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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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236/246

236: 『魔物図鑑』会議③ ~口止めにがんばる~


 称号欄のことで考え込んでいて、私は皆さんの輪からすっかり離れていた。

 そこにフェリオさんが近づいてきた。


「シャーロットは名前決めに参加しないの」

「私がですか……? 私は一回目も復活後もとどめを刺したわけではないですし、今回私の障壁は討伐に貢献できなかったので、名前決めはご遠慮します。倒した皆さんの特権ですし。というか、私って何のために呼ばれたんでしょう。書記でもしたほうがいいでしょうか?」

「とどめ……本当に刺してない?」

「え……」


 フェリオさんが私のことをじぃっと見ている。どこかで似たようなことがあったような……。

 あ、フェリオさんのお家で『魔物図鑑』をギルドに運ぶとき、――フェリオさんから羽の治療でお礼を言われたときだ! つい昨日のことではないか。


「あの新種、シャーロットの障壁の角に頭を打ちつけたんでしょ。かなりの致命傷に値するって、タチアナも正気のときに言っていたけど」

「…………そ、そんな、まさかぁ」

「だからシャーロットも名付け会議に呼んだ」


 私がこの場に呼ばれたのはフェリオさんの推薦があったからだったか……。


「わ、私は討伐にさほど貢献してないです。あちらの皆さんにも説明しましたが、障壁の角でぶつけたとき、私は真正面で見ていたんですけど、まだ動いてましたよ!」

「痙攣していたのでは」

「いや、そういう動きではなくてですね……」


 正直あのときの詳細は記憶があいまいだし、なによりど真ん前に顔――というか壊れたペリドットがあって、首から下は視覚に入ってなかったから、角にぶつけたときに新種の魔物が生きていたかは正直不明ではあるけど、昨晩同様とどめを刺したのは私ではないと主張する。

 し、しかし……。

 この不明な称号が私一人に付いているということは、まさか……?

 いや、いやいやいや。よそう。私はやってない!

 やってないということで通すと決めたはずだ。

 ――それよりも! 昨日のことについて思い出したのだから、今やるべきことがある!

 皆が話し合いに夢中になって私たちのことを誰も見ていないあいだに、フェリオさんとお話だ。


「ちょっとっ、そんなことよりフェリオさん! こちらに来てください。失礼しまーす!」


 フェリオさんの腕を掴み、衝立の陰に向かう。飛んでいるせいかルシェフさんのときよりずっと簡単に誘導できた。

 そこは倉庫の端の備品置き場になっている。


「――フェリオさん! うっかりとはいえ、新種の魔物のペリドットを破壊して、すみませんでしたー! それから私、魔物を二匹ほど城内に入れてしまいました。しかし、しかしお願いです。どうか、『あのお約束』を守っていただけませんか? このお金を受け取っていただき、このまま黙ってもらえないでしょうか!?」

「……その約束って例のシャーロットの治癒魔法のこと? …………うわー」


 私はフェリオさんの前で土下座をした。

 彼になんとか例の件について黙っていてもらいたいと、今朝騎士団長からいただいた謝礼まで差し出した。

 なのに、彼はどん引きしている。


「いらない。あのペリドット、一つは無事だし、そもそもあの魔物の不運で転んだって聞いた。それに城内に入ったっていう大蛇はすぐ倒されたし、さっき見た魔族の冒険者が熊を狩ったのも知ってる。城壁は無事。シャーロットのことは黙ってる。――本当いらない。今、この状況も忘れる」

「フェリオさん待っ……」

「いらない」


 フェリオさんがふわりと浮いた。


「おーい、シャーロット、フェリオー?」


 そこにギルマスから声がかかる。


「ぼくもシャーロットもここ」


 フェリオさんは羽をパタパタとはためかせて、さっさと会議が盛り上がっているほうへ飛んでいった。

 私は仕方なく出した報酬を収納魔法でしまい、盛り上がっている輪へと近づく。


「やっぱりカッコイイ名前で! ゲイルビッグペリドットゴリラにしようぜ」

 ゲイルさんはまだ輪の中心にいて、こだわりを語っている。


「さっきと言ってる魔物名と違ぇだろ」

 バルカンさんは呆れていた。


「いいかいゲイル。冒険者はあたいも含めて物覚えがいい奴ばかりじゃないのさ。その名前じゃいつか略されて『ゲイル』って呼ばれるよ」

 マルタさんは、諭すように言う。


「ほっほ。そうなればこの魔物を退治するときには、『ゲイルぶっ殺す』とか言われるのぅ」

 ブルターさんは、愉快愉快と自身のひげを撫でた。


「あなたはともかく、全世界のゲイルさんがかわいそうだわ」

 イサベラさんも楽しそうだ。


「もう『ペリドットゴリラ』とかわかりやすい名前でいい」

 キー=イさんは何だか疲れた様子だ。


 確かに植物や魚の名前に個人名が入れられていることはあっても、魔物の名前には個人名が入ることはあまりなかったように記憶している。

 こういう――『ゲイル倒す!』などのような状況にならないよう昔の人も気をつけたのかもね。


「……『ラピスラズリウルフ』や『インペリアルトパーズジャガー』あたりを参考にすれば?」

「うわっフェリオ~。真後ろから話しかけないでくれよー」


 フェリオさんが『魔物図鑑』を持って、ゲイルさんの真後ろで飛んでいた。


「ほら、これ見て、他の魔物の名前を参考にしたら」


 フェリオさんがラピスラズリウルフやインペリアルトパーズジャガーのページを開き皆に見せている。

 私も近くのテーブルにあった『魔物図鑑』を手に取ってページをペラペラめくった。

 名前決めに役立つだろうと、数冊用意してあった物だ。

 その中の一ページに新種の魔物と同じく霊長類系の魔物を見た。


「……あれ、この魔物、「タマリン」に顔がそっくりですね。タマリンが大きくなった姿みたい」


 あれだけ騒がしかった皆さんが興味深げに私の近くに集まり、開いた『魔物図鑑』を覗き込む。


「おぉ、そういやぁタマリンなんて魔物いたな」

 バルカンさんが図鑑のタマリンのページと、展示されている新種の魔物を見比べた。


「あ……私、余計なことを……」


 せっかく楽しそうに決めていたところに、水を差したのではないかと私は焦った。

 でも周囲は「けっこうアリ」と言ったり「動きもタマリンに似ていた」と興味を示したりした。

 タマリンは一年中暖かい森林や、そういった環境に近いダンジョンに生息する魔物で、この町周辺では見ない。大きさも新種の魔物と比べてずっと小さく、普通の猿と同じくらいだ。

 誰かが言ったように図鑑内のタマリンのページには、新種の魔物と似たような動きが記されていた。


「まぁ、今日はそのへんにして、また書類提出の日に集まって決めようや」

 いったん時間を置こうとのことで、ギルマスが後日集合する日時を決めた。


「ああ、そうだ、知ってる奴も多いだろうが、騎士団側ではファンタズゲシュトル亜種の『魔物図鑑』会議しているから、昨夜のオバケのことで気になる点がある奴はそっちにも顔出してくれってよ」


 昨夜のファンタズゲシュトル亜種は騎士団が多く倒していたので、冒険者ギルドでは新種の魔物、騎士団ではオバケ亜種の『魔物図鑑』会議をしている。

 騎士団でもファンタズゲシュトル亜種の名前を決めているだろう。

 今日の午前中に『キラキラ・ストロゥベル・リボン』が騎士団に呼ばれていると言っていたのもその件だろう。


「俺はビッググリゴリペリドットを押すからな!」


 ゲイルさんが最後に叫んだけど、皆にスルーされていた。

 バルカンさんが「どうせ鐘が鳴る前に忘れる」とポツリと言ったからだ。


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