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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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218/242

218: 実は関連のあった三人⑧ ~イライラおじさんとボクたち~


 それでも商人さんはすぐその人に謝ったよ。


「すみません、すぐ車輪を押し出しますから……。――あ、お嬢さんたちすまないんだが手伝ってくれるかい?」


 馬車の車輪が道の溝にはまっちゃったみたい。

 馬車が止まったところに、魔物が寄ってきちゃったんだね。

 ボクたち三人は、商人さんと一緒に車輪を溝から出したよ。

 ちなみにもう一人のおじさんは、さすがに立ち上がって手伝うかと思ったけど、遠くに落ちた大きな塊を拾いに行ったよ。

 何だろう? 重そうだよ。


「……あの、二人だけっすか? 護衛はいないっすか?」

「あぁ……。あんまり大勢で動くのが好きじゃないんだ……。そう……、お金もかけたくなくてね」


 この道は、主要な町に行くには遠回りだから使う商人さんはあまりいないけど、魔物はあまり出てこないし、出ても弱い魔物ばかりだから、馬車で通り抜けることは珍しくないって聞いていたよ。

 護衛を雇いたくないならこの道を使うのもわかるよ。

 それでも普通は少数いるものだけど……。


「……そうっすか。あ、ボクも落ちた荷物拾うっすよ。――これ、漬物に置く石かな。……すごい布にくるまって……」

「それは触っちゃ駄目だ!!」


 ボクは近くにあった大きな石を運ぼうとしたよ。

 でもそれは、商人さんに大声ですぐ止められたんだ。

 思わず手を引っ込めたよ。


「あ、……すまないね。大声を出して」

「いえっ、大事な物を触ろうとして、こちらこそすみませんっす!」


 商人さんは気まずそうにしていたけど、ボクのほうこそ、もう少し注意して動けばよかったかなって反省したよ。

 だって、一瞬その石を触ったけど、なんだか何重にも布にくるまっている感触があったからだよ。

 厳重に保護するくらい、よっぽど大事な石なんだろうね。

 だから、あっちに落ちている鞄を拾おう。


「この鞄……蓋はちゃんと閉まったままだ。よかったっす」

「コトー、こっちに帽子もあったで」

「スカーフもあったわよ」


 ボクたちは道端に散らばった物を拾ったよ。

 それを見ていた商人さんは、まだイライラしてるおじさんの方を指さしたよ。


「それは……すべてあっちの人の持ち物だね」


 そのおじさんはぶつぶつと「ダークエルフ……魔族……」って繰り返していて何だか怖いけど――、ボクたちは冒険者なんだ。

 もしも依頼人さんがイライラしていても、うまくやらないといけないって教わっているから、ボクたちは顔を見合わせて頷いて、極めて明るく、笑顔で、近寄ったよ。


「あのっ、鞄、どうぞ! 中身は出てなかったっすよ!」

「帽子も無事で、他には落ちてへんようです!」

「スカーフもどうぞ。魔物にも踏まれてないですよ!」


 イライラおじさんは差し出された物をすぐ受け取ってくれずに、まずボクを『じい~~』っと見たよ。

 ボク、すっごく見られたよ。

 あ、ニコニコ笑っているつもりが、口元が隠れていて見えないとか?

 じゃあ、目でなごやな雰囲気を作るよ!


「ぁ、あのっ……」

「ありがとう」


 よかった。おじさん、ちょっと落ち着いたみたいで普通に受け取ってくれたよ。

 でも――。


「他はいらん!」


 ワーシィとシグナが渡そうとしていた帽子とスカーフは「寄るな!」って怒って、受け取らなかったよ。


「え……」

「あの……」


 二人が絶句していたら、そのおじさんはさっさと馬車に乗りこんじゃった。

 しかも、「早く出せ!」って商人さんに怒鳴ったし……。

 商人さんはそれでも慌てずに荷台から降りて、懐からお金を出したよ。


「すまないね……助けてくれてありがとう。これ、少なくて申し訳ないけどお礼だよ。あとうちの漬物を受け取ってくれるかい? 慌しいけど、これから急いで東に行かないといけなくてね」

「え、お金とお漬物どっちも少なくないっす、大量っす! それよりも、もう暗くなるっすよ? いったんジェイミに戻って翌朝出発したほうがいいっす」


 空はもう紫色になっていたんだ。

 次の町まではまだ遠いから、夜中まで走らせることになっちゃうよ。


「いや、アーリズまで急いでいてね。帰りにまた寄らせてもらうよ」

「えっ、ボクたちもこのあとアーリズに修業に行く予定っす!」

「そうかい。じゃあ、そこで会えるかもしれないね」


 それから商人さんはまたイライラおじさんに怒鳴られて、すぐさま馬車へと駆け寄ったよ。

 本当に急いでいるみたいで、あっという間に走らせて見えなくなっちゃった。


「……帽子、よかったんかいな?」

「このスカーフ、何か大きな汚れでもあったのかしら? えっと……、見当たらないわ」


 ワーシィとシグナは、落とし物を受け取ってくれなかったから困っていたよ。


「って、あ! ボクたち、練習してた『名乗り』、忘れてたじゃん! 商人さんの名前も教えてもらってなかったし!」


 うわーん、肝心なことを聞いてなかったよー!

 ボク、パーティーリーダーなのに、おじさんが怒っていたのばかり気を取られていたよ。


「しゃーないコト。アーリズで確認したらええ。……あの急ぎ具合やと、入れ違いになるかもしれへんけど」

「私も、あのおじさんの態度にすっかり意識が向いちゃっていたわ。もっとスムーズに名乗れるように練習しないといけないわね」


 それからワーシィとシグナの手に残った落とし物は、近くの木の枝に掛けておくことにしたよ。

 もしかしたら気が変わって、取りに戻ってくるかもしれないもんね。


「よし、うちらも急いで元の場所に戻るで!」

「え、もう暗くなるのに!?」


 ボクは驚いたけど、ワーシィは本気だったよ。


「日が落ちた方位と星の位置で方向はわかるわ。コトが光障壁を出して、道を照らせばたどり着けるはずよ!」


 シグナも帰る気満々だよ。

 今のうちに戻れるところまで戻らないと、集合時間に間に合わなくなるかもしれないからだよ。


「え、でも疲れちゃ……」

「疲れさせたのは元々誰やねん!?!」

「コト! アーリズに行くために、やるのよ!!」


 二人が杖と剣をボクに向けて詰め寄ってくるよ。怖いよっ。


「う、うんっ、帰ろ、帰ろー! じゃあ、さっきの歩きミニカブカブを四匹持って……あれ? 三匹しかいないよ?」

「え、ほんま?」

「一匹仕留め損ねたようね」


 周囲を照らしたけど見当たらなかったよ。

 でもこれ以上この場にいられないし、三匹でも十分合格だから、ボクたちはその一匹を放っておくことにしたんだ。


「あれ、でも歩きミニカブカブってちゃんと仕留めないと、あとあと怖いんじゃなかったっけ?」

「あ、『恨みを持って生き残ると、大きく進化する』って授業でやったなぁ。うちらだけやと勝たれへんくらいの、凶悪な魔物になるんやったか?」

「形も大きくなるんだったかしら? でもそう簡単に進化しないって習ったし、瀕死だったからきっと大丈夫よ。それより私たちはアーリズ行きを確定させるほうが得策よ」


 そうだよね。

 遅れるとマイナス評価になっちゃうから急がなくちゃ。

 ボクたちは障壁の明かりを頼りに、お漬物を食べながら戻ったよ。


おまけ:今日はボクたちの日?だから、帰り道も追記


コト「もう真っ暗だよ~、ボクの魔力がなくなってくよー(´・_・`)」

ワーシィ「コトはさっき戦わんかったやろ。その分照らしぃや」

シグナ「そうよ、これくらいで音を上げないで」


コト「うわん(´;ω;`) ――あ、名乗りだけどさ、夜に名乗ることもあるよね。それも考えて練習しようよ」

ワーシィ「ええな!うーん、夜っぽい雰囲気やと……」

シグナ「月かしら?『闇夜を照らす!』とかかしら?」


コト「ん~……。そうだ!よく見る明るい三つの星があるじゃん……『ボクたちは輝く三つの星!』は!?」

ワーシィ「ええ感じやね。――あ、あったで荷物!」

シグナ「確認したらもう寝ましょう」

コト「うん、夜バージョンはあとあと考えていこ~」


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