208: 普段と違う午前の時間⑦ ~忽然と~
ふぅ~、ちょっと緊張しちゃった。
身分が上の方と話すことは今までもあったのになぁ。
王族のカイト王子とも会話したことがあるのにね。……王子の場合は、雰囲気が王子様っぽくないからかもしれないけど。
さて先ほどの爆弾魔は、私が領主様とお話ししているあいだに馬車に乗せられた。
最後の発言が気になるから、もっと大声でまくし立ててくれてもよかったのだけど、騎士たちに早々と押し込まれていた。
三台の馬車がこの町から出ていくと、町の人たちの興味も徐々に薄れていき、一人また一人とこの場を去っていく。
人だかりがまばらになったことで、私は見知った顔がこちらに来たことに気づいた。
「――おはよう、シャルちゃん、フェリオくん。あの護送馬車を見物していたようだね」
「おはようございます。サブマスもちゃんと見れました?」
最初『探索』スキルで確認したとき、サブマスはいなかったはず。あとから見に来たようだ。
「僕は何回か見たことあるし、特段面白いものでもないから別にいいさ。ところで領主がシャルちゃんのところに来ていたようだけど……」
「はい。さっきの爆発を障壁でお守りしたことで、褒美の話になりまして……。でも、いただくほどのことはしてないんで、困ります……」
どうにかならないかなぁ。
「町の人たちも守ったのだし、ありがたくもらえばいいさ。きっと、魔物の群集討伐の報酬で向こうに赴いたとき一緒に渡されるよ」
「いえ、実は私、その報酬はさっきもらったんです。またもらいに行くことになるのは……。あ、『面倒だからいりません』って伝えればいいですね! ……ってそれで引いてくれるのかな……」
「ん、騎士団のところに寄っていったのかい?」
「え、はい」
そっか、今はまだ午前で、騎士団のところに行くのはおかしいか。
「えっと、午後の勤務開始まで時間があるので、ちょっと散歩しまして……」
「散歩……にしては、シャルちゃんの家からは遠くないかい? ――そういえば、騎士団がブゥモー家の関係者を捕まえたと聞いたね。確か、シャルちゃんに攻撃した一人だとか。……シャルちゃん、まさかと思うけど、それを聞きつけて騎士団のところに行ったんじゃないだろうね?」
「えっ……ま、まっさかぁ」
ごまかしたけど、サブマスには通用しなかった。
「シャーロット、犯人見つけたらボコボコにするって息巻いていた……」
フェリオさんまで私をじっと見ている。
「――シャルちゃん、危ない場所に近づいてはいけないって前にも言ったよね? シャルちゃんの気持ちもわかるけど、復讐に走るような行為はよくないからね。そもそも君は被害届を出していただろう? 王都で裁かれる予定の人物なのだから、判決を待って……」
げっ、長いお説教が始まりそうだ!
「いえいえっ、ご心配には及びません、団長さんに昨晩のお礼を言いに行っただけです! ……そ、それよりも、サブマスはあのガチガチの馬車を見たことがあるんですね~! 王都ではしょっちゅう見られるものなんですか?」
「……王都に暮らしていてもそうそう見られないよ。何度もあったら、それと同じ数の犯罪が起こっていることになるじゃないか」
確かに。
「僕が最近見たのは二年前の……あ、いや、すまないね」
サブマスがやけに声を潜めた。
「え、二年前……?」
「シャルちゃんたちも見ていたんじゃないのかい?」
「あの日……、シャーロットはギルドで留守番させていたはず」
サブマスがなぜ謝ったのかわからなかったけど、フェリオさんの言う「留守番」で、思い当たるふしがあった。
二年前に起きた事件のことで、前領主や前の冒険者ギルドマスターが王都に送られたことだろう。
確かにその頃、私が留守番をしていた日があった。
その日はたしかギルマスとタチアナさんもギルドにいなかったから、もしかしたらこの場所で今日と同じように、王都に連行される馬車を見送っていたのかもしれない。
今回の件と違ってギルマスたちの場合は、今まで町を治めていた領主や前の上司を見送ったということになるけど……。
フェリオさんはまだギルドに復帰してない頃だけど、私が留守番していたことはギルマスたちに聞いていたのだろう。
サブマスが声を潜めたのは、人が少なくなってきたとはいえ、その町の道端で話す内容ではなかったからだ。
そうだ、ここらで違う話題に変えよう。
「……そういえばサブマスは昨晩、学園生たちとスタンピードを担当してくれましたよね。ありがとうございます。彼女たちの活躍はどうでしたか? ――ってあれ? コトちゃんたち……」
私がすぐ後ろにいるはず、と振り返ると、さっきまで近くでキャーキャー騒いでいた三人が忽然と消えていた。
そういえば……サブマスと話しているあいだは静かだったっけ。
まぁ、目的だった馬車見学は終わったのだし、ついでにお買い物をしに行ったのかもしれない。
――と思ってふと視線を上げると、彼女たちは少し離れた場所にいた。
三人は大通りから細い路地に入っていて、そこからこちらを窺い見るように建物の陰からひょっこり顔だけを覗かせていたのだ。
『キラキラ・ストロゥベル・リボン』がなぜ隠れているのか、
190~192話あたりをご参照くださいませ。
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