227: 嬉しくないお誘い⑤ ~差出人は~
大変長らくお待たせしました。
そして、おかげ様で『転生した受付嬢のギルド日誌』コミック5巻が発売されました!
な、なんですって?
「いたっ! え……、西、のへんきょぅ……??」
椅子に腰かける途中で、王子は何を言い出すのだろうか?
ひじ掛けどころかテーブルにも手がぶつかったではないか。
「西辺境領……だと?」
「あそこは……、――殿下、なぜ突然そのようなことを……?」
私が痛みで手を振っていると、ギルマスとサブマスが王子を訝し気に見る。なんだか不穏な空気になったような……。
「シャーロット、西辺境領ではアンタの助けが必要だ。だから連れていくことになった」
席に着くなりバンダナを外していた王子は、二人の視線を気にせず続ける。
「連れていくって言われましても……。えーっと、西辺境領で、なぜ私の助けが必要なのでしょう……? そこで何か起こってましたっけ?」
うーんと、西辺境領についてはたまにギルドの掲示板に情報が載っていたっけ。確かその内容は……。
「シャーロット、西の辺境領――サジタリアーズの町は、日々帝国と睨み合っている場所なんだ。――カイト王子、そのような場所に我がギルドの職員を向かわせるのは断固反対です」
そうだそうだ。ギルマスの言うとおりピリピリしている国境なんて恐ろし……って、それって……。
「これから戦争が起こる可能性が高いという情報が入った。そこでアンタの力が必要なんだとよ」
は、はいいい??
「カイト王子、待ってください! そ、そんな危ないところに行けってことですか!? 私――いやです」
それって帝国と目と鼻の先に行けってことではないか。今さっき、帝国とは関わらないでおこうと決心していたところなのに!
しかも戦争に入るって……。
「イヤです、じゃねー。いいか、これは頼んでいるんじゃない。命令だ。アンタに拒否権はな……」
「いいえ、嫌です! 絶対、ぜーったいお断わりです!!!」
王子は当然引き下がらなかった。
でも私だって引かない!
私は席から立ちあがった。
「だーかーら、……うっ、……ぐぅっ――!!」
王子ももちろんそんなことでは引き下がらない様子だったけど、突然頭を抱えて痛がりだした。
「え、……あの、カイト王子……大丈夫ですか?」
私は驚いて彼に近づいた。
もしかして昨夜の戦闘で、ケガでもしていたのだろうか。
でも、『鑑定』ではそのような表記はないようだ。
そういえば以前も頭を痛がったことがあったけど、何か重大な病気が隠れているのだろうか。……そういう表記もないなぁ。
かといって汗もにじみ出ているようだから仮病とは考えにくい。それに、彼がそんな弱みを見せるようなことを演技だとしてもするだろうか。
「ふっ。奴の頭痛は気にするな。呪いのようなものだ」
魔王様が涼しい顔をして鼻で笑い、王子に近寄ろうとしていた私をその場にとどまらせる。
「ルシェフ殿……! ……くっ、……それより今回の召集の件は我が国というより、別の方からの要請だ。アンタ、例の手紙まだ読んでねーんだろ。さっさと読め」
一過性のものだったのだろうか、王子はすぐに頭から手を離した。
というか、「呪い」って……そんなことは『鑑定』にはないし。まさか魔王様のジョークなのだろうか。
というか例の手紙って……
「え、……これですか?」
なぜかまだ悔しそうな表情のカイト王子が指差す先には、お茶を出すとき私のポケットに軽く差し込んでいた真っ黒な手紙があった。
「なっ、シャーロット。そ、その手紙は……!」
「シャ、シャルちゃん、なぜ……。本当に君宛てなのかい?」
ギルマスもサブマスも、さっきのフェリオさんやニセ魔王さんたちと同じような反応をした。
「あの、こちらの黒い手紙って、そんなに有名な方からのお手紙なんですか? 差出人名がなくって私わからないんですけど……」
「ゆ、有名な方って……し、知らんのかシャーロット」
「差出人名は基本お書きにならないんだよ。……魔国の王――魔王様からの手紙だからね。黒い紙なんて見たことないだろう? 魔王様が使用する分しか作られない希少な紙らしいよ」
へー、…………。
え。
「え、えぇぇっ! ま、魔王様からの手紙……!?」
私はばっと斜め前にいらっしゃる方をうっかり見てしまった。
その方は薄く笑みを浮かべて、何だか楽しそうに私を見ていた……。
いけない。これでは私が、ルシェフさんのことを『魔王様』だと知っている――と伝えているようなものではないか。
私がルシェフさんの正体を知っていることは、まだ伝えてないのに……。いや、もしかして前からバレていたり……して?
「そ、それじゃ、今まで開封してなかったなんて私、とんだ失礼を……! で、では今すぐ拝見いたしますね……」
私はごまかすようにすぐ手紙に向きなおり、丁寧に開ける。
なんて書いてあるのだろう。
その文面は私なんぞにもったいないような丁寧なあいさつから始まっていたけれど、内容は読み間違えなんてしようがないほど簡潔だった。
「えーと……、初秋に始まるエーリィシ帝国とフォレスター王国の国境沿いの戦闘に参加することを要請する。準備をしておくように――とのことです。……って、そ、そんな……」
しかも、続く文には――治癒魔法での尽力を大いに期待する――と書いてあるのだ。
「シ、シャーロット、魔王と面識があったのか……?」
ギルマスは困惑したまま私に聞いた。
「ま、魔王様と面識、ですか?? い、いえっ、まさか!!」
ルシェフさんが魔王様なのだから面識があるといえば確かにあるけど、そのままを言えるわけはないので大きく否定した。
だけど、それがいけなかった。
「――あっ!」
手を横に振ったせいで、近くにあった飲み物を吹っ飛ばしてしまったのだ。
コップがテーブルに落ちる……!
――と思われたそれは、途中で止まった。
く、空中で止まっている。
それに下から風が吹いているような……。
「シャーロットを推薦したのは、俺だ」
ルシェフさんがギルマスへ返答するのを耳で聞いていたけど、コップの状況から目を離せなかった。
お知らせが遅くなり申し訳ございませんが、『転生した受付嬢のギルド日誌』コミック5巻が4月5日に発売されました!
↓に表紙の画像があります。ぜひご参考くださいませ。
皆様のおかげです。誠にありがとうございます。




