202: 普段と違う午前の時間① ~広場にて~
私は人が往来する広場にやってきていた。
活気ある朝の市にやってきた人々が、買い物を楽しんでいる。
朝こそこそと歩いたときとはまったく違う雰囲気になっていた。
(昨夜、魔物が襲ってきたなんて嘘みたい……。あ、このダイダイコンも買っておこ)
私も楽しんでいる。
あれから結局……、私は騎士団に矢を差し出した。出さざるをえなかった。
団長さんから、以下のように迫られたからだ。
――収納魔法に入っているのでしょう? 出しなさい。
――それとも貴女の家にありますか? ただちに向かうことにしましょう。
――重要な証拠ですから大人数で一斉に、今からなだれ込みますからね?
――屋根裏まで徹底的に探します。壁紙をはがしてでも探しますよ。
私が合間にのらりくらりと躱そうとすればするほど矢継ぎ早に畳みかけられ、本当に今から向かいそうな勢いだったので、即座に収納魔法から出したのだ。
家に上がり込まれて何か壊されたら大変だし、なにより一階には『キラキラ・ストロゥベル・リボン』の三人がいる。巻きこんでしまっては申し訳ないではないか。ご近所さんにも迷惑をかけてしまうかもしれない……。
だから諦めて差し出した。
私があの騎士見習いを脅すはずが、逆に脅されることになるとは……。
矢はルイくんに切ってもらったことにより真っ二つになっていたから、先に矢羽根側を出し、それから矢じり側を出した。
ただそのとき、最初に出したほうとあとでは反応が違った。
矢羽根側を出したときは冷ややかに受け取っただけなのに、矢じり側を出したときには団長さんの眉毛が軽く跳ね上がったのだ。
「あ、あの、私の血はさすがにつけっぱなしにしたくなかったので洗ったのですが……だめでしたか?」
騎士団は証拠を押さえるために、血痕が残っていたほうがよかったのだろうか?
でも血まみれの状態で持っていたくなかったし……。
私は念入りに洗ったことに対して咎められるのかと伺ったけど、団長さんは部下の人たちとなぜかそのまま矢じり部分を真剣に見ていた。
矢じりの材質はありふれた金属が使われていて、別段珍しい物ではないはずだ。アーリズでもほぼ同じ物を使っていたと思うんだけど……。
となればその金属にある、引っかいたような模様が気になっているのかな。
この矢じりには先端に向かって、炎の揺らめきのようなマークが彫られているのだ。
当然、矢を手に入れてから『鑑定』スキルで見たものの、真っ二つになったせいか別の理由か「壊れた矢」であることしかわからず、自力で調べるしかなかった。
模様については、どこかの家の紋章と関係あるかも、とフェリオさんから借りた『貴族名鑑』を開いてみたものの、めぼしい情報は見つけられなかった。
デココ家かブゥモー家に関するものかな? と調べたけど、特にそれらしい記述はなく、もちろん我が町の領主の家のものとも関係なさそうだった。それとも家は関係ないのだろうか……?
「あのっ、気になっているのはその矢じりに彫ってあるマークですか? それは何ですか?」
矢を調べる時間が二晩しかなかったところに、答えを知っていそうな人たちがいるのはありがたい。矢を回収されたのだから、この際騎士団に聞けばいいのだ。
しかし……。
彼らは教えてくれなかった。
皆さんじろりと私を見たものの、口は開いてくれなかった。
しかも、すぐ退室させられたのだ。
「射られた私には知る権利がある」と主張しても、また両脇を抱えられて強制退室させられた……。
仕方なくまた足をぷらーんとさせたまま、門まで連れていかれたのだった。
そうそう。
退室間際に、せめて団長さんに昨夜のお礼を言わなきゃ! と声を上げたのだ。
城壁から落ちたときに助けてもらった件の礼をした……のだけど。
結果、――団長さんではなかった。
団長さんから、「貴女が落ちたとき風を使ったのは私ではありません。騎士団にはそのような魔法を使う者はほかにいませんし、冒険者側ではないですか?」と言われたのだ。
(……う~ん、冒険者さんたちの中にそんな大技を使う人がいただろうか? あ、セロセロリも買おう)
私が頭をひねりながらお金を払っていると、その後ろをよく知る子たちが駆けていく。
「たぶんあっちだよ! 人が集まってるもん!」




