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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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238: 『魔物図鑑』会議⑤ ~画家さん~


「ボクたち……邪魔っすよね……」


 サブマスのお説教が一瞬途切れたとき、ちょうどぼそっと声が聞こえたので私は振り返った。

 さっきまでテーブルの下で座っていた三人が、私たちの後ろを通りギルドを出ていくところだった。

 いつもの明るい様子はまったく感じられず、どんよりと背中を丸めてギルドを去る。


「ちょっ……コトちゃ」

「シャルちゃん、例の画家の方が来たんじゃないかい。対応して」


 三人を呼び止めようとするも、タイミング悪く来客がいらっしゃった。


「サブマス、あんなに落ち込んでるじゃないですか! ――あ、どうぞこちらですー!」


 サブマスに怒りつつ、それでも大事な来客の対応を怠らなかった。

 新種の魔物を『魔物図鑑』に載せるために最重要なお客様だからだ。


「本日はお声がけいただきありがとうございます、マスタといいます。……ほぉ、冒険者ギルドに来たのは初めてですけど、広いんですね。――あれ、あなたは先日肖像画を頼まれた奥様では?」


 こちらの画家さん――マスタさんはメロディーさんと会うのは初めてではない。


「はい、そうですわ。私の肖像画が入ったペンダントを夫がとても喜んでいるという話をしましたら、魔物の絵もお願いできるのではというお話になりましたの」


 こちらの画家さんに話を持ちかけたのは、「あのメロディーの旦那が、嫁の肖像画を気に入ったならかなりうまいに違いない」と元々話題になっていて、作品集も拝見しペットの肖像画があったので魔物もお願いできるだろうと依頼したようだ。

 私が『鑑定』スキルでさっと確認しただけでも、『デッサン力』『早描き』『色彩感覚』などがあり、かなり期待している。


「どうぞこちらです」


 冒険者ではまず見ないスキルで面白いなぁと思いつつ倉庫内へ案内する。

 でも画家さんが鼻を手で押さえたのが気になった。


「あ、もしかして臭いますか? 新種の魔物は低い気温で保管するためにここ解体倉庫に置いているんですけど……」

「いえ、私は魔物を討伐してすぐの場所でも描いたこともあるので大丈夫ですよ。外と空気が違って驚いただけです」


 今、魔物を捌いているのだから血の臭いがするに決まっているけど、気づかなかった。

 私ったら冒険者ギルドで働いているから、すっかり慣れてしまっていたのだな。


「おう、今日はよろしくな、ギルドマスターのアトラス・アレクトスだ。こっちが『魔物図鑑』に詳しいフェリオ・ピクス」

「よろしく。さっそくだけど、この図鑑に載っているように全体像を正面と横から描いてほしい。それから……」


 フェリオさんが『魔物図鑑』を開き、どういった絵にしてもらいたいか説明する。


「あれ? 本体の顔に布をかぶせているんですね。取ってもらえます?」


 説明を聞いて、新種の死骸を見上げた画家さんから要望が出た。

 復活後の本体は、私の障壁の角で強打されたことで顔がつぶれている。だから一般人であるこの方を驚かせないよう布をかぶせていた。冒険者ではない人は見慣れてないだろうから配慮していた。


「顔面がつぶれていてグロいんですけど、本当に布取って大丈夫ですか?」

「ご配慮はありがたいですが、自分は先ほどお伝えしたとおり経験があります。多少の免疫はあるつもりです。それよりも、本体の体と頭の結合部分をちゃんと確認して描く方がしっかり描けそうです。首から上はもちろんペリドット付きの頭部分を参考にしますので」


 そういうことならと、フェリオさんが羽を動かして高い位置の布を取りに行った。

 それを確認し、言ったとおり特に顔をしかめることなく準備を始めた。


「もし上部をよくご覧になりたい場合は、遠慮なく言ってくださいね。障壁に乗っていただいて持ち上げます。詳しく確認することができますので……って、高所が大丈夫ならですけど」


 私がこちらの画家さんの対応をする理由がこれだ。

 新種の魔物の身長は一本の樹のように高い。高い位置を確認するときに、床に作った障壁に乗ってもらえば好きな位置で描いてもらえる。


「高いところは大丈夫です……、じゃあもしかして、あなたが有名な『壁張り職人』さんですか!?」

「はい……。え、ゆ、有名……?」

「お顔を知らなかったんですけど、あなたが!」


 今朝の領主様もそうだけど、まったく違う業種の人にまで私の通り名が浸透していたとは……。

 それはともかく画家さんは私の様子に特に気にすることなく楽しそうに、そして手の動きは速く、どんどん描いていく。時にペリドット付き頭部に近づき、時に横へ移動した。

 胸の筋肉部分を細かく見たいという要望に、障壁を床に敷き、落下防止に横も張って上に移動させたら興奮した様子だった。

 たまに質問もされた。


「復活スキル持ちの魔物だったんですよね、どういう流れで復活するんですか?」


 私はあのグチョグチョ音のことも含めて、見たことをそのまま伝えた。

 そんな雑談をしているときでも手は止まらなかった。

 そういった会話も、集中してきたらまったくすることなく、静かな時が訪れた。

 だから私たちも静かに自分たちの作業をして、画家さんが一区切りつくところまで待っていた。




「本日はとてもいい経験をくださってありがとうございました。明日もよろしくお願いします」

 マスタさんは私たちが思う以上に早く描き、明日中に完成できるだろうとのことだった。

 ギルドの出口にて私とフェリオさんはお見送りをした。


「とってもいい絵だ。きっと『魔物図鑑』で目を引くページになる」


 フェリオさんは仕事ぶりに感動していた。

 現在倉庫に残っているギルマスも、生き生きとした絵に興奮していた。


「明日はギルド自体休みなんですけど、ギルマスが対応しますので普通にいらしてくださいませ。そういえば、普段は肖像画を描いてらっしゃるんですよね?」


 この世界に写真はないから、今回の『魔物図鑑』のように肖像画が写真の代わりとなる。

 メロディーさんの旦那さんのように、いつも身に着けていられるアクセサリーに入れる肖像画もあれば、思い出を残しておくために描いてもらうこともあるのだ。


「いつ頃あいてますか?」


 私は希望の日時とともに描いてほしい人数や枚数を具体的に話して、その場合の値段を伺う。


「今考えたことなので、本人たちにも相談しないといけないんですけど……」


 たぶん本人たちものってくれるのではないかと考えながら、マスタさんを見送った。


大変勝手ながらゲスト出演としてご登場させていただきました!

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