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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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219/244

219: 実は関連のあった三人⑨ ~ところで私のクッキーと紅茶には~


 私はコトちゃんたちの話を頷きながら聞いていた。

 ニヤニヤ顔のカイト王子を見ながら、カップを持って、王都の紅茶のいい香りを嗅ぐ。

 うんっ、とてもよき香りだ。高級な紅茶の香りしかしない。


「――ほぉ。それで三人揃って、助けた相手の名前も聞かずにそのまま別れたのか。そんな心もとない情報でどうやってその商人を探すっつーんだ。この町は人の出入りが多いんだぜ?」


 鼻で笑う王子に、三人はぐぬぬと悔しそうにしている。

 私は飲もうとしていたカップを口から離し、置く。


「大丈夫大丈夫! そういう状況だったら、考える余裕ないよね。失敗は次に活かしていけばいいからね」

「「「――はいっ。シャーロットさん……!」」」


 三人のお目々がキラキラとしたのを見て、カイト王子は私を何か言いたげに睨む。

 ――いや、それとも……、『別の理由』で私の様子を確認していたのだろうか? ふふふ。


「そうっすよね! お漬物屋さんのことは商人ギルドに聞いて、直接見に行って確認すればいいだけっす。――あ、そういえばお漬物おいしかったよね~」

「ピンク色やら黄色やら、いろいろ盛りだくさんやったね」

「おコメもほしかったけど、空腹だったからお漬物だけでも十分ありがたかったわね」


 三人はもらった漬物の感想を話していた。

 あの召喚石を持ってきていた商人さんは、一応本職は漬物屋さんだったのだろう。

 ただ私が気になったのは、商人さんよりも――。


「ところでシャーロットさん、お腹痛いっすか? クッキーもお茶も減ってないみたいっす……」


 コトちゃんが心配そうにしている。

 そういえば、さっきも私がクッキーを食べようとしていたところを見ていたっけ。


「ううん、体調はまったく問題ないよ」


 体調不良でクッキーを遠慮しているわけではないのだ。

 私の目の前にあるクッキーと彼女たちの食べているクッキーには、“大きく違う点”があるから食べてない。

 あ、そうだ。さっきから王子たちをからかうつもりで、食べようとして食べなかったり、飲もうと口まで持っていくも離したりしていたけど、もっと遊んでみよう。


「クッキーがほしいなら、あげようか……」


 私は自分のお皿のクッキーを、コトちゃんに分けようとした。

 すると――、


「お、おかわりはあるので。どうぞ……!」


 王子の部下が、慌ててコトちゃんに新しいクッキーを追加していた。

 まるで――、私の分のクッキー(・・・・・・・・)は食べてほしくないかのようだ。

 なぜそんなことをするのか。

 それは、――私の前に置いてあるクッキーに、眠り薬が盛られているからだ。もちろん紅茶にも。

 王室御用達と聞いて、お値段を確認するのにウキウキと『鑑定』スキルを使用したものだから、私は本当にがっかりした。

 王子がやけにあっさり私も連れてきたと思ったら、次の手もちゃんと用意していたうえでの同席だったということだ。

 もちろんコトちゃんたち三人の方には入ってないし、眠り薬どころか自白剤みたいなものだって混入されてない。ただの高級なクッキーと紅茶だ。

 当然、私がコトちゃんにあげようとしていたこのクッキーだって、王子の部下が止めなかったら適当な理由を作って、食べさせることはしなかった。

 王子がどんな表情をするか確認したかっただけだ。

 その彼は、自身の部下と違い、涼し気な表情で優雅にお茶を飲んでいる。こういう姿を見ると、彼はやはり王族なのだと納得できる……。

 それにしても、クッキーも紅茶も彼女たちの物と同じのはずなのに、私にだけどうやって盛っているのだろうか?

 紅茶はわかる。私のカップにだけ入れればいい。

 ではクッキーはどうなのだろう?

 眠り薬でべちゃべちゃ、もしくは粉っぽいのだろうか、と触ってみたところ特にそんなことはなかった。

 もとから眠り薬入りのクッキーを作らせているとか?

 う~ん。

 それはそれとして、クッキーも紅茶もこんなにお高いのに私は一口もいただけないのか……。

 すごく、すごく――、悲しい。


(――いや、……待った)


 私には『全状態異常耐性』スキルがあるではないか。

 ならば、この眠り薬も効かないのでは?

 でも効いてしまったら……。

 これから仕事なのに、早起きしたにもかかわらず寝坊で遅刻するという事態に……。

 う~ん、しかし、高級な紅茶とクッキーを逃すというのも……。

 三人ともあんなにおいしそうに食べているのに……。


(そうだ――。まず、一口だけ飲んでみるのはどうだろう?)


 そして、『鑑定』スキルで私の状態をよーく観察して、状態異常に「睡眠」と出てきたら素早く治癒魔法を使えばいい。

 そうすればお茶も楽しめて、お目々もぱっちりとしたままを維持できる。

 どれどれ、では一口。


「ごくり……ん、わぁっ、おいしい!」


 口の中に紅茶の香りが広がっている……!

 これが、王族の皆様もお口に入れている紅茶……!

 特に異様な苦味はない。

 紅茶特有の苦味や渋味はあるけど、それはとても自然的で心地よいものだ。

 眠り薬は無味無臭のものを使っているのだろうか?

 さて、状態異常にはかかっているかな? ……かかってない、大丈夫!


「それじゃクッキーも……。んんっ! こ、これも――、目の覚めるおいしさ!!」


 とりあえず一口かじってみると、パテシさんのお店のクッキーとはまた違った風味と食感だった。

 こちらも薬品的な味や臭いはしない。

 口に広がるのは、一枚一枚お高いだけあるおいしさだ。

 競うように食べている三人の気持ちが、とてもよくわかった。

 さてさて、もう一回『鑑定』スキルで確認しよう。

 ん~……、異常なし!

 もしかしたら遅効性かもしれないから油断せずにいよう。

 でももう少し紅茶とクッキーを楽しんでもいいよね。

 ごくごく…………。

 あ、うっかり全部飲んじゃった!

 カップが空になったことに気づいたのか、王子の部下の人が紅茶のポットを持って近づいてきた。

 私にももう一杯くださるのだろうか?


「おかわりいただいてもいいんですか? ……あの、どうしましたか?」


 でも、その人の様子がおかしい。

 ポットが震えているようなんだけど……。


「ポット、重いんですか? 自分で淹れますけど……」

「い、いえ。お注ぎします……」


 カップからはみ出さないように気をつけて注いでいるけど、小刻みに揺れている。

 入れ終わったその部下の人の顔は……、私を凝視していた。

 それも異様なものを目の前にしているかのような表情だ。

 この状況はどこかで……。

 ――あ、先ほどサブマスに治癒魔法の効果を知られたときと似ている。

 あの、『ヤバそうな人を見る目』だ。

 いや、こちらの部下の人は、あのときのサブマスよりもずっと恐々とした表情をしている。


「あの、どうされ……ん?」


 部下の人が注ぎ終わり一歩離れたことで、肘の向こうのカイト王子を確認できた。

 私はそちらに視線を移すけど、彼にすぐさま視線をそらされたように感じた。

 ……あれ、まさかこのお茶とクッキーには、即効性の、または強力な眠り薬が入っていたのだろうか……?



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