198: お邪魔します③ ~団長さんと交渉……~
私は応接室と思われる部屋に連れてこられた。
ここに入るまでに「歩けます!」と抗議したけど、まったく聞き入れられることはなかった……。
足がぷら~んと宙に浮いたまま暴れてもしょうがないと、私は抵抗することを早々に諦め、下ろされた今はソファに座わっている。
騎士の皆さんは部屋の四隅に一人ずつ、私の座るソファの両端に一人ずつ立っている。
前回と似た状況だけど、あのときより警備ががっちりしているなぁ。
そりゃ前は召喚石を壊した礼などで呼ばれて、今は不法侵入したことで連れてこられたんだもんね……。
それにしても、騎士団長さんに見つかるとは。
もちろん私はカイト王子だけではなく、騎士団側の動きも注視しているつもりだった。
でも、王子がお休み中だとわかって気が緩んだのかな?
団長さんも動きがないから、お休み中だと私は勝手に勘違いしていたらしい。
その団長さんは、私が座って少し経ってから部屋に入ってきた。私の向かい側へとやってくる。
「だ、団長さん、朝早いですね……」
「私は未だ休んでいませんからね」
「んえっ!? 夜からぶっ通しですか……。お、お疲れ様です……」
動きがなかったのは、ちょうど内勤業務中だったからなのかもしれない。
お疲れのところ、不法侵入者が入ってきたものだからきっと苛立っているだろう。
しかし――!
団長さんに見つかったのなら、ここはもう直談判だ。
一度「私は怒ってますよ!」と主張し、迫力でまず圧倒させてみるべきだろう。
……いや、その前に昨夜の礼を言わなければ……。
「騎士団長さんっ! 昨夜はありが……」
「シャーロット嬢、件の犯人の逮捕にご協力ありがとうございました。そして、大変申し訳ありませんでした!」
「ござい……? しかし……私は怒っ……? え、あの……?」
騎士団長さんが正面に来たところを見計らって私がばっと立ち、声を上げた途端、彼のほうが先に腰を曲げたのだ。
言うつもりだった怒りはしぼんだ。
「元見習いといえど町を守る立場の者が貴女に矢を放ったこと、アーリズの騎士団長として謝罪致します」
「…………」
例のあの騎士見習いの所業について、騎士団として私に謝るということだろうか。それに団長さんが「元」と強調するってことは……。
…………。
……正直、面食らってしまった。
私がまくしたてようとしたのに……。先にこうやって真摯に頭を下げられては怒れないではないか。
「……あっ、あの、まずは頭を上げてください!」
「お許しいただけるのならばそうしましょう」
「ゆ、許すも何も……えっと、あのイパスンだかって人の正体を知ってて、わざと騎士団に入れていたわけではないでしょうから……、そちらも災難でしたね。ま、まずは顔を上げてくださいっ。あの、落ち着かないんで!」
元々知っていて騎士団に入れて泳がせていたようには思えない。
昨日アルゴーさんにあの騎士見習いの探りを入れたら、さほど警戒してないような口ぶりだったから、私が急き立てたのだし。
「……敵対勢力の関係者を我が懐に入れてしまったことは、こちらの落ち度です。なんと間の抜けた話でしょう。誠に恥ずかしいかぎりです。そのせいで貴女に怪我を負わせてしまったのですから」
「えと、矢で攻撃されたときは本当に痛かったですけど、幸い治しま……治りましたし! どうか顔を上げてくださいませ! ――あ、……あの、それなら私をそのイパスンに会わせてください! お話を少しでいいので聞きたいんです!」
うっかり自分が治したかのように言いそうだったところを持ち直し、交渉することを思いついた。
しかし、ようやく顔を上げてくれた団長さんの表情は真剣だった。
「それはできません。元騎士見習いどころかあの者たち全員、他者との接触は一切させず不備のないよう王都まで連れてくるよう、国より厳命されておりますのでね」