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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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234/246

234: 『魔物図鑑』会議① ~不要なんですけど~


 結局、私はゲンチーナさんに「魅了にかかってないか」調べられている。


「“うおおおおお!!!”」


 私が拒否をしても、何も問題ないなら検査を受けるくらいできるはずとサブマスに睨まれたからだ。

 ゲンチーナさんの昨晩より気合の入った呪文を聞きながら、『羊の闘志』の皆さんも私の近くを囲む。

 もし本当に魅了にかかっているのならば治療院に連れていかねばならず、その際私が暴れても連れていけるようにとサブマスが『羊の闘志』たちを指名したのだ。


「魅了には、かかってねぇと思うがなぁ……。シャーロットだって奇行に走りてぇ日もあるだろ。それに魅了ってぇのは、もっと目がとろんとするはずだ」


 バルカンさんは私のあの行動が魅了にかかっているせいではないとわかっているので、なんとかフォローをしつつ(奇行云々は余計ではと思うけど)見守ってくれている。


「いいかい、『魅了』というのは相手が自分に好意を持たせるようにする状態異常だよ。シャルちゃんの行動はすべて怪しいから調べてもらっているんだよ」


 とにかく結果がすぐ出るようだからそれまで待ちなさい、と言ってきかないサブマスは腕を組んで立っている。


「“おぉぉぉぉ……”。終わりました。受付さんは魅了にかかっていませんね。他の状態異常にもかかっている様子はありません」


 魅了にかかってないとなぜわかるのか。ゲンチーナさんいわく――、


「治癒魔法使いによっても違いますが、私の場合は魔法を使った際、相手から反発する感覚があるかないか、ある場合どういった感覚かでわかります。その点受付さん――シャーロットさんは、反発することがまったくないばかりか、さほど疲れも感じてないのでは? 実に健康体です。さすが十代、お若い!」


 褒められちゃった。


「もちろん私の診断でご不満でしたら、別の者を紹介します。ただ自分で言ってはなんですが、私は状態異常の治療は得意なほうでして」

「長年治療院で働いている方はすごいですね! 判別が早いです。……そういう『状態異常がすぐわかる』スキルをお持ちなんですよ、きっと!」


 もちろん「きっと」ではない。私はゲンチーナさんを『鑑定』で見て知っている。

 彼女は『状態異常検査』スキルをお持ちなのだ。

 たぶん状態異常がわかるだけの『鑑定』スキルの下位互換的なスキルだろう。

 彼女にそのスキルを意識させて技術を向上してもらって、例の治癒魔法使い、つまり私への興味をなんとかして失ってもらいたいものだ。


「シャーロットさん……、そうだと嬉しいですけど……」

「そのスキルがあれば、姿を現さない治癒魔法使いなんて必要ないですよ!」

「それは関係ありません!」

「うっ……」


 今はまだ無理そうだ……。


「さて、やっと未来が開けた感じなのでこれからもがんばらなくては! そうそう今日も『恐怖』状態の患者を診に……って、そうでしたー!」

「な、何ですか!? ゲンチーナさん」


 突然思い出したように叫んだゲンチーナさんに、私とその近くにいた皆で注目する。


「そうです、今日来たのは昨晩『恐怖』状態に罹患されたタチアナさんを診に来たためです! 彼女はどちらに?」


 するとサブマスがようやく腕組みをとく。


「タチアナちゃんは新種の魔物の前にいるよ。――そうだ、その件で『羊の闘志』たちを呼びに来たんだよ。君も一緒に来なさい。あぁ、シャルちゃんも」


 そうだ、『羊の闘志』さんたち六人がギルドで待っていたのは別にルシェフさんと話すことが主目的ではなかった。

 彼らは新種の魔物の今後のことで会議に出るため待っていたのだ。

 その会議は『羊の闘志』たち以外にも、最後に討伐した二パーティーや昨晩かかわった関係者に参加してもらうため、サブマスはその者たちにも声をかけ、皆で解体倉庫へと向かう。

 ちなみにその道すがらサブマスは、ゲンチーナさんに検査費を渡し、私が「診てもらったのは私なので払います」と申し出るも「僕が頼んだからね」と固辞された。




「ひょひょひょひょ……。新種……、新種よ~」


 倉庫では一画を特別仕様にしていて、そこに倒された新種の魔物が置かれていた。

 そのド真ん前に「ひょひょひょ」と笑う山の形をした毛布があった。

 いやこれは……。


「うぉっ、笑い声が昨日のファンタズゲシュトル亜種じゃねぇか、タチアナ!」


 バルカンさんが驚くと、山型の毛布も「ギャー! オバケがなんですって~!?」と震え出した。


「やっぱり……ぶり返しているようです。“うおおおおお!”」


 毛布をかぶっていたのはタチアナさんで、そこにゲンチーナさんが気合を入れた呪文で治癒魔法をかける。

 私はその治療の邪魔にならない位置まで駆け寄る。


「タチアナさん、昨日は城壁で閉じ込めっぱなしにしてすみませんでした!!」

「そ、そうよ、シャーロット! よくもウチを閉じ込めたわね!」


 私はタチアナさんに謝っていた。

 しかしそこでサブマスが、私の擁護をするように前に出た。


「やめなさい、タチアナちゃん。シャルちゃんが謝る必要はないよ。ファンタズゲシュトルの亜種が接近してタチアナちゃんが城壁から飛び降りる勢いだったところを、シャルちゃんが障壁で止めてくれたと聞いたからね」

「サブマスー! アンタは昨夜の見てないからそう言えるのよ! ウチは新種を見たかっただけなのに、シャーロットのせいでオバケが寄ってきたのよ!」

「タチアナちゃん、今回の戦闘では冒険者や騎士以外は全員避難するように言われていたことを忘れたのかい? それでもせっかく見に来たってことで騎士の皆も、短い時間でも快く見せてあげたっていうのに、君が戦場で騒ぐから統制が取りにくくなったんじゃないのかい?」


 タチアナさんの抗議に、サブマスが叱責で返す。

 いや、この流れは……。


「今ここにいるのはシャルちゃんのおかげであることをわかっているのかい? 本来であれば勝手に戦場に来たということで、大怪我しても最悪死んでも自己責任になるんだからね! それなのに、障壁で囲われて、怒るなんて筋違いだと思わないのかい。そもそも僕は昨日の昼くらいに三回くらいファンタズゲシュトルが来ると言っていたけど、君はまったく聞く耳…………」


 やっぱりサブマスのお説教時間になっていく。

 ギルマスはギルマスで集まった冒険者たちを見回す。


「向こうは気にするな。こっちはこっちで会議だ。――これから新種の魔物を『魔物図鑑』に載せる手順や、町でのお披露目について説明するぞ!」


 新種の魔物の死骸前で始まった治療と説教にはかまわず話を進めた。

 そうだ。新種の魔物に関わった冒険者はこれから“新種の魔物を『魔物図鑑』に載せるための会議”を始めるのだ。


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