195: 終わった寝⑩
「シャーロットさん、大丈夫っすか!?」
ん?
三人が心配そうに見ている……。
「やっぱりあのファンタズゲシュトルに何かされたんじゃっ!」
「だーじょーぶだにょ。あのオバケは関係な……」
コトちゃんが慌てているようなので、「大丈夫!」と伝えたつもりが、ただただムニャムニャしゃべっているだけになってしまった。
これはまずいなーと思ったら、案の定――。
「ぎゃーっ、シャーロットさんがあのオバケに精神攻撃を受けたっす!」
「た、大変や!」
「治療院の人のところへ行きましょう!」
騒ぎ出した……。しかも三人とも。
っていうかファンタズゲシュトル亜種の説明、いつ受けたんだろ?
私、意外と長く寝ていたのかな?
「おいおい、そんなに慌てる必要ないぞ。シャーロットはただ寝てただけだ」
遠くから聞こえるこの声は、ギルマスかな~?
んーと、新種の魔物は……もう片付けられている。
「――シャーロットさん、もう帰っていいみたいっす」
騎士団のほうから「お疲れさん」と聞こえた。
コトちゃんたち三人が「帰りましょう!」と合唱している……みたいだ。
腕も引っ張られたような……。
「一瞬起きたけど、起きないね」
コトちゃん、私、起きてるよ?
「……あ、ボクいいこと考えた!」
う~ん……?
「“キラキラ・リン♪ ボクらを守って!”――さっ、二人とも、この上に乗っけて!」
「え、この上? 大丈夫なん?」
「いくら万能ポーション飲んだあとでも難しいんじゃない?」
三人で何かを相談している……?
「ほらーっ、早く帰らないとさ、……来ちゃうじゃん」
ん? 何が来ちゃうのだろうか? 「サブ……」って聞こえたような。
「「せーっの!」」
ワーシィちゃんとシグナちゃんの掛け声が聞こえた。
私はなぜか頭側と足側を同時に持ち上げられたような……。
「ありがと! じゃっ、あーがーれーー!!」
何を?
おやぁ? 何だか瞼の向こう側がちょっと明るいような……。
「んー! うぅーーっ!! む、むむ無理~~ぃ……!」
コトちゃんのふんばった様子が聞こえた直後、力尽きた声と一緒に私は――。
「ぐっ――! ……? んぇ???」
体の側面が地面に叩きつけられたかの衝撃が起こった。
「……あ、あれ、コトちゃん?」
コトちゃんは声どころか体全体でふんばっていた。
足が蟹股になっている。
それを私は、なぜか地面に寝転がって見上げていた。
「壁張り職人~、妹分たちに世話かけさせんな~」
周囲の騎士たちから、笑いを含んだ声で注意され、私は起き上がった。
この状況……、まさか私、寝たまま運ばれようとしていたのか……。
「……あ、コトちゃん……ワーシィちゃん、シグナちゃん、ごめんね。は……ははは……帰ろっか」
なんとか立ち上がると、三人がホッとした顔をする。……申し訳なさが募った。
「さっ、こっちっす!」
「あっ! コト、こっちの道行くほうがええで。――シャーロットさん、隣失礼します」
「大きい道だとほら、誰かが通るときお邪魔になるかもしれないわ……! ――シャーロットさん、反対側は私が!」
道を先導しようとしたコトちゃんに反して、ワーシィちゃんとシグナちゃんが私の両腕を抱えて方向転換した。
「二人とも、放して大丈夫だよ。私、ちゃんと歩くよ。それと、一本向こうの大きい道のほうがサブマ……」
「さっ、シャーロットさん行くっす! ――早く帰れるように後ろ押すっすよ!」
コトちゃんは私をさえぎって後ろに回り、ワーシィちゃんとシグナちゃんが示す方向へ背中を押してきた。
歩くどころか三人の力によって小走り状態で前へ進む。
……ま、いっか。
大きな通りのほうが、通りすがりにサブマスたちと挨拶できるかなと思ったけど、私がこんな状態じゃ余計な心配をかけるだけかもしれない。
それから私たちの家まで歩いていく途中、『探索』スキルを使ってみたら予想どおり一つ隣の道をサブマスたちが通りすぎていった。
コトちゃんたちからスタンピード戦についても聞いたけど、善戦したようだ。よかった。
後半部分はなぜかもにょもにょと濁していたけど……、まぁいいや。
そうなると、門から落ちそうだった(落ちた?)私が一番危なかったのかな……? ……まさかね!
そういえばその件で、……何か忘れているような……?
それに私の『鑑定』に何か見覚えのない称号があるんだけど……。
ん~と、えーと……ね、眠い…………。
考えていたら眠気が……。『鑑定』も何だかゆらゆら~……。
あとにしよ。
コトちゃんたちから名前を呼ばれ、あと少しだと応援されたし。
考えるのは、明日にしよう。