187: 終わった寝②
大容量収納鞄を手に持ったギルマスは、新種の魔物の死体が固まって置かれた場所を一周し確認する。
「『復活』スキルのせいでパーツが多いが、全パーツ入りそうだな」
新種の魔物は、首が二つ、ゲイルさんが切り離した腕一本、首のない体部分に分かれている。本来、一度戦っただけで終わっていたならば、なかったはずの首一つと腕一本が余分にある状態だ。
ギルマスの作業を、本来なら「私も手伝います」と駆け寄るところだけど――。
「ったく、奇麗に倒せと言ったのに、この顔は何だ! へこんでんだろ!!」
とある一つの頭部分を見てとてもお怒りだったので、私はひっそりと城壁に背を付け、腰を下ろした。
前方に騎士団の観賞会、その向こうにギルマス――。よし、これで私の姿は完全に隠れた。
「ギルドマスタ~、しまうの少し待ってくださいよ。新種の魔物、もう少し見たいですよ~!」
それに冒険者たちは「新種」という珍しい魔物をまだまだ見ていたいようだ。だから私もここで待っていよう。
他の作業をしたことで気が散り、万が一、オバケを囲む障壁が一枚でも消えてはいけないからね。
「……ふあああぁぁ……」
気づいたらあくびが出ていた。
手で口を隠す暇もなかったけど、周りは魔物に夢中になっている人ばかり。誰も私のことを気にかけなかった。
今の時間は、私が本来寝ている時刻をすっかり過ぎている。
「はわ~~ぁ…………ふ」
――ね、眠い。安心してきたら急に眠気が……。
……いや、いけないいけない。
騎士団の皆さんが観察している最中だ。私も踏ん張らねば。
ファンタズゲシュトル亜種は、「亜種」とはいえ初めて見る種なので『魔物図鑑』に載せる作業をしている。
本来ならば長く保管できるようにするところだけど、さすがに大容量収納鞄に入れて保管することはできない。
大容量収納鞄は生きている物は入らないし、かといってファンタズゲシュトル系を殺すということは「消滅させる」ことと同義だ。姿かたちが消失することになる。
そしてこの魔物は光に弱い。朝日が昇るまでという時間制限もある。
だから騎士団は今、ファンタズゲシュトル亜種の体長を急いで測り、姿絵を描き、鳴き声や行動についてを手分けして記録しているのだ。
そのように忙しい騎士団の人たちや冒険者さんたちは、一人も眠そうに見えない。
皆さん夢中になっているからか、よく眠くならないなぁ……。
「…………」
――カクン――。
「……はっ……!」
今、首がかくんと落ちていた……!
危ない危ない。
ちゃんと目を開けてないと!!
目の前の騎士団の作業を見て、寝ないようにしないと。
今は、……今も、ファンタズゲシュトル亜種を計測してる……。
…………。
『魔物図鑑』に載せたいからオバケの計測をしているけど、実体がない物を測るのは大変だよね……。
顔回りを測るのも、「おおよそ」になっちゃうもんね~……。
……測りにくそうだなー……。
そうだ、測りやすいように障壁に隙間をあけてあげたほうがいいかな~~……。
それで、腕を入れたら、測りやすくなるんじゃないかな~……ふふふ。
「――あ、おい、障壁に隙間があいてるぞ!」
「壁張り! ……壁張り!? 壁……シャーロット嬢、起きろー!!」
……?
おきる……?