189: 終わった寝④ ~ボクたちは諦めないよ!~
ボクは――、
ボクは、この状況がよくわかんないよ。
城壁の外にいるせいかな? なんだか寒さは感じるよ。
さっきまで燃えている魔物を相手にしていたっていうのにね。
燃えさかる雑巾を倒したから、今は寒いの?
ううん、違うよ。
思ってもみないことをいわれているからだよ。
おかしいよ……。
そうだよ、おかしいよ!
こんなの変だもん!
さっきまでボクたちは魔物相手に戦っていたよね?
ボクたち――皆で活躍して、誰もケガをしてなくて、町も東からの魔物に怯える必要がなくなったよね?
これからアーリズに戻るつもりだった、よね……?
なのに、――今はサブマスターさんたちが立ちはだかっているんだ。
燃えさかる雑巾のスタンピードを終えたときは、もしかしたらシャーロットさんたちのいる西の方でも活躍できるんじゃないかって思ったのに……。
サブマスターさんに――ううん、冒険者ギルドに、「帰れ!」っていわれているんだ。
ボクたちの意思を無視してね!
嫌だよ。アーリズの東門は暗くても見えているのに、遠く、冷たく感じるよ。
だってボクたちは目を開いたサブマスターさんを前に、なすすべもなく立つしかなかったんだ。足が動かないんだよ。
でも、ボクたちはまだいいよ。立っているんだもん。
後ろにいる学園の皆なんて、地面に座っちゃったんだ。
「皆の意気地なし! さっさと立ってよ!」
「……なっ、こっちだって、立ちたいよ。でも無理なんだ! 逆に、お前ら『キラキラ』はなんで立っていられるんだよ!?」
こんなときだから、わざわざ「『キラキラ・ストロゥベル・リボン』だよ!」ってツッコミはしないでおくよ。
それよりも……やっぱりこの状況って、ボクたちだけサブマスターさんのスキルが効いてないってこと? ううん、効果が薄いってこと。
ボクは、さっきまでずっと疑っていたあのことが、事実なんだって思えてきたよ。
「……コト、こんな状況でも諦めないんやな?」
左腕にいるワーシィが、後ろの状況を確認してから真剣に聞いてきたよ。
「諦めないよっ。ボクたちは、アーリズに戻るんだもん! だから、ワーシィ、シグナ。ボクを、支えていてよ!」
後ろの人たちは立ち上がることができない、つまりボクたちしか対抗できない。多勢に無勢ってやつだよ。
けど、それでも――それでも学園には帰らない。
ボクたちはアーリズに戻るんだ!
「ええで! コトがそう思うんならそうや!」
「わかったわ! 考えがあるのね!」
二人が支えていてくれたら、きっと間に合う。
でも、それより先にボクたちを縛ろうと、大人の冒険者さんが左右からどんどん迫ってきたよ。
どうしよう!
「もうっ! ボクたちに近づかないでよ!」
それでもボクは間に合う気がして、叫びながら自分のポンチョのポケットに手を突っ込んだんだ。
そのときワーシィとシグナも、ボクたちの両脇に向けて叫んだよ。
「せや! 縄を持って近づくなんてヘンタイのすることや!」
「変なことをしようとしているわ! キャーー! イヤーッ!」
一番近くに来ていた冒険者さんがびくっと止まったよ。
それから数人が「そりゃないぜ」って弱った声を出して、さらに数人が「本意じゃねー!」って怒ったんだ。
でも止まったんだ。
大人の冒険者さんたちの進行が鈍ったんだよ!
「よーし!」
だからボクはこの機会を逃さなかったよ。
ポンチョに入れていた物を取り出して、その蓋の位置を確認したんだ。
そのときちょうど雲が隠れて月の光が届かなくなったけど、ボクはもうその蓋をちゃんとつまんでいたんだ。
二人が「ヘンターイ!」とか「誘拐よ~!」って叫んでくれているあいだに、急いで開けたよ!
「暗くなってしまった。うろたえてないで早く捕まえてくれ! 真ん中のリーダーが何かしている!」
サブマスターさん、もう遅いよ。
ボクはこれを――万能ポーションを、一気に飲んだもんね!
「“キラキラ・リン♪ ボクらを守って――!”」