196: お邪魔します① ~予知夢? まさか!~
ここは……、いつものカウンターだ。
そうだ……ギルドで仕事をしているんだ。
あー、昨夜は大変だったなぁ。やっと普通の業務をやっているって気がするなぁ。
「次の方どうぞ!」
次の方は……。
「ふフーふ、フ~ふフふ! シャーロットさん!」
「あ、あれ。ゲンチーナさん、どうしたんですか? 嬉しそうですね……?」
列に並んでいたのは治療院で働いているはずのゲンチーナさんだ。
鼻歌みたいな……なんだか混乱ボイスでも発してそうな笑い声で迫ってきた。
「あーなた! だったんですねぇぇぇ!!」
「え……、何がでしょうか?」
今、「あなただったのですね!」と言ったのだろうか? どういう意味だろう……?
あの、腰が苦しいんですが、腕を巻きつけないでもらえますか?
「あなたがっ、私の探していた治癒魔法使いということが判明しました!」
「な! なぜそれを!?」
ゲンチーナさんは、私の体に腕どころか足も絡ませた。私の体に木登りしているかのようだ。
「あれですよ、アレ!」
彼女は片手を上げて指を指した。
その先にはカウンターの上にいつもある「横入り禁止」の横断幕がある。……はずなのだけど。
『注目! シャーロットの治癒魔法は、すごい!!』
な、なぜ横断幕の字が変わっているのだろうか?!?
「シャーロット、横断幕はぼくが書き換えたから」
「フェ、フェリオさん! ど、どうして……!?」
フェリオさんが自身の高価なペンを持って、羽を高速でパタパタさせて横断幕の隣に浮いていたのだ。
「頼んだのに、魔物……入ってきた。ペリドット、粉々……」
「はっ――!! ご、ごめ、なさい! ごめんなさ……~!!」
私はフェリオさんに全力で謝った。
町に熊やら蛇やらが入ってきたのは事実だ。だから謝った。――謝ろうとした。
でも声が出ない。
体にまだ巻きついている腕のせいだ。
――ちょっと! 放してください!!
苦しいんですけど!
聞いてます?!?
あ、久しぶりにギルドに来た方が……、――様がいるので、お待たせしないよう仕事したいんですが!
隣ではずっと謝っている人もいるから放してください!
……っ、…………?
――――?
って、……アレ?
「……ぐっっ……! 放し…………ん。……ん? え、あれ? ここは……」
天井だった。
見たことのない天井だった……と言う気はない。
見慣れた天井に大変よく似た天井では、ある。
私の隣では唸っている女の子の声がいた。
「んわぁん……。……ごめんなさ、ぁ~い……! むにゃむにゃ」
「あ、あれ……。コトちゃん? いてて……」
コトちゃんが私の隣で寝ていた。
私を抱き枕と勘違いしているのか、腕も足も私に巻き付けている。
反対隣にはワーシィちゃんがいて、シグナちゃんはどこかなと再度コトちゃんの方を向いたら彼女の奥にちらっとリボンが見えた。
「ふぅ……っ、ぐぬっ!?」
シグナちゃんの確認をしたところでワーシィちゃんが寝返り、その腕に襲われる。
…………えーと。
私はどうやら『キラキラ・ストロゥベル・リボン』のお部屋に図々しくもお邪魔し、ベッドまで使わせてもらっていたようだ。
……なぜに? 酔っていたっけ……? いやいや違う。
夜中まで戦闘していたから眠くて……。
確か、どうにか家に歩いて帰ってきたものの、二階に上がれるか心配してくれた三人に一階のこちらの部屋へ入れてもらって、そのまま四人してベッドにダイブしたような……。
な、なんと私の情けないこと……。
年下の子たちに家まで支えてもらって、そのまま彼女たちの部屋で眠りこけるとは……!
私は自分にがっかりしながら、三人を起こさないよう注意して起きた。
ワーシィちゃんの腕は持ち上げて脇に避け、次に巻きついていたコトちゃんの腕を剥がす……けど、途中で足で蹴られた――というか足で私を押してきたのでその隙に抜け出した。……ちょっと痛かった。
するとコトちゃんがくるっとシグナちゃんのほうに寝返りして、抱き着いた。
シグナちゃんの様子が心配になったけど、彼女も寝返りをしてコトちゃんの抱き着きをはじく。……た、たくましい。
そんな三人の上に、掛布団をかけた。
それにしても……夢、か。
今日は新種の魔物を図鑑に載せる話し合いで、たぶんゲンチーナさんとも会うと思うんだけど……まさか予知夢の類じゃないよね。
……いやいや、そんなまさか。『予知夢』的なスキルは持ってないし、それはないだろう。
それよりも……。私の体内時計のおかげでちゃんと朝に起きたのだ。
――まずは不法侵入でもしに行こう。