183: 私は、やってない④ ~円満に解決~
虎獣人さんは、所属している女性リーダーさんとその仲間たちに称賛されている。もちろん、もう一方のパーティーでも同じ光景が見えた。
――うん。
うんうんっ、よかった!
これで手柄は彼らのもの。
――私はこのまま目立たず受付嬢としてやっていける!
それにギルドの職員というのは、「魔物を討伐したぞー!」と自ら叫ぶよりも、「討伐おめでとうございます!」と慶するものだしね。
これもバルカンさんのおかげだ。
「バルカンさーん! ……あれ、私、まだ障壁の中にいたんだっけ……」
私はそのバルカンさんに近づこうとするも、目の前にある、自分の障壁にぶつかりそうになったことで今の状況に気づいた。
そういえば、奇麗なままの新種の魔物の首を守っていたのだっけ。新種の魔物が頭をごっちんと打ったあとも、そのままその中にいたのだっけ……。
魔物の首と一緒の障壁に入っているなんて、今考えたら変な状況だ。
それに、さっきよりもずっと血なまぐささがこもっていることに気づいた。そりゃあ、生首と一緒に観戦していたもんね……。
とにかく肝心のペリドットは……大丈夫、傷はついてない!
バルカンさんは呼ばれたことに気づいたのか、こちらへ足を運んでくれた。
「あとは運び出し要員が来るまで待つだけだ。シャーロットはファンタズゲシュトルを連れて城壁に帰ったほうがいいんじゃねぇか? ギルドマスターが来たら、面倒だろ?」
「あ、ギルマス……、確かに……」
ギルマスが来たら、奇麗に倒せなかったことで怒られそう。
「それでは戻ります……が、あのっバルカンさん、先ほどは助け舟を出してくださってありがとうございました!」
「……ん、まぁ、……シャーロットが目立ちたくねぇ理由に思いいたったからな」
バルカンさんはわけ知り顔で、こっそり囁く。
「確かにあんまり目立つと、まずくなるかもしれねぇよな……? その、いろいろとよ」
「う、あ、はい。そういうことなのです……」
バルカンさんは、私が治癒魔法の威力を隠していることを思い出したのだろう。
事情を知っている人がいるのはとてもありがたいなぁ。
今回のことはとても助かったから、今度は『羊の闘志』さんたちが困ったとき、私が協力したい。
「しかし、……本当にいいんだな? 魔物図鑑に載るなんて人生に一回あるかないか……」
まるで最後の確認をしたかったかのようなバルカンさんに、私ははっきり答えた。
「バルカンさん。――私は、ただ皆さんの戦闘を見ていたんです。障壁で自らを囲んで、安全性を維持して見ていただけなんです」
「ん……おぅ」
「すると新種の魔物は、うっかり足を滑らせて頭をごちんと打ち、動きが止まったところを勇ましい冒険者二人が仕留めたんです!」
バルカンさんはこくりと頷いた。
「シャーロットがそれでいいんなら、俺ぁもう何も言わねぇよ」
「はい!」
さてでは、新種の魔物の首を守っていた障壁は消そう。
近くに魔物はいない……ん、あれ? 何だろ……この、足元が何だか小刻みに揺れている感覚があるのは……?
「……お~? ペリドットの破片が落ちたぞ……?」
「ゲイル……、いじってポロポロ落とすんじゃないよ」
ゲイルさんのつぶやきに、マルタさんがツッコミを入れた。
「ちっげーよ! 地面が揺れて……ほらっ、何もしなくっても落ちてるぞ」
頭にまだかろうじて残っていたペリドットがあったのかな? それも小さな揺れでポロポロと崩れちゃったみたいだ。
私もそれが見えた。
(何か……最近似たような光景を見たような……。そうだ、ここに来る前に城壁の上で見た、アルゴーさんの鎧が落ちる様に似ている……)
しかし、はっきり思い出す余裕はなかった。
その小さな揺れは近くなるにつれ大きな音に変わり、地面の揺れも激しくなってきたからだ。
「――気をつけろー! グラスアミメサーペントが向かってくるぞ!!」
周囲にまたピリッと緊張が走った。