220: 実は関連のあった三人⑩ ~その人の特徴~
それでもカイト王子は、何事もなかったかのようにコトちゃんたちに質問した。
「……んで、そのイライラした男の帽子とスカーフはどこに置いてきた?」
予想以上にしれっとしている。
まさか、眠り薬を入れたのは部下の人の独断で、王子自身は知らなかったとか?
うーん。でもさっき私の障壁に手をぶつけた人には「余計なことはするな」と注意していた。だから、盛る指示はしていそう……。
こういう場面では、顔に出さない人なのかもしれないね。
「え、置いてきた場所っすか、どうして知りたいっす?」
「おっさん、他人の物を勝手に取ろうとするのは、よくないねん」
「理由を教えてくれないと、おじいさんには教えません」
王子の質問にコトちゃんは純粋に問いかけたけど、ワーシィちゃんとシグナちゃんは、先ほどから彼に笑われていたので対抗するようだ。
王子はまたこめかみに青筋でも立てるのではと思われたけど、今度は余裕で爽やかな笑みを浮かべた。
「ははは。お嬢ちゃんたち……このこと、学園側は知ってんのかな~?」
その目には、何かを発見したかのような鋭さがあった。
「えっ!?!?」
「な、何言うとんねん……」
「学園……が、どどどうかしましたか?」
途端に三人は、慌てた。
口に紅茶やクッキーが入っていたら、吹き出すところだっただろうけど、三人のお皿とカップはもう空っぽになっていた。
「やー、実は学園のほうにも、件の馬車の目撃情報がなかったか先に問い合わせていたのさ。もちろん、実習中にそういった不審者がいなかったかも聞いた。だが、『何事もなく終了した』と返答があったところに、お嬢ちゃんたちのこの話だ。おかしいな~、と思ってな!」
王子の顔はいまだ爽やかさを保っていたけど、口調は意地の悪さを感じる。
「えっと、えっとぉ、ボクたちは……。っていうか、え、学園に、聞いたっす……!?」
「学園に確認されるのを嫌がっていたときから、引っかかっていたんだよな~。そうだよなー? アーリズ行きがかかっていた実習なら言えねーよな~? 変なキノコを食べて森の南端まで出たと知られたら、アーリズで修業生活を送れるか疑問視されかねないからなー?」
王子は楽しそうにしているけど、反対にコトちゃんたちは固まってしまった。
あれ、ということはつまり――。
「三人とも……、今回のことは先生たちに隠していたんだね……?」
この建物に入るまで三人が渋っていたのは、行動が恥ずかしかったことと、学園に内緒にしていたからなんだね。
「ボ、ボクたち、じ、実習ではちゃんと魔物も倒したし、急いで戻ったから集合時間にも間に合ったっす……。漬物屋さんからはお礼もいただいたから、報告して大事にするのも……ってボクたち、いやっボクが考えて……。だから不正でも失敗でもなくって、えーと……」
「いや、いい」
コトちゃんがおたおたしているのを、カイト王子はすぐ制止する。
「学園に一報を入れるかは、考慮してやってもいい。ま、アンタらの態度によって――、だがな?」
カイト王子は三人の顔をそれぞれ見て、口元に弧を描く。
三人ともその真意がわかったようで、にこぉっと笑った。
「あのあのっ、イライラおじさんの持ち物は道の脇の木にくくりつけたっすよ。あとで取りに来るかもしれないと思って!」
「よぉ覚えてますよ、おにいさん。地図、見してくれます?」
「……あ、この場所です。ここに人が座れる岩があって、その側の木ですよ、おにいさん!」
三人は身を乗り出し気味に指差し、あっさり白状した。さっき「おっさん」「おじいさん」と抵抗していたワーシィちゃんとシグナちゃんは、王子の顔色を窺うことにしたようだ。
もうアーリズに来てしまったのだから、今さら学園に知られても多少怒られるだけで済むのではないか、と私が声をかける暇もなかった。
カイト王子は作戦成功とでも言わんばかりに笑みを広げてから、鋭い目で部下の人に目配せした。
その人は先ほど震わせていたポットをすぐさま置いて、王子に一礼し、部屋を出ていく。
コトちゃんたちの実習日からだいぶ経っているけど、今から現場を確認しに向かうのかもしれない。
「それから――、そのイラつき潔癖男はどんな容姿をしていたか覚えているか?」
続く質問にも、彼女たちは素直に応じた。
「潔癖……あれ、潔癖だったのかなぁ? ボクの拾った鞄のほうが汚れてたような……。――あ、えっと、人族だったっす。商人さんも人族っす」
「そういえば、帽子の形や柄は、あまり見ぃひん物でした。スカーフの柄も……。どこぞの町……他の国の特産品やったのかな?」
「暗くて顔ははっきり覚えてませんけど……、ピンク色の髪だったと思います。魔物を攻撃したときの明かりでちらりと見た記憶ですけど……」
私は、その回答に、飲んでいたカップを少し音を立ててソーサーに置いてしまった。
ピンクの髪の人族……、彼女たちが見た柄の衣料品……。いや、まさか……。




