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019: 低級スタンピード④ ~結局最後は……~



「状態異常:なし」



 うんうん。

 見た目もきれいに繋げられたのではないかな。

『鑑定』スキルでも特に問題なさそうだ。


「腕をくっつけるなんざ…………かなり高度な治癒を使えたんだな」


 自分でもびっくりしています。


「これで安心しないで、必ず治療院で診てもらってくださいね。あと、後ほど違和感があれば教えてください」


『鑑定』で問題なくとも、何といっても素人がやったのだから、本職の人に診てもらってほしい。そして何かあったら遠慮しないで言ってほしい。私も知っておかないと次に繋がらないから。


 私の魔力は10しか残ってなかったので、ポーションを飲みながら話す。

 また遠慮なく三本もらった。


 ポーションを飲んだときに、今まで私たちを守ってくれていた魔王様が、目だけをこちらに向けた。

 安心していたせいで、治癒魔法が終了したことを伝えていなかった。


「すみません、もう終わりました!」


 私がそう言おうとした瞬間、とうとう見えてしまった。



 魔力:9999999



 魔王様の「魔力」。


「9」が七つもあった。

 いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、…………ひゃくま……。

 およそ一千万の「魔力」。


 え?

 見えた……?


 瞬間、彼は片手をすっと上げた。

 ただ、すっと持ち上げただけ。


 彼は先ほどまで、目の前の謎の魔物と探り合うように戦っていた。

 でも、私の治療が終わるのを待っていたかのように、突然この戦闘を終わらせた。


 本当に一瞬。

 ここからでもかすかにしか聞こえないような、小さい風の音がした次の瞬間。



 ――――ズパァンッ!!



 すさまじい音がした。

 魔物の首が飛んで胴とさよならした音だった。

 周りの木々も、まるで伐採されていくかのように倒れていく。


「………………」


 全員、その音を聞きながら何の言葉も発せなかった……。

 呆然とただ見ていただけ……。

 魔物は力を失って横転し、飛んだ首も地面に落ちて、身体から青く発光した体液が流れ出していた。


 見たことない体液を凝視するも、それより気になる彼の魔力の残量を確認する。

 ……何も変わっていない。

 ……! いや…………!



 魔力:9999989



 よく見ると下二桁の数値だけが変わっている。

 魔力が10しか減ってない。


(私、治癒魔法使い終わって魔力残り10だったのに……)


 ま、自分と比べても、全くもって無意味だけどね。


「……はっ…………本当にSランクか?」


 我に返ったリーダーがつぶやく。

 ルシェフさんのことは知っていたんですね。

 まぁ、Sランクの存在は目立つ……か。


 魔王様は収納魔法で魔物の死骸をしまったようだ。

 血(?)の一滴も残さず収納した。

 あの魔物はよっぽど強く発光していたらしい。消えた瞬間あたりが暗くなった。


「この件はこちらで調べる」


 この場にいる全員に聞こえるようにルシェフさんが言った。

 こちらということは、ディステーレ魔国に持っていくということでしょうかね。


「な、何……?」


『羊の闘志』のリーダーは、いきなりいろいろなことが終わって頭が追いつかないようだった。魔王様はそれには返答せずに、(きびす)を返してしまう。


 待って!


「ま、ルシェフさん! ありがとうございます。私の治癒魔法が終わるまで、障壁張って、待っててくれたんですよね」


 去ってしまう前に、障壁のお礼を言わなくては!

 それはリーダーも同じで、私のあとに続く。


「そ、そうだ……! こいつのパーティーリーダーとして礼を言わせてくれ!」


「礼はその娘に言うことだ」


 魔王様は一方的に言って、風に乗ったかのように、さあっと去っていく。

 あっという間に闇に溶け込み見えなくなった。

 倒してから去るまでが早い。


「……魔国のSランクって皆あんななのか。威圧感が…………すげぇな……」


 いえ、魔王様なのでランクを超えた存在ですね。

 って、すごい汗ですよ。仲間のこと、気が気じゃなかったですものね。


 でもそっか。この魔物の前兆があったから、まだこの町にいたんだ。きっと。

 じゃ、私に何か含みがあったように聞こえたのも、きっと気のせいだったんだ。


 ……誰だ。祭のとき戦って逃げようとしたの。

 私か……。

 いろんなしょうもない案を考えていたけど、全部無理。戦うなんておかしな発想だった。早まらなくてよかったー。

 私なんて、彼の鼻息で余裕で吹っ飛ぶところだ。



 ――――はて。気づいたら、『羊の闘志』リーダーが私に頭を下げていた。他の人も。

 どうしたの?


「彼の言うとおりだ。ありがとう、シャーロット。強制召集だから治癒魔法は料金がかからないといっても、今回は礼を渡したい。もらってくれ」


 スタンピードなどのギルドの強制召集の場合、治癒魔法も召集での仕事の一環として扱うので、特別な報酬はない。

 だけど、リーダーは個別に支払うと言う。


 いやいやいや、まだ経過観察が必要ですよ。

 お金を出そうとしないでください。

 まだゲイルさんも起きてないし。『鑑定』では大丈夫とあるけども、腕がちゃんと動くか確認できていません。

 謝礼を出される前に、急いで代案を言う。


「あの。お金はいらないんで。そのお金で口止めさせてください。今回の治癒魔法を、誰にも言わないでください」


『羊の闘志』の皆が不思議そうな顔をする。


「治療院の人に知られたら大変です。素人が高度な治癒使ったなんて、怒られてしまいますよ。好意的に見られたとしても、勧誘されたくありません」


 ダンスの誘いがやっと終わると思ったのに、今度は治療院から勧誘が来たら仕事に支障をきたす。

 ま、治療院関係者でないと、高度な魔法を使ってはいけないとは聞いたことないけど。治療院がどういう反応するかわからないし。


 とにかく、今回のことは治療院関係者に知られたくない。

 治療院に誘われて手伝ったとして、また切断部を繋げるなんて嫌だ。

 麻酔がないなんて、痛くてかわいそう。もう見たくない。


 私の要望を聞いた面々は、皆ちゃんと黙ってくれるみたいだった。冒険者をやっていると、口が堅くないといけないときもあるからね。


 そして、私たちは町に帰った。

 ゲイルさんは意識が戻らなかったし、繋げたばかりの腕がぽろっと離れたら嫌なので、左腕に負担がかからないように運んでもらった。

 つまり、お姫様抱っこで帰ってもらった。

 力自慢のマルタさんに。


 すごく役得なのに、彼は気を失っているという残念さ。

 逆お姫様抱っこは見ていてインパクトがあり、ゲイルさんはマルタさんファンからしばらく睨まれることとなった。




 ――夜、どこの町よりも遅れて祭が再開された。

 でも、内容はきっとどこよりも豪華。

 町中に肉が振る舞われ、いいにおいが立ち込めたから。

 座っていたら、ゲイルさんからダンスのお誘いがあった。しかし私の返事は当然こうだ。


「ついさっきまで腕が取れていたんだから、安静にしてください」


 そう怒ったら、すごくしょぼくれて去っていった。

 彼の仲間たちがおかしそうにしている。いつもの光景が、祭の明かりと重なってキラキラして見えた。

 けど、何ですぐ動こうとするのか。

 ぽろっと落ちたら洒落にならないのに。


 あのあと、目覚めた彼から、腕がいつもと変わらない感覚だと言われて、すごくほっとしたのは私なのだ。

 あと、激痛の件で怒鳴られるんじゃないか、心に傷は残ってないか、と思ったけど杞憂でほっとした。彼はいつもと変わらない態度、……いや、やや目を(きらめ)かせていた。勘弁してほしい。


 ――本当によかった。


 実は、腕とか千切れた部位治すのって……初めてだったんだよね。

 ……ええ。初めてでしたとも……。


 普通の怪我はもちろん治したことがあるけど、修復については自分でもちょっと自信がなかった。

 でも今回は治癒魔法に加えて、元々ある『鑑定』『探索』スキルも使った。人体の図鑑も持っていたし、腕の治療ならいけると思ったのだ。


 リーダーに聞かれなかったから、初めて修復治癒することを伝えていなかった。

 だから、口止め目的でお金を受け取らないと言ったのは建前。ど素人の初の修復治癒では、お金を受け取るのが申し訳ないというのが本音だ。


 何だかまたゲイルさんが人体実験の被験者みたいになってしまったけど、結果よければすべてよしって言うし。

 うんうん。黙っておこう。



 ――しかし、後に自分で気づく。

 患者が痛がるのを知らなかった時点で、彼ら『羊の闘志』は薄々感づいていたようだ。「私が初めて修復治癒を試みている」ことに。


 ある日ふとそのことに気づいてから、いつ『羊の闘志』の面々が「ふざけんな! 仲間を実験に使いやがって!」と襲いかかってくるんじゃないかとドキドキすることになる……。



 ■□■ □ ■□■



 後日、今回の謎の魔物の外見について、私が代表して絵を描いた。

 ほら、『羊の闘志』さんたちは戦闘特化型だから、まだ私のほうがうまいと思うし。何より私には『美文字』のスキルがあるのだから。

 絵と文字は関係ないかもしれないけど、『美』がついている。他の方々が描くよりうまく描けているはず。

 その皆さんも目撃者なので、一緒に二階で報告する。


「結構よく描けたほうですよー」


 じゃーん、とばかりに自信満々に描いた絵を出してみた。


「………………」


 はて? 何この沈黙。


「シャルちゃんや。これはお菓子かい」


 魔物のシンプルさのせいか、サブマスには私の画力を疑われてしまった。


「ん? ……んー。この単純な姿形は似てねぇわけじゃ……?」


 リーダー。そんな歯切れの悪い言い方。

 ほら、この発光している感じや、丸みがあるけど硬質な肌とか、腕の模様とか。雰囲気出ているでしょ。


 ガタン!

 ゲイルさんが突然立ち上がった。


 …………はっ! 申し訳ないことをしてしまった。

 きっと、まだあのときの恐怖を忘れていなかったんだ。そうだよね。すごい痛かったと思うし。

 この絵を見て思い出させてしまったんだ……。


「お、俺は! こんなかわいいヤツにやられてねーかんな!!」


 激しく怒り出した。


 ――ん、何だね。この魔物が一見弱そうに見えると。

 弱そうに見えても実際こんな感じだったじゃない。

 (ぜい)(じゃく)そうで強いんだからしょうがないと思うんだけど。

 しかし元気そうだね。左腕も今までと変わりなく動いているようだし、よかった、よかった。


 左腕に注目していると、マルタさんも立って彼の頭頂部に(げん)(こつ)を食らわせ黙らせていた。

 背が高いからこそできる(わざ)だ。

 彼はその勢いのままソファへ沈む。


 そりゃあ、ゲイルさんはあの魔物から攻撃を受けたから、恐怖によって恐ろしげなイメージがあるのかもしれない。

 でも仕方ないよ。実際こうだったんだから。すごくうまいわけでも、絵心があるわけでもないけど、特徴は捉えているはず。


「何だろうなぁ。雰囲気がゆるい……ように見えるせいか……? 人形ならかわいいかもしれんが……」


 かわいい。……確かにかわいすぎたかな?


「目じゃろう。目に、こう……緊迫感がないんじゃ」


 そう言いながら目の部分をもっと陰のある雰囲気に描く男性魔法使いさん。


「おぅ。これだこれ!」


 ――確かに単純な形ながらも不気味さが出ている。


「すごい。すごく近くなりましたね!」


「………………そうだな」


 皆さんに残念な目で見られた。

 でも顔以外は特徴捉えていたよね。


 ――――やはり『美文字』は文字にしか通用しなかったか。



こちらの話は、コミック版『転生した受付嬢のギルド日誌』Chapter12

にて同様のシーンが出てきます。

ご興味ありましたら、ぜひスマホにてご覧ください。


スマホサイト マンガよもんが 転生した受付嬢のギルド日誌

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