191: 終わった寝⑥ ~うあ~ん、ごめんなさい!~
ボクは光障壁を正面へ、サブマスターさんへと押し出したよ!
避けられないように思いっきり速くすることを意識してね!
シャーロットさんみたいに途中で進路を変えるような複雑な動きは、ゆっくりじゃないと――ううん、ゆっくりでも難しいけど、一直線になら速く動かせるはずだよ。
だって、さっきファンタズゲシュトルを倒したときも、真下から押し出して当てた……らしいよっ。
あのときは結構距離があるから届かないと思ったけど、それでもちゃんと倒した(らしい)もん。……ちょっと確信がないけど……倒したもん。
だから、今回も当てるよ。サブマスターさんに尻もちをつかせるんだ。
でも、避けられちゃうかな。……ううん、大丈夫。
ボクの立っている場所とサブマスターさんとの距離は、さっきボクがファンタズゲシュトルを倒した距離より短いんだもん。当てられるはず!
サブマスターさんがよろめくか腰を打つのを確認して、すぐ次の行動に移すんだ。
急いでまた障壁を出して、ボクを囲んでいる人たちや、ワーシィとシグナを捕まえている人に目くらましをさせて助けるんだ。
「えーいっ、何が何でも当たれ~!! ――あ、あれっ、なんか速すぎ……」
ボクがびっくりするくらいの予想以上の速さで、サブマスターさんに向かっていったから焦ったよ。
あまりにも速いから緩めようとしたけど――、途中で止められないよ~!
――ボンッッ――!!
なんか……ボクの障壁から出しちゃいけない音が出ちゃったよ……。
魔物が木に激突したときくらいの、大きな音だったよ。
サブマスターさんはよろめくどころか重い音を立てて、宙を舞ったんだ。
「あ、あわわわ……! ど、どどどどうしよ~!」
腰を打つどころじゃなかったよ。
ボクの障壁、サブマスターさんをはじき飛ばしていたんだ。
「――サ、サブマスター!? 大丈夫ですか!?」
大人の冒険者さんが二人駆け寄っていったよ。
「どうしよ、こんな、ここまでやるつもりじゃ……! ちょっと、よろめかせるくらいでよかったのに……って、わぁ!!」
「くぉらっ! 捕まえたぞ! お前何やったかわかってるのか!?」
「うわ~~ん、ごめんなさーい!! でもでもっ、アーリズに戻るっす!」
ボクは大人の冒険者さんに、後ろから羽交い絞めにされちゃったんだ!
しかも高く上げられて、ボクの足が付かないよ。蹴ってもびくともしないよ~!
うわーん、どうしよー!
でもそのとき、さらに後ろから声がしたよ。
「――俺たちも、町に戻りますっ!」
それからすぐ殴る音が聞こえたと思ったら、なぜかボクは地べたに落とされたよ。
「ぶべっ! いたーいっ!!」
もうっ、せっかく回復したばかりなのに~……って、何が起こったんだろう?
後ろを見たら、さっき最後に燃えさかる雑巾を倒した男子が、鞘ごと剣を振り下ろしていたんだ。ボクを羽交い絞めにしていた冒険者さんは、頭を押さえているよ。
きっとボク、助けられたんだ。
「あ、ありがと……! あ、ワーシィ、シグナ! それに、……皆!」
ボクの後ろには、学園の皆もいたんだ。
数人がかりで冒険者さんを倒していたよ。
ワーシィとシグナも助けてもらっていたんだ。
「今のうちに門まで走るで! 皆でアーリズに戻ろ!」
「う、うん……! あ、でもサブマスターさん大丈夫かな……」
ワーシィに促されたけど、ボクはサブマスターさんの容体が心配になったよ。
だってボクの障壁から、人をひいたみたいな音がしたし……。
「大丈夫よ。向こうも万能ポーションを飲んでいるようよ」
シグナの視線をたどったら、サブマスターさんは少し起きてそれを飲んでいたよ。
そうだね。戻るなら今しかないよ!
「皆! アーリズに走るよっ!」
サブマスターさんの様子を診ていた冒険者さんが「お前ら、待て!」って呼び止めたけど、ボクたち学園生は、それを振り切って門まで走ったよ。