188: 終わった寝③
グラグラグラ~って揺れている。
いや、首がガクガクって……。
――あっ!!
「ひゃ……っ、ぎゃー、ごめんなさいっ!」
私は肩を揺らされていたようだ。
なぜ揺らされているのか一瞬考え、目の前のオバケ入り障壁が目に入って、事態に気づいた。
ぴったりとくっつけていた障壁の辺に、隙間が開いていたのだ。いや、その障壁の隙間は私にしか開けられないので、私がやったということだ。
ファンタズゲシュトル亜種はそこからうっかり出そうだったけど、私はその前にぴちっと閉めた。
外側にはみ出た一部が挟まれて簡単に切り離されたけど、その一部は周囲の明かりに溶けるように消えた。
「――あ~ア、あ~アァ~~――」
ファンタズゲシュトル亜種は体の一部が削れたくらいでは消滅しないし、痛みなども感じないから「出れそうだったのに惜しかったなー」とでも言ってそうな顔をして悔しそうにしている。
「おい、壁張り!」
「す、すみません!」
私の肩を揺らした騎士さんに謝る。その顔は怒っているよりかは、不安げだった。
「いや、もう深夜近いからな……。あと少しねばれそうか?」
「が、がんばります……!」
騎士さんはそれを聞いて「作業を早めろ!」と駆けていく。
私の居眠りによって、周囲は先ほどよりさらに慌しくなった。
「スケッチの進捗を報告しろ!」
「測定急げ!」
「光魔法部隊はいつでも一斉照射できるように準備できているな!?」
ファンタズゲシュトル亜種はいつまでも生かしておけないので、『魔物図鑑』に必要な記録を取り次第、光を当てて消滅させることになっている。
だから光魔法が使える人たちはファンタズゲシュトル亜種の周りを囲み、城壁の上にも数人待機していた。
どちらにしろ朝になって日が昇れば消えるのだから、私もさっきまでは日の出まで起きていられる、がんばろう! ……と思っていた。
騎士さんたちの作業が全部終わってから、私が「せーのっ」で障壁を消した瞬間、ファンタズゲシュトル亜種を討伐し、皆さんと「終わりましたね~」と喜ぶ予定だった……のだけど。
眠い――。起きてるって、つ、つらい……。
ふ、不思議だ。さっきまで眠気を感じなかったのに。
一日徹夜くらいなんとかなる、ギルドも昼から開けると聞いたから問題ない、って何も心配してなかったのに。
今だって、いくら大物の魔物が討伐されたといっても、まだ残りがいるとのことで城壁の外では戦闘している人たちもいるのに。
――眠い――――。
「壁張り職人、あと少しだからがんばって!」
今度は女性騎士の一人に励まされた。
いや、また首カックンとなったので、優しく起こされたようだ。
わ、私もなんとか寝ない方法を見つけないと。
とりあえず、立とうかな。
立っていたら、そうそう寝ないもんね。ちゃんと目を開けて……。
あ、城壁に背をつけたら楽だな~……。
なー…………。
…………。
「目が白目になってるよ」
「ハイッ……!」
優しくも鋭く注意された。
そういえば、……観賞していた皆さんはファンタズゲシュトル亜種から離れて、ついでに耳も押さえて、測定を見守っているようだ。
安全性のない障壁では、近寄れないですよね。……すみません。
…………。
あと、ちょっと、だ。
せっかく障壁で囲んで、オバケを運んできたのだ……。
なんとか、『魔物図鑑』に載せられるよう……、集められる情報や、記録を残す時間を私が稼がなくては……!
……かせがなくては、うん…………。
…………。
……、
障壁……、ファンタズ……。
……そういえば、箱に入ったオバケって……。
びっくり箱みたい……だよね~。
パカッて開いて……、びょーんて出て、びっくり~! みたいな~……。
…………。
――ハァッ! い、いけない。
(い、今のは大丈夫だったかな。う、うん、出てきてない……ん?)
「上だ! 障壁の上部が消えた!」
城壁の上で見張っていた人から伝えられた。
や、やっちゃったーー!!!
(急いで障壁を作って、蓋をして……)
だめだ、逃げられた!
蓋を作ってまた閉じようとしたものの、蓋の位置がずれて、結局隙間があいた状態になってしまった。
ファンタズゲシュトル亜種にとって十分出られる隙間だから、にゅるーんと出てきた。
なんとかずれた蓋をスライドして閉めたもののもうすでに遅く、中にはファンタズゲシュトル亜種の一部だけが残り、大部分が障壁の外に出てしまった。
「仕方がない! 光魔法一斉照……!」
私が「すみません、すみません!」と謝りながらも、もう一度ファンタズゲシュトル亜種を障壁で囲もうとし、それよりも早く周囲の光魔法部隊が構えたかと思ったら、道の角あたりから女の子の声が聞こえた。
「シャーロットさーん――!」
おまけ:学園生クイズ
カラク「ははは、これでクイズは終わりだよ。少し難しかったようだね。三問先取できなかった子は帰……」
コト「……ボク、ボク……! もう怒ったっす! こうなったら実力行使っす。やってやるっす!!」
カラク「……弱った君たちに僕が倒せるとでも? フフ、ハハハハハ!」
次回、学園生とラスボス(サブマス)の戦い!