221: 実は関連のあった三人⑪ ~見てない知らない会ってない~
でもその音は、誰にも気にされなかった。
カイト王子が自身の大容量収納鞄から鞄と布を出したからだ。
「なるほど。それから、リーダーのアンタはこれ――、見覚えあるか?」
「……あ、ボクがあのとき拾った鞄っす。持ち手の傷も同じところについていた気がするっす。その布は……、漬物石をくるんでいた布に似てるっす。でもあのとき暗かったし、よく見てないから、絶対とは言えないっす……。てか、なんでおじ……お兄さんが持ってるっすか?」
コトちゃんの疑問に、カイト王子はさらに笑みを深めた。
「そうかそうか。……オレがなぜ持っているか、それはな――この持ち主と一緒にいた漬物屋たちが、ブゥモー伯爵と関わりがあるからだ」
「えっ! ブゥモー伯爵……って、さっき馬車で連れていかれた人たちと関係あるってことっすか!?」
「そんなところだ。王太子殿下を恐れ多くも害そうとした伯爵家の連中と、漬物屋たちも関係があるということがわかっている」
三人がぎょっとした。
もちろん私も驚いた。ここでブゥモー伯爵の名前が出てくるなんて。
「え、じゃあっ、そ、その鞄の持ち主……イライラおじさんも、連れていかれたってことっすか?」
「そこまで教える気はない」
カイト王子の突き放した返答に三人は押し黙る。重大なことを聞いてしまったことによる緊張感が伝わった。
「まぁそんなワケで、これはお願いというより忠告だけどな? 悪いこと言わねーから件の漬物屋たちと会ったこと話したことは、忘れろ。『実習では特に何事もなく終わった』――学園の先生に報告したように、これから先もそれで通せ。いいな? 今後一切、誰にも――お友達にも学園にも、アンタらの親、仲間内でも話題にしないほうが身のためだぜ? ブゥモー伯爵家の残党だって、まだそのへんにいないとも限らないからな」
王子が「不必要に危険な目に遭いたくねーよな?」と含みを持たせると、三人はよく聞こえるコソコソ話を始めた。
(この人、王都から来たんだったよね? あの事件に関係あるから話を聞きたかったってこと??)
(シャーロットさんは、国の安全を守る人だとも言っとったね……)
(冒険者ランクが高い人は、お偉い方に直接依頼を受けることもあるって聞いたことがあるわ……)
「えっ、じゃあ、もしかしてすごい貴族の人から依頼されて、アーリズに来たってこと!?」
(コト、声おっきい! ……貴族やのうて、王族から……かもしれへん?)
(聞いても教えてくれなさそうね……。でも、すごいところからの依頼に違いないわっ)
彼女たちは事の大きさに、だんだんと声も目も大きくした。
私は私で、カイト王子に睨まれていることにふと気づく。
私は彼の伝えたいことにピンときて、「わかってますよ」と視線を送る。
カイト王子は『召喚石』については隠し、『王太子暗殺未遂事件』にすり替えて話しているのだ。私はそれを止める気はない。
彼女たち三人にわざわざ危険な石のことを伝える必要がないなら、それが一番いい。
知らないほうが、今後の彼女たちのためだ。
「――で? どうかな~?」
カイト王子が腹立たしいくらいに爽やかな笑顔で問うと、三人はお互い頷き合い、にこぉっと王子に笑い返した。
「ボ、ボクたち、実習では何も特別なことなかったし、見てないっす~! 冒険者として口は堅くあるべし、って学園で習ったっす! ボクたちちゃんと実践できるっす!! え、えへへ」
「捜し人はおらへんし、むしろ会うてへんから捜されへんです! あ、あはは」
「何も起こってないことは話題に出せないです! う、うふふ」
彼女たちは勝手に王子の『背後』を想像し、余計な反抗はしないことに決めたらしい。
カイト王子はその返答に満足した様子だ。
「そうかそうか~。わかってくれて嬉しいぜ。そうしてくれるなら、オレも学園には言わないでおくからな」
「わ、わぁ~、ありがとうございますっす~……」
コトちゃんたちは冷や汗を浮かべて笑っていた。
「もちろん、うっかり口を滑らせたらあの『牢屋馬車』に乗せて連行するから、そのつもりでいるように」
「「「ひえ~~!!!」」」
カイト王子の脅しで三人は椅子から飛び上がった。
と、そのとき――。
ガラーーン……
鐘が鳴った。
「あ……、あーー! ボクたち騎士団に呼ばれてるんだった!」
「ああ、もう行っていいぞ。話は終わりだ」
カイト王子は追い払うかのように手を振る。
三人はその様子に何か言いたげな表情を見せるも、この部屋から出て行った。
一応ちゃんとクッキーとお茶をいただいたお礼は伝えていた。
私が彼女たちに手を振っていると、王子の軽いため息が漏れる。
「……やれやれ静かになった」
「カイト王子……、いい子たちなんですからあんまり脅しすぎないでいただけると……。ところで、漬物屋さんがブゥモー伯爵の関係者って本当ですか?」
「ちゃっかり残って何を聞くかと思えば。それをオレが答えると?」
「いえ……。では私も、行きますね~……」
やはり答えてはくれそうにない。
この部屋には私とカイト王子だけになり、気まずさから席を立つことにした。
しかし、その前にカイト王子が私ににやりと聞いた。
「いや、答えてもいいがシャーロット、代わりにピンク髪の男が帽子とスカーフを受け取らなかった理由について、アンタの見解を聞かせろよ」
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コミック版『転生した受付嬢のギルド日誌』
chapter60が更新されました!(chapter59は『待つと無料』に!)
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