207: 普段と違う午前の時間⑥ ~領主様~
更新遅れてすみません!
二年前からテーブル山ダンジョンやアーリズの町周辺を治める我らが領主、ズベン・ヴィダヴァルト侯爵が目の前に立っていた。
私が戸惑ったのも無理はない。
領主様には、話しかけられるどころか、こんなに近くでお会いしたことすらなかったからだ。
しかし新年の挨拶などで我々町の住民の前では話されるから、顔は知っている。
一言で表すと、“ダンディなおじ様”といった外見だ。
微笑まれているものの、堂々としたたたずまいと貫禄のある雰囲気から、私は背筋をピンッとさせた。
そういえば周囲の騎士たちの様子もいつもよりずっと固く、ゆるみを一切感じられない気がする。領主様の存在がそうさせているのかもしれない。
「此度どころか、いつも町を守ってくれていること、大変頼もしいかぎりだ」
「お、恐れ入ります、領主様。……でも私は、そこまで大したことをしているわけではありませんので……」
私はペコーと深くお辞儀をした。
私の周りでは、住人の皆さんが領主様を称えていた。
「領主様って、町のために駆けつけてきたって話だったよね?」
「デココ領の領主は、魔物の大群に大慌てで逃げたって話だが、我らが領主様は戻ってきたそうだ」
「スタンピードの多いこの町にとって頼もしい方ねぇ!」
そうだ、その件があった。
「あの、領主様! 王都にいた冒険者たちを連れて帰ってきてくれたと伺いました。ありがとうございました、大変助かりました!」
昨夜の戦闘を早く終えられたのには、王都にいた冒険者たちが帰ってきたことも関係していた。
彼らには、残った魔物の掃討戦をやってもらっていたのだ。
手ごわかった新種の魔物やグラスアミメサーペントは討伐されたけど、大型の魔物ではまだグリーンベアやグリーンサーペントは残っていたので、彼らの加勢は大変ありがたいものだった。
なによりゲイルさんが帰ってきてくれたから、バルカンさんも新種の魔物に投げ飛ばされずに済んだのだ。
「うむ、わしも町を守るために早く帰るつもりだったのでな。幸い冒険者らも帰ると意気込んでおったので、どうせならと馬車を用意したまで。だが、予定より遅く着いたのは反省すべきところだ。道中、もっと早く走れんのかと冒険者らにどやされたわ!」
「えっ、そ、それは、ご無礼を……」
「なんのなんの。早く魔物の大群と戦いたいと意気込むとは、我が町の冒険者らは頼りになる! クーッハッハ!」
陽気な笑いから、怒ってなさそうで安心した。
領主様は冒険者たちを持ち上げてくれたけど、ご自身も戦う気満々で帰ってきたように思う。
領主様の体格は豪華な服の上からでもたくましいことが窺え、『鑑定』スキルで見る能力値からも、戦闘経験があるとわかるからだ。
王都に送られるブゥモー伯爵子息とは、比較にならない強さがある。
「それはそうと、わしのいないあいだ、騎士らのほうが迷惑をかけなかったかね?」
「え、いえ……ん?」
そんなことはありませんでした、と言おうと領主様を見たら、その後ろに控えていたファッサさんとムキムさん――お互い思い合っているカップル騎士二人がびくっと震えていた。
どうしたのだろう?
彼らは何かやってしまったのかな?
でも私は特に何かされた記憶はないし……。
昨夜の戦闘で何かあったっけ? いや……待てよ、もしかして以前メロディーさんご夫婦のお食事会に行ったときのことかも。
食事会のときにファッサさんとムキムさん――、思わず抱き合っちゃったんだもんね。
もしかしたら、アーリズの騎士団は団員同士の恋愛は禁止なのかな?
ずっと隠しておくつもりが、私に知られちゃって困っているのだとしたら……。
――うん。そういうことなら、二人が付き合っていることはちゃんと黙っておかないとね。
それから、領主様の隣にいる騎士団長さんも睨んでいるんだけど、なぜ……あっ、そうか。人が集まっているから、あの元騎士見習いのことも黙っておかないと。
「いえ、そのようなことは特に思い当たりません!」
きっぱりと言うと、カップル騎士二人はホッとしていた。やっぱり自分たちの関係を内緒にしておきたいのだろう。
さて、その二人の後ろでは頑丈な馬車が、開かれた北の門を通りすぎていく……。
アーリズには東と西、それから北側にも門がある。
通常開かれることがないその門は、このようなときに使われるようだ。領主様に権限がある門なのかもしれない。
「うむ……、では『壁張り職人』シャーロット嬢、此度の礼は後ほど取らそう」
「え、領主様、私は本当に大したことはしてませんので……」
「冒険者ギルドでは、粘着豚……ブゥモーの倅の無茶な依頼を受領しなかったと聞いておる。我が町の冒険者ギルドは高潔な者たちが運営している組織で、嬉しく思うぞ!」
領主様が門の方へと戻っていく。
その足どりは件の倅さんとは違い、優雅で堂々としていた。
そういえばまた「粘着豚」と聞こえたのだけど、……もしかして領主様周辺では、前々からブゥモー伯爵家をそのようなあだ名で呼んでいたのかな?
……ま、まぁいいや、聞かなかったことにしておこう。それよりお礼についてだ。
何も気になさらなくていいのに。
遠ざかる馬車に乗っている金髪の騎士見習いとの話は、もう難しいようだから諦めていたところだ。
人生ままならないことってあるわけだし……。
私の後ろでは、コトちゃんワーシィちゃんシグナちゃんが「領主様とお話してる~!」「『壁張り職人』って呼ばれてすごいわ~」「一目置かれているのね!」と興奮している。
そうだ……領主様からも『壁張り職人』って……。
――ひ、広まっている……! 定着している……!?
そ、そんなぁ……!
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