201: お邪魔します⑥ ~……黙秘~
あけましておめでとうございます!
今年も『転生した受付嬢のギルド日誌』を何卒よろしくお願いいたします。
唐突な質問に驚いた。
それでも『演技』スキルによって、まるで正直に答えているように「いいえ!」と答えられたものの、この魔道具にはお見通しだったようだ。
この“ぶーーっ!”と音を鳴らすこの魔道具は……。
「ふむ、この嘘を見抜く魔道具、調子が戻りましたね」
そうだ、嘘発見器のような魔道具だ。
アルゴーさんから壊れたと聞いていたけど、直ったのか……。
「シャーロット嬢、わかりましたね。嘘は見破られます」
この魔道具は以前ギルドにやってきた宝石泥棒を捕まえたときにも使われた魔道具で、性能はかなりいい。
これが出てきたら、私が矢を隠し持ったままにはできそうにない。
しかし、ちょっとくらいもがいてみよう!
「こ、この魔道具はまだ壊れているようです。私は隠し……」
ぶーーっ!
まだ話している途中なのだけど……。
「魔道具は壊れている」の部分が嘘であるから鳴らした、ということかな。
「壊れてはいませんよ。――ああ、それなら、『シャーロット嬢は冒険者ギルドの職員ですね』」
「……はい……」
しーん。
今度はもちろん鳴らなかった。
「――ついでに、貴女がイパスン・ガツィーコを犯人だと気づいた話、あれは本当ですか?」
「え……!」
こ、これはまずいのでは?
私に『直感』スキルはない。……でもまさか「『鑑定』スキルでーす!」なんて言おうものならもっと大変なことに……!
「えっと…………」
「シャーロット嬢、黙秘はいけませんよ」
あ、そっか! 黙秘だ、黙秘しよう。
確かアルゴーさんは、この魔道具には時間などの制限があるとか言ってなかったっけ?
それなら黙っていればいいのでは!?
「…………」
「シャーロット嬢。このまま黙っているならば、貴女の口を軽くするために、監獄内でゆっくりお話しさせてもらうことになりますよ?」
ひえ~、団長さんの笑顔が怖い。
「私も手荒な真似はしたくありません。さぁ、先ほどのイパスンの件の証言は本当ですか? お話しください」
ど、どどどどうしよう。
話しても黙っていてもよろしくない結果に……!
それなら手を外せないかな?
――ふんぬぅぅ~~!
…………だ、だめだ。魔道具の台に押しつけられている私の手は、びくとも動かない。
まさか、騎士団にバレるはめになるとは……!
…………。
………………ん?
あれ……、いや……?
待った。
さっき団長さんは何と言っていただろうか。「何」があるようですね、と……。
そうだ――!
「団長さん……、あの騎士見習いのイパスンが犯人だと思ったのは……」
彼がわざわざ言ってくれていたじゃないか!
「――先ほど申し上げたとおり、私の所持する『スキル』によるものです!」
…………。
…………。
…………お。
……おお!
しーんとしている。魔道具が鳴らない……!
――やっぱりそうだ――!
団長さんはさっき「そういったスキルを所持しているのかもしれない」と言ってくれていた。
それならわざわざ『鑑定』のスキルと言わなくてもいい。
『私が持っているスキルで犯人がわかった』のは真実なのだから、鳴るわけがない。
やった~!
「ほぅ、そうですか……。――いいでしょう」
団長さんは私の回答に満足したのか、解放してくれた。
両脇の騎士さんたちと、手の下にあった魔道具が離れたのだ。
「ふむ、シャーロット嬢よかったですね」
「えっ」
「貴女に直感的なスキルが備わっているということが証明されました。障壁魔法や収納魔法も使えてさらにスキルがあるとわかり、さぞ嬉しいことでしょう。顔に表れていますよ」
あ、そういうこと……。団長さんは勘違いしてくれているようだ。
この世界では一般的に、誰にどんなスキルがあるのか、一部例外(ギルマスの『完全獣化』など明らかにわかるスキル)を除いて知り得ることができないのだ。
『鑑定』スキルは私……とたぶんあのお方くらいしか所持していないから確認する手段がなく、世間一般ではスキルを持つ人間はかなり限られているとされている。
だから私が笑顔で嬉しそうな顔をしていることで、団長さんをはじめ室内の騎士さんたちも、「私の『鑑定』スキルがバレなくてよかった~」と思うことはなく、「私にスキルがあったんだー!」と喜んでいるように見えたらしい。
って、あれ? 嬉しさが顔に出ているって変じゃない……?
『演技』スキルを使っていたのに顔に出るとは……。あ、動揺して効果が切れていたようだ。
ふ~、ともかく、なんとかなってよかった。
あとは……、
「それでは失礼しまーす!」
「待ちなさい。矢を出すまで帰しませんよ」
この流れで退室しようとしたけど、さすがに騙されてくれなかった。




