190: 終わった寝⑤ ~皆が応援してくれてる~
万能ポーション――超初級ダンジョンでボスの魔物を倒したときに出てきたこのポーションの威力は、すごかったよ。
ボクの魔力が一気に戻ったって、すぐ感覚でわかったんだ。疲れも吹っ飛んだよ!
それにボクのほっぺも、痛みが引いた気がするよ。
やっぱり二人のビンタ、強烈だったんだね……。そんなに全力で叩くなんて、ひどいや……。
でもその二人は周囲の冒険者さんたちに、思いっきり体当たりしてくれたよ。
きっと、光の向こうでサブマスターさんが顔を背けたから動けたんだ。
月明かりでうっすら見えていたサブマスターさんの姿は今、ボクの光障壁で照らされて、様子がはっきり窺えるよ。
それにしてもさっきの戦闘と同じく、ボクの魔法の威力がすごいよ!
こればっかりは万能ポーションのおかげだけじゃないと思うんだ。
だって万能ポーションは回復したりケガを治すだけで、威力が上がるわけじゃないもん。
ボクたち三人が最近戦ったのは、「ブゥなんとか」って人たちの逃走を阻止したときで、あのときはこんなに形のいい障壁を出せなかったし、輝きもここまでじゃなかった。
その前は超初級ダン……う、ううん、とにかくあれから数日しか経ってないのにこんなに威力が上がるなんて、不思議だよね。目の前に出している障壁の形は、さっきと同じように三角形なんだよ?
それなら、ボクたちが急成長したのは、ついさっき贈られた「これ」がきっかけだってこと!
そうだよっ。このポンチョだよ!
シャーロットさんたちがボクたちにって贈ってくれた、ポンチョの効果だよ。きっとこのおかげだ!
ルイくんたちが、え~と……よく覚えてないけど「魔法がすごくなって、狙いやすい」とか「怖い気持ちに負けない」って教えてくれたもんね!
ボクたち三人とも魔法が派手になった気がするし、サブマスターさんの脅しなんか怖くないもん!
だからシャーロットさんが、ルイくんたち孤児院の皆が! ボクたちを応援してくれているってことだと思うんだ!
だからボクは、ボクたちは戻るんだ。
誰にもボクの行動を止めさせないよ!
「サブマスターさん、退けてほしいっす!」
「く、目が……っ」
サブマスターさんはまぶしそうに手で目を隠しているよ。
今まで水魔法を使っていたんだから、サブマスターさんは疲れているはず。
だけどボクは今、全回復しているんだ。
ボクの方に分があるよ。
――でも、それはボクだけじゃなかったんだ。
「「きゃー!」」
それは二人の悲鳴だったよ。
「おいっ、コト……だったか? 仲間二人は押さえたぞ。お前も観念しろ!」
ボクに時間をくれたワーシィとシグナが捕まったんだ。
大柄の冒険者さん一人が、二人を両脇に抱えて立っていたよ。
「悪役や! ヘンタイの悪役や!」
「悪い人が言うセリフだわー! ――コト! 私たちのことは考えないで、できることをやるのよ!」
冒険者さんは大暴れしているワーシィとシグナに「人聞き悪い!!」って怒鳴っていたけど、ボクはもう、どうしなきゃいけないかわかんなくなっちゃったよ!
「さぁ、早くその障壁を消しなさい」
サブマスターさんが静かに、でも強い口調で言うよ。
ボクは……迷っていたけど、『障壁を消すべきではない』とだけは思うんだ。
だって学園に、今は帰らないんだもんっ。
でもでも……、ワーシィとシグナは捕まっちゃったし……。
わ~ん、どうしよー! わかんないよ~!
「それでも……ボク、アーリズに戻るっす! ……あ!」
ボクは囲まれちゃっていることに気づいたよ!
サブマスターさんが目を閉じたことでボクたちが動けるなら、横からしか近づけなかった大人の冒険者さんたちも同様だよね。
どうすればいいの……?
わかんない。
「わかんないけど、帰らないもーーんっ!!」
ボクのずっとずっと前に、アーリズの城門があるんだ、そこまで走れば戻れる気がするんだ。
だから、
だから!
「サブマスターさんは退いてくださいっす!!!」
ボクはもう、とにかくサブマスターさんをどかしたくって、出した障壁を思いっきり押し出したよ――!