなった。

 ちょっとは気分を取り戻してくれそうかな。


「ずいぶん遅い到着だね」

「あ、サブマス」


 広場に着いてさっそくサブマスに見つかった。


「ギルドはずっと前に終わったのに何していたんだか」


 サブマスが私たちの後ろを見たようだったけど、イサベラさんの「女の子だけで秘密の話をしていたのよ、男性には教えられないわぁ」との言葉に去っていった。


「イサベラさん、ありがとうございます。さ、食べるよ、三人と……も」


 後ろを振り向いたら、屋台の荷物の陰に縦に顔が三つ並んでいた。

 今朝も見たような……。


「あはは。この、顔が三つ並ぶ魔物っていたね」

「あぁ、三連人面カブカブね。珍しい魔物よね」


『羊の闘志』二人の隣で私は「早くおいでー!」と呼ぶも、彼女たちが「歩きミニカブカブを討伐失敗しないと拝めないから」と雑談しているせいで、出てきた三人はどこか明後日の方向を見ながら歩いてくる。

 イサベラさんの言う三連人面カブカブは、歩きミニカブカブを討伐し損ねると低確率で強力な状態に進化する魔物だ。

 歩きミニカブカブは集団で生活するため、冒険者などとの戦いで周りの仲間が息絶える中、生き残った個体は恨みを糧に生存を試みるも集団から単体になっては生き残りは難しく、その苦難を乗り越えた歩きミニカブカブだけが進化できる。そしてその恨みの相手を執拗に追跡する。――とか何とか『魔物図鑑』に書いてあるのだ。


「もしかして、今頃コトちゃんたちを恨みながら探していたりしてね」


 私のからかいに三人は「うわーん、進化したら自分たちだけで倒せなーい!」と騒いだ。


「ごめんごめん、冗談だよ。たいていは他の魔物に食べられたり、別の人が倒してくれていたりするんだから。でも心配なら、帰るときは学園の北側を通ったほうがいいね」


 しかしコトちゃんは「なんだかぞわぞわするっす」と言っていて、私はそれが少し気にかかった。

 だけどそこに――、


「アンタら、まだヘビ丼もらってなかったのかい。こっち来な!」


 屋台の女性に呼ばれたので、私は三人の背を押しながら小走りに近寄っていく。

 三人はお腹の音を鳴らしながら嬉しそうにもらい、お代を出そうとすると、その女性は「いらないよ」と受け取らなかった。


「ギルドのサブマスターが、学園生の分は立て替えたんだよ」


 三人がびっくりしていたらサブマスはまだ近くにいて、こちらを見ていた。


「昨夜はがんばったからね。たくさん食べて明日からがんばりなさい」


 その顔と声は優しかった。


「「「……はいっ、ありがとうございますっ!」」」


 丼を持って三人は礼を言った。その三人に私は声をかける。


「ね、サブマス優しいでしょ?」

「シャルちゃんたち大人はちゃんと払うんだよ」


 サブマスはちょっと気恥ずかしかったのかな。今度こそ通り過ぎて人ごみに紛れた。


「さ、どこで食べようか……ってコトちゃんたちー、どこ行くのー?」


 一緒に来た『羊の闘志』の二人は他の人たちに呼ばれて、もう私たちとは離れていた。

 空いているテーブルを探すのに一瞬目を離したら、三人は人気の少ない道路へ向かっていた。


「ボクたちひっそり食べるんで気にしないでくださいっす」


 まだ通常の元気を取り戻していない三人は、喧騒から離れたいようだ。

 私はもちろん心配なのでそれについていく。


(ん? 誰かいる)


 静かな場所はすでに誰かに取られていたようだ。

 外に設置された長椅子に二人座っている。

 誰かな、と少し気になったので『探索』スキルを使ってみた。知っている人ならばその場所に名前が表示されるのだけど……。


「あー……コトちゃんたち、一旦戻ろう」

「いえ……あの人たちより奥に行くっす」

「いやいやいや……」


 その人たちはネプト夫婦――メロディーさんとアルゴーさんなのだ。


「二人で大事な話をしているのかもしれないし、一旦戻ろうね? んね?」


 私は三人の前へ、小走りで通せんぼした。

『探索』スキルでは二人が何をしているかなんてまったくわからないけど、その二人のあいだの距離が近いのだ。

 夫婦がこんな人気のないところで、普通に食事をしているかもしれないけど、そうじゃないかもしれない。

 そうじゃないほうが危ない。三人の目に毒だったら大変だ。その二人はやや遠いとはいえ、こっちに気づいてないのもますます危険だ。

 あ、男性のほうが女性の膝に寝転んだような動作をしたなー。目の錯覚かもしれないけど、わざわざ確認する必要なんてないなぁー。


「はいはいっ、戻ろう戻ろう」

「「「…………」」」


 三人もうっかり見えてしまったのか、お腹の音を鳴らしながら元来た道を戻ってくれた。

 そんなにお腹が空いたのなら、さっきの屋台の真ん前でもいいから食べさせればよかった。

 結局元の喧噪に近づくことになったけど、その前に近くのテーブルから呼びかけられた。


「君たち~、席を探しているのかい? ここのテーブル空くからどうぞ」

「すみません、いいんですか? ほら、三人ともここで食べよう! ……ってあれ、いつぞやの反もの屋さん?」

「ん……あぁ、一緒に拾ってくれたお嬢さん!」


 席を譲ってくれたのは、ブゥモー伯爵子息が町から逃げるときに巻き込まれた反もの商人さんだった。


「あのとき冒険者たちが大変ご迷惑をおかけしました」

「いやー、あのあと馬車も返ってきたし、ついでに前から壊れたところも直してくれたから結果的によかったよ。それに暴漢たちが王都に送られたのも見れたからね」


 それから安心して商売ができたという商人さんに、彼女たちを紹介する。


「学園生の『キラキラ・ストロゥベル・リボン』の三人です。あのとき購入した反もので作ったポンチョを装備して、昨夜戦ってくれたんです。大活躍だったようですよ」


 ね? と三人に振る。


「反もの……このポンチョってこちらの商人さんから買った物だったっすか? ――これ着たら、力がわいてきた感じがしたっす!」

「しっかりした布地やのに軽うて、戦いやすかったです!」

「いつもより強い攻撃ができたのは、これのおかげだったんですね!」


 三人はギルドから帰ってきたままの姿だったので、ポンチョもそのまま着てこの広場に来ていた。


「ありがとう。そのポンチョ、まさしくうちの生地を使っているようだね。けどね、活躍したのは君たちの実力によるものだよ。それから、素敵なデザインを考えて作ってくれた人たちも。冒険者に大好評なのは嬉しいがね」


 この町での売れ行きも好調らしく、商人さんはウキウキした様子で去っていった。

 この反ものは魔力・知力・集中・耐久・精神が上がるから、昨夜のスタンピードでの活躍に一役買ってくれたようだ。たぶん、サブマスを障壁で攻撃してしまったのは、このポンチョを着ていたことで魔力と知力が上がり、いきおい余ったのかもしれない。


「アーリズに滞在する学園生は優秀な生徒が多いと聞いたことがあるよ。そのとおりだった」


 そう称賛する商人さんに、『キラキラ・ストロゥベル・リボン』の三人は自信を取り戻しつつあるようだった。


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